事例紹介
現場でセルフ型のデータ分析、Tableauがリクルートにもたらした効果とは?
(2014/8/21 06:00)
米Tableau Softwareは19日(米国時間)、同社のBI分析ツールの最新版「Tableau 8.2」を発表した。新バージョンの最大の強化ポイントはMac OSへの対応だが、これによりTableauの特徴である“ストーリーの共有”がクリエイティブ系のスタッフなどとも可能になり、「コラボレーションの範囲が大きく広がった」と既存ユーザーからも好評を博しているという。すでに日本でも提供が開始されており、導入企業も着々と増えているようだ。
Gartnerのマジッククアドラントでも高い評価を得るなど、数あるBIツールの中にあってTableauは急激に市場シェアを伸ばしている。国内での導入企業数も400社を超え、昨年比でおよそ4倍の伸びになるという。ビッグデータブームなどの影響もあって分析市場全体が大きく拡大しているという背景もあるが、Tableauが劇的な成長を遂げている最大の理由は、「データでストーリーを伝える」ことにこだわった独特のインターフェイスが、ビジネスユーザーをはじめとする現場のニーズを的確にとらえているからだといわれている。
Tableauのユーザーエクスペリエンスをビジネスユーザーはどのように評価しているのか。本稿では7月15日に行われた「Tableau 8.2 Launch Roadshow - Tokyo」で発表されたリクルートライフスタイルの採用事例から、Tableauが現場のユーザーに支持される理由を探ってみたい。
リクルートがTableauを選んだ理由
発表を行ったのはリクルートライフスタイル ネットビジネス本部 ディベロップメントデザインユニット アーキテクトグループ 前田周輝(ひろき)氏。リクルートグループといえば、世界でもトップクラスのHadoop導入事例を誇り、国内屈指のビッグデータ活用企業として知られている。だがそうした評価とは別に、グループ内では「もっと意思決定スピードを上げたい」というニーズが絶えず発生している。
前田氏は「ビッグデータがグループ内に蓄積されるようになり、専門部署に分析依頼が集中するようになった。つまりビッグデータが専門部署にたまるようになり、分析スピードが上がらなくなる。これでは意思決定スピードは上がらない」と現状の課題を挙げ、これを解決するには「アナリストやエンジニアなど専門家に分析を頼る“依頼型リレー体制”から、現場の担当者が自ら当事者となって分析し判断できる“セルフ型分業体制”に移行していく必要がある」と説く。ビッグデータを専門家のものではなく、当事者のものにすることが重要という考え方だ。
リクルートライフスタイルでは、“セルフ型分業体制”を実現するための“プロジェクト・シューマッハ”を遂行するため、既存のデータウェアハウス(Netezza)とTableauを組み合わせたセルフ用データマートを構築し、基盤を刷新。BIツールとしてTableauを選んだ理由としては、以下の3点を挙げている。
・セルフ(自由)とガバナンス(統治)のバランスが良い
・インスタント分析がとにかく速い
・ユーザーフォーラムが熱い
「他のBIツールもいろいろ試したが、Tableau以外は分析にどうしても時間がかかり、変更が反映されるのに時間がかかる。また経営層などに対して、従来なら“来週までには”としていた分析結果をその場で見せることができる。さらにユーザー自身がコミュニティを作ってTableauに積極的に要望を出しているので、“あればいいな”と思う機能ばかりが追加されているところもいい」(前田氏)。
現場のユーザーに寄り添う分析
リクルートライフスタイルが提供するサービスには、それぞれの開発や運営にプロデューサー、集客/CRM担当、UI/UX担当、営業など、さまざまなビジネスユーザーがかかわる。Tableauはこうしたユーザー自身がどんどん手を入れられる点が大きな魅力だと前田氏。「Tableauは個々のユーザーの目標に寄り添うように使える。以前は週次で出していたレポートが日次で出せるようになった」と話す。
