「インターネット帝国の時代」。英オックスフォード大学のインターネット研究所(OII)は昨年、1枚の世界地図を発表した。国ごとに最もよく使われるウェブサイトを調べたもので、米グーグルは欧米を中心に63カ国、米フェイスブックは中東や中南米を中心に50カ国でトップだった。
一見すると、グーグルとフェイスブックという2つの「帝国」が拮抗しているが、各国で2番目によく使われるウェブサイトをみると、グーグルの強さが際立つ。フェイスブックが首位だった50カ国のうち、36カ国ではグーグル、残り14カ国ではグーグル傘下の動画サイト「ユーチューブ」がそれぞれ2番手につけているからだ。
撤退を余儀なくされた中国、独占的地位の乱用に監視の目を光らせる欧州――。世界には「鬼門」も少なくないが、グーグルの世界制覇への野望は衰えていない。
「世界中の情報を整理し、世界中の人々が使えるようにする」というビジョンを掲げる同社が次に狙うのが「Next Five Billion(次の50億人)」。アフリカや中南米など通信網の整備が遅れている地域で暮らし、ネットへのアクセスを持たない人々だ。
今年6月、サンフランシスコ。毎年恒例の開発者会議で、グーグルは価格を100ドル以下に抑えたスマートフォン(スマホ)「アンドロイド・ワン」を発表した。グーグルの基本ソフト(OS)「アンドロイド」を搭載したスマホやタブレット(多機能携帯端末)の利用者数は世界で10億人を突破したが、新興国に限れば大半の人はまだスマホを持っていない。
こうした市場では、アンドロイドを採用した中国やインドのメーカー製の低価格スマホが幅をきかせているが、品質や性能はバラバラ。「安さを追求するあまり品質が犠牲になれば、(ユーザーもメーカーも我々も)誰も得しない」とアンドロイド部門のヒロシ・ロックハイマー副社長はいう。グーグルがハードウエアから設計することで需要が伸びる低価格スマホの「(価格と品質の)最適のバランスを探る」のがアンドロイド・ワンの狙いだという。
まずインドの端末メーカー、マイクロマックスなど3社と提携し、今秋から同国でアンドロイド・ワンの販売を開始する。ロックハイマー氏は「(インドは)始まりにすぎない。今後、さらに多くの国で発売することになる」と話す。
フェイスブックが中心となって昨年設立したネットの普及団体「internet.org(インターネット・ドット・オーグ)」によると、世界の人口の85%は携帯電話ネットワークの圏内に住んでいるという。つまり、手が届く価格のスマホと手ごろな料金のネットサービスがあれば、アクセス問題はかなりの部分まで解決できることになる。
では、残りの15%にどうやってネットを届けるのか。グーグルが切り札と位置づけるのが、通信機器を搭載した気球や無人機などを利用する「空からのネット接続サービス」だ。
最も先行しているのが、気球を使った「プロジェクト・ルーン」。「ルーン」は英語で「ばかげた」とか「非常識な」という意味だが、やっている本人たちは大まじめ。今年5月にはブラジル北東部の村で、成層圏まで飛ばした気球を中継局に使ったネット接続実験を実施。ネットと無縁だった地元の学校の教室で「グーグルアース」を使った初めての授業を行った。
4月には高度約2万メートルの上空を5年間無着陸で飛び続けることができる無人機を開発する米タイタン・エアロスペースを買収。6月には小型衛星を使った高解像度の衛星画像サービスを手掛ける米スカイボックス・イメージングも傘下に収めた。いずれも空からのネット接続サービスへの応用を視野に入れている。
実はネットが利用できない地域で空からサービスを提供する構想は、フェイスブックも温めている。今年3月には関連技術を研究する社内組織「コネクティビティー・ラボ」を新設。高高度を飛ぶ無人機の開発で実績のある英国のベンチャー、アセンタの技術者を中核メンバーとして迎えた。
先進国での成長が鈍化する中で、ネット人口の拡大が成長持続に向けた課題となっているのは、グーグルもフェイスブックも同じ。今後本格化しそうな「空中戦」の行方次第では、グーグル優位の情勢が塗り替わる可能性もある。
(シリコンバレー=小川義也)