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「ドイツ兵を見て男たちが隠れた。次に来た米兵から男は女たちを隠した」
1944年に米英連合軍が上陸したフランスのノルマンディー地方では、住民の言葉が残る。米兵が女性への性的暴行(レイプ)を繰り返したためだ。
昨年6月、米ウィスコンシン大学のメアリー・ロバーツ教授は『兵士らは何をしたのか…第2次世界大戦のフランスにおけるGIと性』(シカゴ大学出版部、未邦訳)を発表した。米軍の性犯罪をテーマにした本は珍しい。
荒廃したノルマンディーで米兵は食料を見せ、女性たちを性交に誘った。すべてが合意ではなく性的暴行の報告も数百件残されている。多くの抗議に、米軍は善処を約束しても積極的に取り締まらなかった。
英国の歴史家、アントニー・ビーバーの著書『パリ解放1944−49』(白水社)によれば、フランス人の米兵の受け止め方は多様だった。民間人死傷者は10万人を超えた。火力を戦場に大量投入して民間に被害を広げる米軍への憎しみは根強かった。が、歓迎も当然あった。
同書には、44年8月25日に解放されたパリの興奮状態が紹介されている。若い女性たちは浮かれ、作家のシモーヌ・ド・ボーボワールが「博愛の放蕩」とからかうほど性的な関係が広がった。あるカトリック団体は、次のパンフレットを配った。「若い勤労婦人の皆さん。浮かれ気分のなかで、優しさを無駄にしてはいけません」。