例えば、あるプロジェクトのUI/UX部門では、サイトの任意の部分を変えることでページビューやCTRがどのように変化するかA/Bテストを実施。この際、併用している「Adobe SiteCatalyst」のアクセス解析データをTableauと連携させ、A/Bテストを回している。これにより、非常に迅速にA/Bテストを可能とし、リアルタイムで結果を得られるので現場でも好評という。
「SiteCatalystのデータはいつでもHadoopから出せるようにしているので、ある程度の中間データがあればいつでも分析を開始できる。常にデータを“Tableau-Ready”な状態にしておくことが大切」(前田氏)。
リクルートライフスタイルのように、サービスの改善を常に行っている会社では開発のスピードが最優先事項になる。Tableauは誰もがコミットしやすいツールであるため、開発のサイクルを速く回すという目的に非常にフィットするのだ。かわりに精度が犠牲になることもあるが、「スピード感と精度はトレードオフ」としてある程度は受け入れているものの、「検算は大事。1つのプロジェクトにつき、2、3個はどうしてもセルの間違いなどが発生するが、これを丁寧につぶしていく作業も必要」(前田氏)と、スピード感を優先しつつも精度にも目を配る必要性を強調する。
セルフ分析を図るには“教育”よりも“学習”を
もっともいくら“使いやすい”とされるTableauでも、最低限のユーザーリテラシは必要になると前田氏は指摘する。「ディメンションとメジャーをきっちり分けて書けるユーザーにしか、Tableauを渡さないことにしている。ディメンションマップは観点の整理に欠かせない、いわば開発と分析のよりどころともいえる存在。逆に言えばディメンションマップはTableauを使う資格があるかどうかのリトマス試験紙となっている」(前田氏)。
だが、その段階をクリアしたユーザーであれば、Tableauによってできることは格段に広がっていく。現在、リクルートライフスタイルでは分析項目の拡張においてもセルフ化を推進しているという。Tableauユーザーであれば、Excelとの結合や計算フィールドの追加ができるようになるが、さらに慣れていくとSQLで追加集計も行えるようになる。バージョン8.2ではセルフ化を推進する「データブレンド機能」が追加され、「セルフでできることがますます広がる期待の新機能」と前田氏の評価も高い。
一方で、分析の複雑度が上がるとデータサイエンティストなどの専門職に任せることが増え、ビジネスユーザーの利用者数が少なくなるという傾向になりやすい。セルフで分析できるユーザーを一定数保つためには「インフルエンサーにあたるユーザーを集中トレーニングし、教育ではなく学習する環境を整えることが重要」と前田氏は指摘する。
この場合のインフルエンサーとは、アナリスト、プロデューサー、マーケターなどが相当する。「ビッグデータに直接触れてほしいユーザーを中心に(Tableauを)定着させていきたい。定着させるにはプロセスが必要で、活性度を見ながら調整していく」と前田氏は言うが、この場合の活性度とは、
・データソースの拡張の依頼
・計算フィールドのQ&A
・サーバーへのパブリッシュ数
・他サービスの閲覧権限の要請
で定義されるという。「使い込んでいくにしたがって、ほかのユーザーがどんなふうに使っているかが気になりはじめたり、サーバーへのパブリッシュが増えてくる。これまでは粒度にやや不満があったが、バージョン8.2ではサーバーのログが取れるようになったので、組織への定着が図りやすくなった」(前田氏)。
リクルートライフスタイルでは今後、Tableauを適用する事業/業務を拡大し、データソース開発/運用の効率化、ユーザートレーニング、レポートビジュアルの洗練、RやSPSSと連携させた予測レポートの作成などにも利用していくとのこと。Tableauによって現場のユーザーによる分析のセルフ化が進めば、それはそのまま開発のスピード化につながり、より多くのサービスがより速くローンチされることになる。Tableauによるセルフ分析を駆使した現場のビジネスユーザーがどんな新しいサービスを生み出していくのかに期待したい。
URL
- Tableau Software
- http://www.tableausoftware.com/ja-jp
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