湯川遥菜の正体は何者か - PMCに仕事と資金を与えた黒幕は誰なのか

今日(8/19)の朝日の社会面(39面)に、湯川遥菜についての情報が載っている。例の元茨城県議でPMC(株)顧問の木本信男が、7月に湯川遥菜と電話で話したとき、「いくつか仕事が入っている。ここが頑張りどころ」と語っていたと証言している。この事件の注目すべきポイントだろう。マスコミも、ネットも、湯川遥菜の今回の行動について、国際政治を知らない軽薄な右翼オタクが、ママゴト遊びの感覚のまま、戦地に軍事訓練ごっこに出かけたという構図で捉えている。昨夜(8/18)のテレビ報道に幾度も登場し、朝日の紙面記事でも証言を提供して、今回の問題の解説主担となっている後藤健二が、特にこの印象をマスコミで強調する役割を果たしていて、その言説が影響した結果、湯川遥菜のシリアでの不審な行動は、すっかりボランティアの性格を帯びたイメージに塗り固まっている。「民間軍事会社」を設立して経営を始めたので、事業の経験を積むために紛争地シリアに来たのだという、後藤健二が伝えるところの湯川遥菜の人物像と動機説明が一人歩きしている。朝日もまた、この認識を採用しているのか、見出しは「経験積むためシリアへ」だ。しかし、湯川遥菜は、明確に「仕事が入っている」と言っているのであって、この渡航が「ボランティア」や「勉強」のためではないことは明らかだ。湯川遥菜の今回の活動は、無償ではなく対価のあるビジネスであって、クライアントから委託業務を受注したものである。マスコミの印象操作に流されてはいけない。

ネットに上がった情報を一瞥するかぎり、湯川遥菜は、特に裕福な資産家の息子という境遇でもなく、幕張のアパートで一人で地味に暮らしている。趣味でこの活動に没頭する経済的余裕はない。6月にはイラクに渡り、ISISとクルド人が戦闘する最前線に出向いている。今回のシリアでの行動と同じパターンだ。バグダッドではなくアルビルに直接入り、クルド人部隊と行動を共にしていて、7/14のBlogの記事には、「直ぐに次のミッションへ移る。今度は油田を奪還する作戦の指揮を取る。人員に余裕が無い為、当然、私も本格的な戦闘をする」などと書いている。イラクに渡航する直前、6/15の記事には具体的な出張の計画が示されている。「アメリカがペルシャ湾に空母を配備したので、空爆が開始される様であれば、それが合図となりイラクへ行く。この事件のせいでイラクやアフガニスタン、ウクライナ、シリア、ソマリアなど行く所が多く忙しくなりそうだ」。この、「忙しくなりそうだ」の言葉は、7月に木本信男に電話で語った「いくつか仕事が入っている」の近況情報と符合する。6/11の記事には、「年内、シリアへは何度か行く予定だが、アフリカ(ソマリア)にも9月行く」と書いていて、商売繁盛ぶりを愉しげに自慢している。「今後、世界中の危険地帯へは仕事で行くだろう」とあり、Blogの説明と紹介では、イラクも、シリアも、9月のソマリアも、全て「仕事」だ。6月のイラク行き(クルド人部隊との帯同)も、クライアントからの依頼で急遽入った仕事だという意味で書かれている。

イラクにせよ、シリアにせよ、往復する航空機の運賃もかかるし、現地での滞在費用もかかる。シリアは今年に入って二度目であり、一度目は4月に潜入して自由シリア軍と従軍行動している。一体、湯川遥菜の「仕事」とは何で、誰がその業務を発注していたのか。Blogには、「仕事」や「ミッション」という言葉は頻繁に出てくるが、誰からのどういう依頼なのか、クライアントの情報は書かれていない。当然だろう。しかし、イラク行きが急な割り込み物件であったことから窺えるように、あくまで、これはビジネスなのであり、誰かから注文を受け、経費と報酬を受け取り、発注元の顧客にサービスを提供し、売上と利益を計上する営利の事業活動なのだ。何者かが湯川遥菜にコンタクトし、ここへ行ってこれこれのことをして来いと任務を与え、その結果を報告させている。そして、われわれが確認しなくてはいけない重要な事実は、その任務はジャーナリズムとは無縁のものであるということだ。通常、日本人でこうした危険な紛争地に入る者の活動目的といえば、山本美香的ないわゆる戦場ジャーナリスト的なものか、中村哲的な現地の生活支援や医療支援のものだというイメージがある。それが固定観念になっている。例外としてあるのは、2002年にイラクで人質になった3人などだろう。それ以外のものは想像しにくく、まして湯川遥菜の「民間軍事会社」の活動は異質で、よく納得的に理解することができない。日本は9条の国であり、海外での戦争を食いものにする国ではなかった。

