【インタビュー】鹿毛比呂志氏(株式会社オフィス鹿毛)DMPによるデータマネジメントの可能性
鹿毛比呂志氏(かげ・ひろし)
株式会社オフィス鹿毛 代表取締役 コンサルタント
1972年生まれ。広告制作プロダクションを経て、2004年にオプトに入社。SEMコンサルタントとして効率化メソッドを確立。2009年にADKインタラクティブに入社し、WEB解析に基づいたマーケティングプラットフォームビジネス構築支援ビジネスを立ち上げる。2011年からはデジタルインテリジェンス取締役としてデータを用いたマーケティング課題の改善を目的としたDMP構築・コンサルティングに取り組む。2014年デジタルインテリジェンスを退社し、独立。
--近年、広告業界を中心に「DMP(Date Management Platform)」への注目度が高まっているようです。現在、DMPはどのように発展しているのでしょうか。
今、DMPに対する注目度が高まっていることに間違いありません。多くの事業主がDMPの取り組みを始めています。DMPの取り組みを始める背景と動機はおおよそ以下3つのパターンに類型されると思います。
1つ目は、ネット広告領域の打ち手と成果ボリュームの飽和を背景とした、集客領域における全体最適を目指した取り組みです。リスティング広告やディスプレイ広告、サイトコンテンツ最適化を個別に突き詰めているが、あるレベル以上の成果が出にくくなっていること、顧客(生活者)のタイプやニーズ毎の接触シナリオを組んでコミュニケーションしたい等の背景から、各広告の成果や配信データ、行動ログ、外部オーディエンスデータを統合的に分析/コントロールして成果を上げるためにDMPを使います。それにより、最適な顧客に対して、最適な情報を、最適なタイミングで、最適な接点で送れるようにして、個別最適の合算以上の成果を求めていくというものです。
2つ目は、顧客にとって価値の高い情報や体験を提供することで顧客との継続的な関係を作り、ライフタイムバリューを上げる試みとして、CRMを起点とした取り組みからスタートするケースです。この取り組みは1つ目の取り組みと表裏関係にあり、連続性を持って取り組む必用があります。集客、顧客化、関係性の強化の流れは分断されるべきではなく、ユニークユーザー単位で継続的にモニターし、改善していく必用があります。
3つ目は、自社サイト上に資料請求やコマースなどいわゆるコンバージョンポイントがない事業主が、自社サービスや商材に関するコンテンツ、顧客の興味関心と商品をブリッジするコンテンツを設置し、検索やCGM、ソーシャルメディア等を経由して自社コンテンツへの集客を行っており、コンテンツを通じた顧客の行動やキャンペーン参加の際に取得する属性を分析し、顧客理解や商品の使われ方、商品開発、コミュニケーションのヒントを見出したり、店頭集客や自社製品の選択につなげるためにDMPを始めるケースです。
おおよそこれら3パターン、もしくはそれらをミックスしたパターンからDMPをスタートさせることが多いのですが、入口は違えどもいずれ3パターン全てに関して取り組んでいくようになるケースが多いと考えます。例えば、広告をやってきたけれどCRMもやってみたいといった要望、積極的にサイト集客を行ってこなかったが、顧客との重要な接点としてコンテンツを充実させて、集客としての広告に投資を強めていく事業主も増えています。結果、入口や生活者からの見え方は各事業主毎に違いますが、これらを実現していく大きなフレーム、プラットフォームとしてのDMPのかたちは、業種業態を問わず、ほぼ一つの型に収斂していくように感じています。
--これから企業がDMPを取り入れる場合のポイントは?
まず、DMPは顧客と事業主の関係を改善することを目的とした手段、道具なので、先に述べた集客、顧客関係の維持発展、顧客や商材への洞察に対する取り組みに関して、今まで取り組んできたこと、これから継続成長するためクリアすべき課題、そのために活用できそうなデータの洗い出しなど、現状の整理と今後の取り組みの要件を定義し、DMPを使って何を実現していくのか絵を描くことから始めるのが良いと思います。その上で、最適な顧客に対して、最適な情報を、最適なタイミングで、最適な接点で送るよう、どの接点から始めるのか優先順位の検討を始め、そのために必用なコストと時間、労力を外部のパートナーも交えて計算し、過去~今後の取り組みについて、パートナーと対話と共有をすることが重要と思います。ドキュメントを取りまとめて担当役員や経営陣に説明し、バックアップを受ける約束を取り付けること、検索やCGM等、無料で誰でも使えるデータから仮説や当たりをつけることも有効です。
この取り組みは事業主だけでも、逆に外部パートナーに丸投げでも成功しません。また、テクノロジーサイドとコミュニケーションサイド両方の人間を必用とします。一般的に、テクノロジー主導でセグメンテーションと配信する仕組み作りからスタートするケースが多いのですが、どんな人にどのようなメッセージを送るのか。何を伝えるべきなのか、どのような温度や言葉、ビジュアルで伝えるべきなのか。テクノロジーサイドだけで進めていって、コミュニケーション開発が追いつかず、そこで足踏みしてしまうケースが散見されます。
逆に、コミュニケーションサイド主導で、送るべきメッセージと送るべきセグメンテーションの定義はできているけれど、その定義が顧客データや行動ログとシンクロしておらず、送るべき具体的なユニークユーザーの特定ができないケースもあります。デジタルや行動ログを用いないやり方でセグメンテーションする場合このように陥りやすいのですが、どちらの場合も次の打ち手を展開することが難しくなるので、テクノロジーサイドとコミュニケーションサイドの共同作業、それを仲立ちする道具としてのDMPの共同活用が重要となります。
--DMPを作るにあたって、最低限必要だとされるデータは?
