アルコール依存:女性急増 悩み抱え孤立、酒量増え

毎日新聞 2014年08月21日 07時11分(最終更新 08月21日 08時46分)

 全国で推計100万人を突破したアルコール依存症患者。中でも女性患者の急増は深刻だ。背景には、女性の社会進出や、子育てや介護に追われて支援を受けにくい家庭環境に加え、女性の消費拡大を狙う飲食店やメーカーの競争があるとされる。専門家は「飲酒の問題を個人の責任にせず、社会全体で支えることが必要だ」と訴える。【清水健二】

 依存症の女性を対象にした関東地方の自立訓練施設で生活支援員として働く女性(51)は、かつて自身も飲酒の問題を抱えていた。23歳で長男を産むと、育児不安などで昼間から酒に手が伸びるように。間もなく夫と始めた自営業も忙しく、酒量が増えた。夜になると家事の前に「ガソリンを入れるように」焼酎を一気飲みした。手が震えて家事を満足にできなくなり、3人目を出産後、夫から離婚を告げられた。

 「孤独感から酒に走り、周囲に迷惑をかけては孤立を深めた」と、当時の悪循環を振り返る。17年前、地域で当事者が経験を語り合う自助グループ「AA(アルコホーリクス・アノニマス)」(窓口03・3590・5377)に参加、ようやく自分を見つめ直すことができ、飲酒への欲求も消えた。

 飲酒の相談に来る女性たちは、アルコールやうつ病、摂食障害など、複数の問題が絡み合うケースが多くなっている。女性が依存症になると、性被害やDV(家庭内暴力)などに巻き込まれる危険性も高まるが、対応できる窓口は不足気味だ。

 依存症に気付かなかったり、認めたがらなかったりする女性も多い。東京都の元高校教諭(70)は、同僚と未明まで深酒しても「時代の先端にいる自立した女性」と自身をイメージし、対人関係に支障が出ても問題を直視しなかった。47歳で心身の不調が限界に来て退職したが、原因ははっきりせず、アルコール依存を自覚したのは15年後だったという。

 飲酒する男性の割合は1980年代に9割に達した後、最近は約8割で推移しており、女性が新たな消費拡大のターゲットになっている。家庭内の飲酒が表面化しにくい側面もある。一方、6月には依存症の治療や防止に国の責務を明記した「アルコール健康障害対策基本法」が施行された。NPO法人「アルコール薬物問題全国市民協会」の今成知美代表は「体格が小さい女性は男性よりアルコールの分解が遅く、依存症になりやすい。医療や行政は、女性特有の問題にも配慮した治療や相談体制を作るべきだ」と指摘する。

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