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日本には、まだまだVCの力が必要だ:日本の若きヴェンチャー・キャピタリストが見据える「未来」

日本にも数えるほどしかいない独立系ヴェンチャーキャピタリスト。そのなかで、日本に変革をもたらそうと日々奔走している若きヴェンチャーキャピタリストが佐俣アンリだ。最初のファンドを立ち上げてから3年目となったいま、彼が見据える未来について話を訊いた。

 
 
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TEXT BY SHINTARO EGUCHI
PHOTOGRAPHS BY YOICHI ONODA

佐俣アンリANRI SAMATA
1984年埼玉県生まれ。ヴェンチャーキャピタリスト。慶應義塾大学経済学部卒業後、リクルート メディアテクノロジーラボにてモバイルコンテンツの事業開発、またリクルート初のソーシャルアプリの事業立ち上げを担当。同社退社後、クロノスファンド、EastVenturesに参画。クロノスファンドとしてフリークアウト、ハイパーインターネッツ(CAMPFIRE)、みんなのマーケット、カンムの立ち上げを創業から一貫して行う。また、個人としてラクスルを創業からのサポートも手がける。2012年5月、ヴェンチャーキャピタルファンドANRI立ち上げ。

──最初のファンドを立ち上げてから、3年目に突入しました。これまでで何か心境の変化はありましたか?

自分自身のVC(ヴェンチャー・キャピタル)をつくりたいという初期衝動に駆られながら、先輩ヴェンチャーキャピタリストたちから色々と学びながらここまでやってきました。しかし、立ち上げたはよかったものの、さて、そのあとどうする?ということを昨年末、悩んだのです。

これまでに、多くの起業家たちと創業期を経験し、VCとしてさまざまな経験をさせてもらいました。投資先の多くも順調に成長していて、ありがたいことにファンドとして一定の成果を出せるかもしれません。ここで、投資家としてのいったんのゴールを決めることもできるんですが、それはビジネスという山の頂を目指すことから降りることを意味します。けどそれって、いままさに一緒に戦うために投資している18人の起業家たちに対して失礼だと思ったんです。たかだか30前後の自分が人生をリタイアしたおじさんになっていいのか、って。自分は、これからも常にビジネスをつくっていきたいと、改めて自分自身を見つめなおした期間でした。

──それが、2つ目のファンド「ANRI2号投資事業有限責任組合」のスタートにつながるんですね。その狙いはなんでしょうか?

すでに、新しいファンドは10億円ほど集まっていて、規模も20億円を目指して大きくしていきます。この新しいファンドを立ち上げるときに決意したのは、「世界一のVCを真面目にやろう」ということです。一緒に戦っている起業家たちが世界一を目指すなら、ぼくも世界一のVCを目指し、仲間たちと一緒に未来をつくっていこうと決めました。

──世界一のVCを目指すということですが、具体的には意味でしょうか?

世界一と言ってはみたものの、現時点でなにをもって世界一のVCと言えるかはわかりません。ぼくが憧れていた2006年当時のシリコンヴァレーにいるVCたちも、いまでは組織や牽引している人たちの様子もさま変わりしています。Yコンビネーターも、創業時と違いいまではシリコンヴァレー以外にもブランチをつくろうとしていて、目標としている人たち自身も、考えや時代の流れのなかで変化しつづけているんだと感じました。彼らも人間ですからね。

──世界を目指すにあたって、どういった目標を見据えていますか?

ぼくらがやろうとしているのは、スタートアップという若くて優秀な人たちがスモールチームと小資本で取り組む戦い方と、インターネットといういまだ進化し続けているテクノロジー。この2つのアプローチで社会問題を解決することなんです。アメリカにいる起業家たちやVCたちは、本気で世界の社会問題に対して、どんなソリューションを提案すべきかを日々考えています。それってかっこいいじゃないですか。そういう存在にぼくらもなりたいですね。

──佐俣さんが考えるVCって、投資というより社会課題解決のための組織ということですか?

投資という方法をもとに、社会課題解決のためのストラテジーを組む人、という感じでしょうか。いわゆる金融機関としてのファンドとはイメージが違うかもしれません。

──社会課題解決の組織というと、一般的にはNPOなどを連想しがちですが、そうではないんですね。

日本では、株式会社とNPOという存在が全く違うものとして語られがちですが、アメリカではイーロン・マスクが宇宙や電気自動車の分野を株式会社という組織でスケールさせている一方、eBayの創業者ピエール・オミダイアが電子フロンティア財団やNPOを設立したり、PayPal創業者のピーター・ティールは様々なファンドを組成したりと、それぞれの目的にマッチした組織をつくっているんです。

──たしかに、株式会社とNPOというのは利益分配や組織形態が違うだけであって、事業をつくるということは本来共通しています。

みんな方法は違うけど、ゴールは同じはず。もっと言えば、スタートアップという方法は小資本から始めて大きな組織や既存体制をハックする方法で、リーンスタートアップなどの手法は、もともと優秀な人たちが既存のシステムに対抗するために編み出したもの。本来は、NPOなどの組織に向いている考えでもあるんです。株式会社というのは、お金というわかりやすいインセンティブがあり、ガヴァナンスとして組織しやすいし会社法というルールもきちんと存在している。ぼくも、社会課題解決のヴィークルとしてファンドを選んでいるだけなんです。

──つまり、世界一というのはどれだけ社会課題を解決したか、ということですか?

ファンドの総額、リターンの大きさとか色々とありますが、やはり社会に対してどれだけインパクトを残せたか、ということになると思いますね。

 
 
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