ガザの人々の悲運
戦闘を収束するためには、イスラエル・パレスチナ双方の国家共存を実現するしかない、というのがイスラエル・パレスチナ双方と国際社会大多数の考えだ。
和平への合意は過去にも何回か確認されたが、常に右派、強硬派の妨害で実現しなかった。その間イスラエルでは一層右傾化が進み、ガザ地区ではイスラエルの存在を認めないハマスが台頭、実権を握ってきた。
この過程でガザをはじめ、パレスチナ全地域でイスラエル軍による経済活動をはじめ生活全般の統制、自由の制限が強化され、人々の基本的権利も生活水準は向上するどころか悪化してきた。
イスラエルのパレスチナ人の基本的権利軽視政策の酷さに、ヨーロッパ各国市民は目を逸らせていることは出来なかったと言える。
(イスラエル政府やユダヤ人団体の中には、イスラエル政府のパレスチナ人抑圧批判、人権抑圧批判をユダヤ人批判(anti-Semitism)と同一視したり、すり替えたりして批判的報道や言論を抑えてきた。
ヨーロッパ各国はイスラエルの型通りの反論を意識し、反ユダヤの言動には極めて慎重だ。イスラエル批判の抗議デモがシナゴーグの近くを通ることを認めず、ユダヤ人・ユダヤ施設への攻撃には容赦しない。そうした中での強い抗議デモが展開された)
今回、在外ユダヤ人の間にもイスラエル政府批判が強まっているのはこうした経緯がある。
NYタイムズのコラムニストで元NYタイムズのベルリン支局長・シオニストを辞任するロジャー・コーエン(Roger Cohen)氏は、双方の言い分を並置する表面的な報道を批判し、歴史的経緯を繰り返し人々に想い起させることの必要性をいう。
氏は指摘する。“イスラエルは建国以来、戦闘に勝利する度に領土を拡大、67年境界線も無視するように一方的に入植地を拡大してきた。他方分離壁を作りパレスチナ人の基本的な権利、自由な行動を制限してきたことがパレスチナ人の不満の根底にある。シオニズムは変質してしまった、などと”。
コーエン氏が指摘するように、48年のイスラエル建国以来、パレスチナは解放を叫ぶアラブ主要国とイスラエルの間の戦争が繰り返された。その度にイスラエルは勝利し、“占領地”を広げ、右派が大半を占める入植地を拡大してきた。
その度パレスチナ人は住む家を追われ、農地、放牧地を奪われ、そして自由を奪われてきた。
21世紀初頭の“第三次インティファダ(抵抗、抗議、などの意)”と自爆攻撃でイスラエル側にも大勢の死者が出たのを機に、パレスチナの“領土”に入り込むように分離壁が作られた。
自分の住む地域から一歩外に出るにもイスラエル軍の厳しい検問所を通らねばならない。まさに巨大な監獄に入れられたような生活だ。
ハマスの自暴自棄ともいえる対イスラエル攻撃には、こうしたイスラエルの国際法違反の厳しい占領状態、現地の人たちの基本的権利無視の状態がある。
メディアは、パレスチナ人の置かれた絶望的な状態にもっと理解を示して報道すべきだろう。
こんな占領が何時までも続くのは許されないのだ。
しかし、ネタニヤフ(Benjamin Netanyahu)首相やポロゾール(Ron Prosor)国連大使をはじめ、イスラエル政府要人の発言には自国の安全保障を主張するだけで、パレスチナ人の大勢の犠牲者に対する哀悼の念はほとんど見られず、同情さえも窺えない。
戦闘を無期限停止させ和平を実現するためには、(現状では殆ど不可能に近いが)やはりアメリカが真剣になり、主要国も同調し、イスラエルに圧力をかけること。そしてこれまでほとんど顧みられなかったパレスチナ人の基本的権利を尊重し、パレスチナの大多数が納得する形で共存できる体制を確立するしかない。
(大貫康雄)
PHOTO by OneArmedMan (I took this picture) [Public domain], via Wikimedia Commons