佐藤建仁、野中良祐 合田禄、朴琴順
2014年8月21日02時33分
広島市北部に大きな被害をもたらした土砂災害。もろく崩れやすい地質と、短時間に多量の雨を降らせる気象現象が重なって引き起こされたと見られる。防災や気象の専門家は、今回と同様の土砂災害が全国各地で発生する危険性があると指摘する。
濃い緑の木々が生い茂る山肌に、鋭い爪でひっかいたような深い赤茶色の線が無数に広がる――。20日午後、本社ヘリ「はやどり」で、京都大防災研究所の千木良(ちぎら)雅弘教授(応用地質学)と被災地を上空から見た。
広島市安佐北区から南下すると、山の尾根の少し下を起点に山崩れが多数発生。土砂を巻き込んで一直線に山裾まで下っていた。長いものは1キロメートルほど。6、7本の土石流が途中で束になって一つになり、堤防を乗り越えて川に流れ込んでいる。斜面を切り開いて造成されたと見られる宅地も、無残に土砂にのみ込まれていた。「山がくぼんで沢になっている場所がほとんど崩れている」と、千木良教授は驚く。
地上から被災地に近づくと、さらに被害が詳細に見えてきた。広島市安佐南区の八木地区では、なぎ倒された家屋の周りに、見上げるほどの大きな岩がごろごろと散乱している。一帯は沼のようだ。ひざまで達するぬかるみが所々にある。水を含んで、足にざらりと重くまとわりつくのは、花崗岩(かこうがん)が風化して出来た、粒の小さい「まさ土(ど)」だ。
20日昼過ぎに現地調査に入った広島工業大の田中健路准教授(気象学)は「まさ土は広範囲に流れて、大きな岩石が家屋を壊した」と話す。
田中准教授によると、今回の災害ではまず、粒の直径が1ミリに満たないまさ土で出来た表面の地層が崩れる「表層崩壊」が起きた。その後、下に埋もれていた岩石が流れ出し、家屋を押しつぶしたとみられる。
新潟大災害・復興科学研究所の福岡浩教授(地すべり学)は「これまでの雨に加えて、短時間の集中豪雨が引き金になった」と指摘する。広島市北部では20日未明、1時間に100ミリを超える雨量を記録。そのうえ今月上旬の台風11、12号の影響で長雨が続き、地中に大量の水分を含んでいたとみられる。
広島大の土田孝教授(地盤工学)は「雨量のデータをみると、非常に狭い範囲で急に強い雨が降り続いているのが、被害が大きくなった原因だろう」と分析する。雨量計のデータは誰でもネットで閲覧できるが、「このような雨の降り方だと、これまでのような警報の出し方や避難勧告は間に合わない。これまでの考え方を変える必要があるのではないか」と指摘する。(佐藤建仁、野中良祐)
■山際の宅地、各地に
豪雨に弱い、もろい地質は、広島市に限った話ではない。「まさ土」は神戸市や岡山県などにも多い。雨の条件さえそろえば繰り返し崩壊するという。
「花崗岩のほかに、火山に関連する地質ももろい。引き続き各所で警戒する必要がある」と下川悦郎・鹿児島大特任教授(砂防工学)は警鐘を鳴らす。火山由来の「シラス」や「ボラ」などと呼ばれる地質も災害が発生しやすい。
これらを含む「特殊土壌地帯」は全国で約5万8千平方キロで、国土の約15・3%を占める。鹿児島、宮崎、高知、愛媛、島根の各県の全域のほか、静岡や兵庫、広島などの各県の一部に広がっている。
東京都大島町(伊豆大島)では昨年10月、台風の影響で溶岩の層の上に降り積もった火山灰層が薄く広く崩れて泥流となり、集落を襲った。死者・行方不明者は39人にのぼった。
崩れやすい斜面のすぐそばまで住宅が建つようになったことも被害を大きくする要因になる。東京電機大の安田進教授(地盤工学)は「本当は山際まで開発しないのが合理的だが、日当たりがよかったり、水を取りやすかったりするため、人が住んで危険なところがたくさんある」と言う。
国土交通省も「新たな宅地開発が進み、それに伴って土砂災害の発生するおそれのある危険な場所も年々増加している」と認める。これまでに都道府県が指定した土砂災害警戒区域は全国で約35万カ所に及ぶ。
京都大防災研究所の釜井俊孝教授(応用地質学)は「高度成長期以前には今回のような災害は少なく、都市化がもたらしたと言える。土地の性質をよく理解した上で住まいを決めることが重要だろう」と話す。(合田禄、朴琴順)
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