セブンカフェのUI論について

BEENOSの山本です。

少し前にセブンカフェのデザインについての議論が話題になったことは、デザイナーの皆さんならご存知だと思います。クリエイティブディレクターに佐藤可士和さんを起用した、セブンイレブンのコーヒーメーカーです。

簡単に説明すると、氷の入ったカップを購入し、店内置かれたコーヒーメーカーにセットしてボタンを押すだけで、手軽に、挽き立ての美味しいコーヒーを飲むことができるというものです。

現在、様々なコンビニに同じようなマシンが置かれ、多くの人が利用しています。最近ではどんなコンビニでも同じような光景を見かけるのではないでしょうか。

しかし、

【デザイナー完全敗北】セブンカフェのコーヒーメーカーが残念と話題
http://matome.naver.jp/odai/2140475782029730001

#セブンカフェの様子 が各店舗の工夫いっぱいで面白い
http://matome.naver.jp/odai/2137351572553391601

このように様々なところで話題として取り上げられ、デザインについて「失敗」の烙印を押されています。少し今さらではありますが、この話について考えてみたいと思います。

この議論で話題になっているのは、”インターフェースが使いづらい”という点です。その大きな原因は、「L」と「R」という表記における、メンタルモデルの差異にあると思われます。
ユーザーは多くの場合、「Lはレフト」、「Rはライト」という認識をします。これは日常生活において、そういう場合に「L」と「R」の表記を見かけることが多いからです。そこから「Lはレフト」、「Rはライト」という風に学習しているため、先入観が出来てしまっています。
しかし、セブンカフェのUIにおいては、「Lはラージ」、「Rはレギュラー」という意味を持っています。そしてもちろんラージの方がレギュラーよりも大きいので、「R、L」という順の表記になっています。これは通常の認識における「L(レフト)、R(ライト)」と逆になります。このことは、確かにユーザーの混乱を招く原因になっていると思われます。

しかし、デザイナーとして見るべきポイントは他にあるのではないでしょうか。”意匠”デザイナーであればUIを適切に評価し、建設的な改善案を提示する活動で良いかもしれません。それも重要な活動です。
しかし、ウェブにおいてデザイナーの領域はどんどん広がっており、もはや意匠だけを見ていれば良いというわけではないという現実については、デザイナーのみなさんであれば、十分に気づいていることでしょう。

そこで、今回はUIデザイン以外のデザインに注目してみたいと思います。

セブンカフェで重要なのは、レギュラーサイズが「100円」というところです。これは缶コーヒーを普通に買うよりも安い金額です。

私も時々缶コーヒーを買いますし、周りにも買う人がいます。そういう方々が決まって言う台詞があります。

「缶コーヒーはコーヒーじゃない、缶コーヒーだ」

というものです。これはどういうことかと言うと、

「美味しいとは思っていないけど、手軽に飲めるからしょうがなく飲んでいる。」
「手軽にコーヒー欲を満たしてくれるものの、けして満足していない。」

のようなことと同義だと思われます。しかし、この現実にもう数十年慣れてしまっているせいで、特別に問題意識として感じていない人が多かったのではないでしょうか。

そこに出て来たのがセブンカフェです。

セブンカフェの提案は、私の解釈だと、「ある程度気軽に、缶コーヒーよりも安く、本格的なコーヒーが飲める」というものです。これは私たちが見失いつつあった問題にうまくフォーカスしていると思います。

しかし、本当に手軽に買いたいのであれば、缶コーヒーの方が早いのは確実です。自動販売機でもコンビニでも購入できますし、お金を入れてボタンを押すだけです。
セブンカフェは、カップを購入し、さらにマシンの前に移動して配置し、その後ボタンを押してしばらく待つ必要があります。

しかし、そんな多少の不便では損なわれない価値があります。
「ある程度気軽に、缶コーヒーよりも安く、本格的なコーヒーが飲める」
この価値の発明、「価値のデザイン」こそがセブンカフェのデザインの功績ではないでしょうか。

かと言って、UIを疎かにして良いという話ではありません。使いやすい方が良いに決まっています。ですが、UIばかりに捉われてしまうと、サービスや製品の本質が見えなくなってしまうので注意が必要です。

確かにLとRに対するメンタルモデルにギャップはあるかもしれませんが、目立つ問題はそれくらいだと思います。また、上でも少し書いたように、購入フローにも問題はあるかもしれません。初回購入時の導線がユーザーにわかりづらい(ユーザーにとっては今までに経験したことの無い購入フロー)ため、購入に戸惑ってしまっているユーザーをちらほら見かけます。店舗オペレーションの徹底や、ユーザーに対するインストラクションなど、啓蒙や教育的側面の活動はもう少し必要だったかもしれません。
実際に私の母も、「最初買うときは不安だった」と言っていました。しかし、その後はリピーターになるくらい満足しているようでした。

もしかすると、このような価値の発明は、デザイナーの領分ではないではないと言う人もいるかもしれません。確かに今のところUIデザイナーの領分ではないのかもしれません。ですが、UXデザイナーの領分ではあると思います。
セブンカフェで実際にこの価値をデザインした人が「UXデザイナー」という肩書きを名乗っていたのかどうかはわかりません。おそらく、インターフェースをデザインした人とは別でしょう。ですが、この価値の提案は紛れもなく「UXデザイン」と言えると思います。

そもそも「デザイン」は、価値を現前化する行為であると思います。使いやすいインターフェースをつくることだけが「デザイン」の範囲ではありません。

私たちのデザインは、ユーザーがいて初めて成立するものです。ユーザー目線になるということは、使いやすさだけを追求することではありません。ユーザーのための価値や意味に目を向けることです。