湯川遥菜の事件の始終を見ると、確かに、いかにも素人的で、間抜けで、プロの諜報員という類型から遠く、また、まともな軍事訓練を受けて技能を身につけた戦闘員でもない。自衛隊の出身者でもない。だから、捕らえた湯川遥菜に対してISISが最初に嫌疑した「CIAのスパイ」の見方は、少し的外れのようにも見える。しかし、ここで考えなくてはいけないのは、われわれの歴史であり、特に中国に対する侵略戦争の経過と現場である。そこには、大陸浪人・支那浪人と呼ばれる範疇が存在した。この事件を読み解くキーワードだろう。どんな人格だったか。ネットに簡単な説明情報がある。甘粕正彦、内田良平、頭山満、里見甫、児玉誉志夫などの錚々たる名前が並び、次のように記述されている。「日本政府の対外政策に関わる調査や軍部の直接的あるいは間接的支援による兵要地誌の調査などに従うこともあり、そうした活動を通じて中国語や複雑多様な現地情勢に通じた『支那通』と呼ばれる人々を輩出することになる。だが、その一方で政府・軍部あるいはその路線に協力する日本の財界より様々な口実による資金援助を受けるきっかけを得たことにより、その後の大陸浪人の方向性を定めることにもなった。日清戦争や日露戦争においては、こうした『支那通』が日本軍に積極的に協力して通訳や諜報、後方攪乱、特務工作などに従事した」。注意すべきは、大陸浪人の類型における人格的な放縦さや杜撰だろうと思われる。児玉誉志夫が典型的で分かりやすい。児玉誉志夫を理知的で賢明で教養があると考える人間はいないだろう。大陸浪人の右翼には、湯川遥菜と同じ放埒な精神性が特徴だ。

日本人で、右翼で、海外(ユーラシア大陸)で一暴れしてやろうという「乱世の奸雄」志向の者は、100年前の大陸浪人の資質を遺伝子として継承しているらしく、大陸浪人への憧憬と羨望があるらしい。湯川遥菜はBlogでこう率直に告白している。「僕は今の日本が生きにくいと思う理由がシリアやイラクに行き解った気がする。明治大正昭和に運動家がアジアの事や戦争論など演説していた方々と気質が似ている。例えば下記のような方々が居る。頭山満、徳富蘇峰、石原莞爾等。僕の気質が今の時代に合わないのだ。根本的に戦前、戦時中の人間なのだ」。さらにまた、本人の右翼的狂気を証拠づける、こういう書き込みも残している。「シリアと支那を変えないといけないと思っております」「新疆ウイグル、チベット、内モンゴル(略)の独立(略)支那の解体ですね」。PRCの破壊と解体が湯川遥菜の目標なのだ。ナイーブな右翼の小僧の弁ではないか。自身を川島芳子の生まれ変わりだと妄想し、右翼的思考世界の中で自らの英雄願望に耽って自慰する湯川遥菜。この男を焚きつけ、飼育して面倒を見てやり、狂気の妄想を満足させる「軍事」体験へと誘った者たちがいる。指摘したところの、児玉誉志夫と湯川遥菜に共通する杜撰さと破天荒、間抜けさ、知性と教養のなさ、肥大した自意識と日本の軍事的エクスパンションの野望を重ね合わせて正当化する粗暴な性向、毒々しい反共反中思想と暴力的衝動。しかし、これらのモメントはよく注意して観察すると、湯川遥菜と児玉誉志夫だけに共通するものではない。

