「日本は英語化している」は本当か?――日本人の1割も英語を必要としていない

日本人の9割に英語は必要ない?

 

爆笑問題の太田光氏が司会をつとめていたテレビ朝日「侃々諤々」という討論番組(2014年3月で終了)をご存知だろうか。その2月27日放送回の議題は、小学校の英語教育だった[*1]。

 

「小学校の英語教育は意味がない」と主張する大学英語講師・水野稚氏を、「意味がある」派の東進ハイスクール講師・安河内哲也氏と、英語教育学者・卯城祐司氏が迎え撃つという構図である。白熱した議論の一部を書き起こしてみよう。

 

 

水野 日本で結局英語を使うようになる人って、大人の1割くらいしかいないわけですよ。日本マイクロソフトの社長(元社長:引用者注)の成毛さんという方が、日本人の9割に英語はいらないと。他にもっと大事なことがあるだろうと。要するに英語ができるからといって仕事ができるってわけはない。


だけど、「グローバル=英語」みたいになってしまって、英語ができればグローバルみたいな感じになっていると思うんです。でも、必要な人が1割しかいないというのは、皆さんにもう一回考えて欲しいんです。これは、マイクロソフトの社長が言っているんですよ、日本の。

 

……中略……

 

安河内 その1割が問題なんです。その1割ってのは、相当に高度なレベルの英語が使える1割ですよね。でも、ふつうに英語ができる、たとえば海外旅行(の時)にできるとか仕事で簡単なコミュニケーションができるという(点で)必要な方はもっと多いと思うんですよね。

 

水野 うーむ。

 

 

水野氏が引いたのは、成毛眞氏の著書『日本人の9割に英語はいらない』(祥伝社)である。英語関係者だけでなくビジネス関係者にも広く話題になった本なので、ご存じの方も多いかも知れない。

 

同書への評価はまた後で述べるとして、ここで注目したいのは、上述の二人の必要性認識が、ある「妥協点」に落ち着いたことである。多くの人に英語のニーズがあるという点に懐疑的な(したがって小学校英語反対派の)水野氏と、その点に肯定的な安河内氏。真っ向から対立している二人が到達した「妥協点」は、「高度なレベルの英語を仕事で使う必要がある人は1割しかいない(しかし、それ以下のレベルも含むのならもっと多い)」であった。

 

[*1] http://wws.tv-asahi.co.jp/kangaku/backnumber/0021/index.html

 

 

1割もいるのか?

 

この「妥協点」は果たして正しいのだろうか。周囲を見回して簡単に計算してみて欲しい。仕事で「高度な英語」を使っている人が、10人に1人いるだろうか。おそらく大半の人は、「そんなにいない」と答えるだろう。

 

こう私が主張するのには、それなりの根拠がある。実は私は、2013年に刊行した論文で、日本社会の英語使用者数を推計したことがあるからだ。同論文は「『日本人の 9 割に英語はいらない』は本当か? ――仕事における英語の必要性の計量分析」と題し、まさに成毛氏の著書を意識したものだった。(『関東甲信越英語教育学会学会誌』第27号)。その結果によれば、「仕事で高度な英語を使う人が10人に1人」は、日本社会の英語使用を少々誇張しすぎなのである。

 

そこで、本稿では、日本社会の英語使用者の実態を、データに基づきながら確認していきたい。まず、私の推計結果を見る前に、成毛氏の主張 ――「英語が必要な人、1割」―― の根拠を確認してみよう。

 

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