職人不足の深刻化によって建設コストが上昇し、建設工事が前に進まない事態が続出している。しかし、労務費の高騰は、長年にわたって単価が下がり続けた反動でもある。売り手市場の追い風を捉え、多くの専門工事会社が職人の待遇改善に乗り出している。連載「建設人材危機」の最終回は、ラストチャンスとも言える待遇改善の状況をリポートする。
「これほどの幅で施工単価が上がると、ますます正確な見積もりができなくなる」。首都圏のオフィスビル新築工事を手掛ける大手建設会社の現場所長は頭を抱えた。手元に届いたのは、コンクリート圧送工事会社(建設現場に搬送された生コンクリートをポンプ車で圧送して流し込む会社)からの「圧送料金改定の御願い」だ。
料金表の内訳を見ると、基本料金は7万円で、圧送料金は700円/m3(立法メートル)。ちなみに、要望書が届いた時期に建築工事の見積もりに利用されていた「建築施工単価2014年冬号」(経済調査会刊)では基本料金が4万5000円で、圧送料金は450円/m3。これと比べると改定料金はどちらも5割以上高い。
現場所長は「確かにコンクリート圧送職人は全然足りないので、単価が上がるのは想定内だったが、それにしても値上げ幅が大きい」と困惑の表情だ。
■「普通の会社になりたい」
この値上げについて、コンクリート圧送会社の全国団体、全国コンクリート圧送事業団体連合会(全圧連)の佐藤勝彦会長はこう話す。
「料金改定の幅は各企業が判断することだが、これは必要最低限の構造改善を進めるためのプロセスだと理解してほしい。ここ数年、圧送会社の廃業や作業員の引退が相次いだうえ、若い職人の入職はほとんどなく業界は壊滅寸前だった。この機会に何とか普通の会社になりたい」
全圧連は、経営ハンドブックを作成し、会社の経営規模やポンプ車の重量などに応じた原価計算シミュレーションを、傘下の会員に参考情報として提供している。その一例が、上のシミュレーションだ。作業員の年間給与を450万円とし、社会保険料などの法定福利費も積み上げて試算している。記事冒頭の要望書は、ほぼこれに沿った内容だ。
佐藤会長によれば、傘下の職人の平均年収は300万円台。社会保険には未加入で、退職金制度を整備していない会社も多い。安全面でも多くの問題を抱えたままだ。ポンプ車の法定耐用年数は6年なのに15年以上使う会社が多く、老朽化によるブームの破損事故も後を絶たない。
「賃金も労働環境もこれまでがひどすぎた。必要最低限の水準を維持することで、若い職人の定着率アップにつなげたい」(佐藤会長)
建設、職人不足、社会保険、厚生労働省
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