田母神俊雄がそうだし、安倍晋三が同類である。無知と蒙昧が彼らの身上であり、傍から見た顕著な個性だ。この二人を「優秀な人間」と評する者はいない。極右の化身である田母神俊雄、だがその要注意人物の政治表象は、演出なのかどうか、コケティッシュな「天然」キャラクターの標榜によって大衆の警戒心を解くことに成功している。おそらく、湯川遥菜の「民間軍事会社」に資金と仕事を与えているのは、田母神俊雄と繋がりのある右翼で、右翼団体と政府機関(自衛隊・J-NSA・外務省)との接点の位置にある者だろう。湯川遥菜は、自身の「民間軍事会社」のHPに、田母神俊雄と握手している写真を飾ってPRしている。注文をくれるお得意先と関係が深く、この写真が商売に効能があるからだろう。また、PMC(株)のBlogには、「頑張れ日本!全国行動委員会」の忘年会に参加した写真が貼られている。昨年の12/23、この会場で田母神俊雄とのツーショットを撮影した。私の推測を言えば、湯川遥菜のPMC(株)の設立は、J-NSAの発足と連動した動きだと思われる。安倍晋三がJ-NSA(国家安全保障局)を立ち上げたのが、今年の1/7。6チーム67人の体制でスタートした。PMC(株)の設立が、登記簿では今年の1/16で、昨年の12/23の「頑張れ日本!」の忘年会では、幹部たちにPMC(株)の宣伝をしていたのに違いない。簡単に言えば、PMC(株)はJ-NSAの下請け工作機関の位置づけで、工作員・工作機関ともに日本政府が養成に着手したということなのだろう。安倍晋三は、J-NSAの次にJ-CIAの創設を目論んでいる。

湯川遥菜は、いずれ発足するところの、J-CIAの候補生の一人なのだ。日本政府が、直接、スパイ(諜報・破壊工作員)の養成を始めている。そして、紛争地に赴かせて現地情報を収集している。例えば、自衛隊員とか、外務省の職員とか、そういう身分では、自由シリア軍に帯同して戦場を生で視察することは不具合なのだ。日本政府の正規の職員が、AK47の小銃を担いで、自由シリア軍の部隊とアレッポで行動を共にすることはできない。同じく、武装してクルド人部隊と一緒に戦場を徘徊することはできない。そのような情報収集の活動や行為は法的に許されず、扮装が発覚してプレスに暴露されたら大変な政治問題になる。誰の指示かという話になり、厳しく責任が追及される。だから、外部の民間の工作機関(紛争地浪人・対中謀略浪人)が必要なのだ。9条の下で、集団的自衛権行使禁止の法的環境での下で、これまで日本は海外での諜報活動や破壊工作を本格的にすることはなく、その要員も育成することはなかった。安倍晋三はそれを解禁して戦前の特務機関を復活するのであり、そうなると、日本にも米CIAの要員のような人間が大量に必要になる。湯川遥菜が書いているところの、「仕事」とか「ミッション」の中味は、そういう性質のものだろう。書類上はカムフラージュしているに違いないが、注文主の実体は日本政府(J-NSA)である。米CIAの情報を頭を下げて横から貰うのではなく、自前の工作員にダイレクトに収集させ報告させようとしている。菅義偉と田母神俊雄が、湯川遥菜のアメブロのアメンバーになっている事実は、決して偶然ではあるまい。

この事件は、ひょっとしたら安倍政権の命取りにまで発展するかもしれない。真相の追及と解明が進み、湯川遥菜の正体が明らかになったときは。



by yoniumuhibi | 2014-08-19 23:30 | Trackback | Comments(2)
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Commented by あつい at 2014-08-19 18:49 x
既にご存知かもしれませんが、2009年の自民党の比例の落選者で、
元ベネズエラ大使の国安正昭もPMCの顧問か役員に名を連ねてますね。

この国安正昭は田母神と一緒に日本戦略研究フォーラムの委員だかをやっている。

となれば、この国安正昭の紹介で、湯川は田母神と2ショット撮影に成功したのかも。

しかしPMCには会社としての実体はほとんどない、もしくはわずかにしかなく、
管理人さんの言う通り、自民党お抱えのスパイ予備生という線はかなりあり得ますね。
 
Commented by 長坂 at 2014-08-19 20:59 x
最初は集団的自衛権のための人身御供か、チェイニーとハリバートンなのかと思っていました。諜報活動と言っても尾崎秀実のような理知的で紳士的なスマートさはない。そして、鋭いご指摘!まさに"大陸浪人"そのものですねえ。玄洋社だ、満鉄だ、陸軍中野学校だと考えていたら本当に怖くなってきました。15年戦争前ってこんな感じだったんですね。戦後レジーム完全に終わってしまいました。
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