朝日「吉田調書スクープ」を捏造だと書いた門田隆将の功罪

天木 直人 | 外交評論家

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門田隆将と名乗る一介のノンフィクション作家が、どういう動機かは知らないけれど、あの朝日新聞の近年まれにみる調査スクープ報道である「吉田調書」について、こともあろうに、何の関係もない慰安婦問題を持ち出して、あの時と同じように、この朝日のスクープは捏造だと書いた。

この門田隆将と、その記事を大きく掲載した週刊ポスト(小学館)、週刊フラッシュ(光文社)は自らの責任の重大さにどこまで気付いているのだろうか。

いずれにしても、門田と週刊ポスト、フラッシュが軽率にも提起した問題は、国民にとっては白黒つけさせて、どっちかウソをついたほうを、メディアから永久追放させなければいけない。

それほど重要な問題であるからだ。

周知のように朝日が、決して外部に漏れることのない故吉田昌郎元福島第一原発所長の手になる事故直後の調書をスクープ報道して世間を震撼させたのは5月20日の朝刊だった。

その調書のキモは「事故直後に第一原発事故現場にいた所員が吉田所長の命令に背いて、第二原発に撤退してしまった」という箇所だ。

これが本当なら、もはや東電はその無責任さを問われ、国民の怒りの中でたちどころに潰れる。

生き残りなどあり得ない。

安倍政権が強行しようとする原発再稼働も吹っ飛ぶ。

それほどの大スクープである。

だからこそ菅官房長官は激怒し、あの悪名高い特定秘密保護法案まで持ち出して、吉田調書を漏洩した犯人探しと厳罰を命じたのだ。

近年まれにみる朝日の調査大スクープである。

しかも朝日は門田の言うような大キャンペーンを繰り返しているのではない。

朝日も、また今や御用メディアに成り下がっている。

だから、こんな安倍政権を直撃する大スクープを朝日としてキャンペーンする事にはためらいがある。

しかし、この大スクープをものにした記者のジャーナリズム魂と大スクープの価値の大きさに背中を押されて、一回限りの報道にするには惜しいと、遠慮がちに書いているのだ。

それを、門田という一介のノンフィクション作家が、どういう思惑からか知らないが、よりによって、原発とは無関係の従軍慰安婦問題を持ち出し、同じ朝日の捏造だ、と書いた。

その罪ははかりしれない大きさがある。

なぜか。

福島原発事故の責任を国と東電に正しくとらせる、という問題は、これからますます大きくなる、この国の命運をかけた一大政治問題であるのに、それから目をそらす反国民的役目を果たすからである。

それを一介の作家と週刊誌があの程度の取材で、あの程度の論法で捏造だと断じたのだ。

もしそれが確証のないものなら、門田と週刊誌は、作家活動停止や廃刊だけでは済まない責任を国民から取らされることになる。

そうでなければいけない。

もし、朝日の大スクープが捏造されたものだとしたら、朝日の責任はさらに大きく、朝日は潰れる。

私は朝日なんか潰れたほうがいいと思っている読者の一人だから大歓迎だ。

というわけで、この門田が朝日に売った喧嘩は大歓迎だ。

どっちが勝っても負けても、国民にとってはプラスなのだ。

重要な事は白黒つけることだ。

間違っても、「死人に口なし」のせいにして、うやむやで終わらせないことだ。

そのためには、特定秘密保護法案の情報開示を菅官房長官に求めることだ。

そして、門田の取った勇敢な行為には大きな功績がある。

今こそ情報公開を拒否しようとする菅官房長官の暴挙を責め、この門田と朝日の生き残りをかけた審判を国民が公平に下せるように、吉田調書の全文の公開を大手を振って求めるのだ。

拒否できるはずはない。

これこそが門田の一大功績である。(了)

天木 直人

外交評論家

2003年、当時の小泉首相に「米国のイラク攻撃を支持してはいけない」と進言して外務省を解雇された反骨の元外交官。以来インターネットを中心に評論活動をはじめ、反権力、平和外交、脱官僚支配、判官びいきの立場に立って、メディアが書かない真実を発信しています。主な著書に「さらば外務省!」(講談社)、「さらば日米同盟!」(講談社)、「アメリカの不正義」(展望社)、「マンデラの南アフリカ」(展望社)。

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