(4) 金融危機の下での銀行国有化
2000年の預金保険法改正で盛り込まれた「金融危機対応」の制度的枠組みと、その下で国有化された足利銀行のケースを説明すると以下のとおり。
預金保険法第102条は、特定の金融機関の経営破綻等がわが国あるいは当該金融機関が業務を行っている地域の信用秩序の維持に極めて重大な影響を及ぼすような場合に、内閣総理大臣が、金融危機対応会議の決議を経て、①金融機関に対する資本増強(資産超過の場合)、②破綻または債務超過金融機関に対するペイオフ費用を超えた資金援助の実施(債務超過の場合)、③債務超過銀行の一時国有化(債務超過の場合)、のいずれかの例外的措置を適用することができる、と定めている(こうした対応に要する財源としては、預金保険機構による借入や政府保証付債券の発行による。また損失処理については、金融機関からの負担金の徴収、政府による財政措置が想定されている)。
上記①のケースは「第一号措置」と呼ばれるが、金融機関は預金保険機構と連名で、内閣総理大臣に資本増強決定の求めを行う。このケースは、過小資本に陥った金融機関に対して資本増強を行おうとするもので、破綻処理とは異なる。金融機関は内閣総理大臣に経営健全化計画の提出を行い、実行状況が厳しくチェックされる。
上記②のケースは、「第二号措置」と呼ばれ、過去、預金の全額保護の際に行われた特別資金援助と同様の措置となる。裁判所が関与することなく、金融整理管財人が選任され、資産査定の実施、不良債権のRCCへの譲渡、資金援助、受け皿への営業譲渡等を経て、原則として2年以内に破綻金融機関の管理を終了する。
上記③のケースは、「第三号措置」と呼ばれ、従来の金融再生法に基づく長銀、日債銀の国有化と同様の一時国有化措置である。既存株式は無価値となり、預金保険機構が金融機関の全株式を取得し、国有化銀行は「特別危機管理銀行」となる。国による銀行役員の選任・解任、新役員による旧経営陣への責任追及、受け皿への営業譲渡等を経て、「可能な限り早期に」管理を終了することとされている。
なお、りそな銀行には2003年5月の金融危機対応会議を経て「第一号措置」が適用され、同年6月に優先株式及び普通株式の引き受けによる総額1兆9,600億円の資本増強が実施された。
また、足利銀行には、2003年11月の金融危機対応会議を経て、「第三号措置」が適用され、預金保険機構が足利銀行の株式を全て取得する(特別危機管理銀行化)こととなった。
足利銀行について詳しく見ると、2003年9-11月の金融庁検査を経て、同行が債務超過であることが判明したが、同行の基盤地域である栃木県における預金者や貸出先の多さ、融資シェア等を勘案し、一時国有化後、経営体質の改善、企業価値の向上を図った上で、円滑に受け皿へ譲渡することを念頭に第三号措置が取られることとなった。なお、1998年、1999年に足利銀行(あしぎんFG)に注入されていた優先株1,050億円はほぼ毀損されることとなる。
足利銀行では、新経営計画が2004年2月に策定され、地域金融の円滑化、業務運営の適切性確保(業務監査委員会と内部調査委員会の設置)、ガバナンス強化(経営陣の刷新、アドバイザリーボードの設置)、経営合理化等が図られつつある。預金保険機構は業務監査委員会、内部調査委員会へのオブザーバー参加を行っている。また、足利銀行の融資先のうち事業価値がある企業については、資産処分ではなく債権放棄、出資等の支援により、事業を存続させて回収を極大化するため、企業再生への取り組みも積極化されている。具体的には、産業再生機構が栃木県の温泉旅館を対象とするファンドを組成、またRCCが債権者間の調整機能を提供するなど、様々な形での取り組みが行われている。
なお、足利銀行の受け皿の選定に向けたスケジュールは、現時点では決まっておらず(過去の長銀、日債銀のケースでは、特別公的管理終了まで1年半程度を要した)、当面、融資先企業の再生等を通じた銀行の企業価値向上のための努力が続けられることになる。