【シリコンバレー=兼松雄一郎】米国で撮影機能付きの小型無人飛行機を商業利用する取り組みが広がり始めた。米連邦航空局(FAA)は米映画大手への許可を年内にも出す見通し。アマゾン・ドット・コムは商品配送での利用を想定しており、農業や広告、通信などの分野でも実用化される見通しだ。開発技術で最先端の米国での活用が進めば、普及に弾みがつきそうだ。
米映画業界は議会への働き掛けを強めており、米国内での商業撮影の認可が年内に出る公算が大きい。高い位置から撮影する際、ヘリコプターやクレーンと比べて事故時の被害を抑えやすい。
初期の商用化は墜落時の危険が小さい農業での利用が先行しそうだ。米航空宇宙局(NASA)関係者が経営するオレゴン州のハニーコーム、コロラド州のロボフライトなどのベンチャーは、農家向けに特化した無人機の販売とデータ分析を手がけている。米国の大規模農家は病気の発見や作付け状況の監視、農薬や肥料の散布に活用し始めており、作業を効率化している。
FAAは6月、アラスカ州にある油田パイプラインを維持管理するために無人機の商業利用を初めて認めた。将来は飛行船のように広告媒体として活用したり、へき地で通信基地局として利用したりすることも想定される。
物流分野での実用化に向けた動きも活発になってきた。アマゾンは7月に私有地での配送実験をFAAに申請した。同社は無人機で倉庫から利用者の自宅まで荷物を運ぶサービスを検討しており、地上に操縦・監視者を付けるなど安全性に配慮した計画をまとめた。
米国では無人機の軍事利用が進んでおり、開発技術で最先端の水準にある。世界最強の国内ソフト産業を生かし、データ分析などのサービスで他国を突き放そうとしている。
米政府はNASAの意見もふまえ、無人機に適した規制案を年内にも発表する方針だ。新規制が事故の不安を軽減しつつ、使用に道を開く内容になれば、商業利用の拡大に弾みがつく。
規制案の議論では個人のプライバシーへの配慮も焦点になっている。米グーグルが街の画像情報を集めた「ストリートビュー」を公開した時と同じように、市街地での運航はプライバシー侵害の恐れを引き起こす。米国では市民団体がすでに懸念を表明している。
ただ、商業利用については前提となる規制の整備でフランスが先行している。ドイツでもドイツポストが物流への活用の実証実験を進める。このままでは欧州に主導権を握られる可能性もあるため、国内での産業育成を急がなければならない事情もある。
日本での実用化は飛行に支障がある電柱が多いこともあって遅れがちだ。セコムは警備目的での実証実験を近く私有地で始める計画だ。
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