どの打ち手から始めるかによりますが、一般的にWEB解析ツールの行動ログ、顧客の属性データ、広告や打ち手の配信データを一元化(UU単位で一意にする)し、それを元に分析・セグメンテーションして打ち手に活用していきます。
フローとしては、入力するデータがあり、出力する打ち手があり、その間にあるのがDMPです(図1)。入力データ側としては購買データやキャンペーン応募、契約申込データなどもありますが、こういったデータは個人を特定できる情報が含まれているため、ハッシュ化、UU単位のIDに変換の上、DMPに送ります。また、行動ログ系のデータは主にWEB解析と第三者配信データを用い、一意にするためにタグマネジメントツールを用います。
ほとんどの事業主サイトでWEB解析ツールの導入はされていますが、WEB解析のログと第三者配信ツールのロウデータ、メールマーケティングや顧客DBのUU単位の一元化というところまで取り組んでいるケースは現時点では少ないです。また、データの一元化に取り組む場合、WEB解析ツールのカスタム変数の再設定が必要になるケースが多いので、取り組みの全体を見通す人間と、ディテールを詰めていく人間の共同作業が発生します。
入力側のデータを定義し、DMPへの受け渡しの仕組みを設定して、保管、データクレンジング/正規化、セグメント/分析を行い、シナリオを設定する。DMPはこの4つのパートの集合体になっています。DMPもマーケティングオートメーションの文脈で語られることがありますが、データの接続、要件定義、分析、コミュニケーション開発と継続的な改善など、人の手で行うパートが多く、オートメーションが稼働するための仕組み作りに多大な労力と工夫を要します。実は、そういった泥臭い作業が最も重要で、割いている時間も多いものです。事業主とパートナーの共同作業で進める場合、事業主が持っているビジネスや商材、市場や顧客に関する情報と、パートナーが持っている技術やノウハウ等の情報を交換しあい、DMPの構築に活かしていくことが大切です。
出力側の取り組みですが、DMPで作成したセグメンテーションを使って、比較的取り組みやすいネット広告の最適化から着手するケースが多いです。ネット広告のPDCAを回しながらサイトコンテンツやeメールの最適化、O2O取り組みや、ダイレクトコミュニケーション等、セグメントの活用領域を広げていく、接点を増やしながら拡大していくようになります。
--この流れの中にFacebookを組み込むとしたらどのようなことができるでしょうか。
Facebook広告はターゲティング機能を活用した集客の1バリエーションとして活用することが多いのですが、FacebookページのDMPへの接続については、うまい活用法がまだ見い出し切れていません。Facebookが集客や顧客維持の重要な接点である場合は、優先度を上げて接続すべきと思いますが、私が関わってきた事業主では今のところ優先順位を高く設定しているケースはありません。
--DMPで重要なのは、テクノロジーと同時に、最適なメッセージをクリエイトするコミュニケーションとのことでしたが、DMPのプロジェクトを立ち上げるときのポイントは?
テクノロジーもコミュニケーションも、プロジェクト全体のグランドデザインからディテールまで全てを一人で担うことはできません。課題解決を担うベストなパートナー選びを行い、各領域の専門家が互いに敬意を払いつつ中間目標や最終目標を共有し、連携/協力できる体制を組むことがポイントだと思います。いわゆる「ベストインクラス」と呼ばれるやり方で進めることになります(図2)。
リスティング、ディスプレイ広告、トラッキングや配信を別々のパートナーが担い、かつマス広告は商品ブランド別に総合代理店が担っているというケースが多くあります。それぞれの特徴や専門性を発揮していただきながら、連携/協力関係のもと中間目標や最終目標に向かってのディレクションを担うプロジェクトリーダーの存在が成功のためのカギになります。
プロジェクトリーダーに実行権限と責任を集約し、リーダーシップを発揮すること、リーダーを支え、補佐する社内メンバー、担当役員、社外ブレーンを用意すること、このメンバーで情報収集と試行錯誤、意思決定を確実に積み上げていくことが、初速を出し取り組みを軌道に乗せるため重要と思います。
プロジェクトリーダーは、サイト制作や広告、調査などマーケティングコミュニケーション領域のスペシャリティの経験を持つジェネラリストが向いています。卓越したスペシャリストは、専門領域に深く入ってそのスキルを磨いていますので、専門外の領域に関して明るくなかったり、それを伝えたり他の分野のスペシャリストとすり合わせる際にジェネラリストが間に入る工夫をする必用があります。複数のスペシャリストと横串にコミュニケーションするジェネラリストの縦横の関係を作ることが成功のカギであり、その具現化した体制が「ベストインクラス」と考えています。
DMPプロジェクトを成功させ、マーケティングコミュニケーションにおいて活用を進めていくにあたって、事業主サイドとパートナーサイド、テクノロジーサイドとコミュニケーションサイド、スペシャリストとジェネラリストなど異なる役割やバックボーンを持つ人間どうしを機能的に組み合わせ、取り組みが前に進むよう人間関係を作ることはとても大切です。そういう意味で、DMPはデータやテクノロジーでドライブしていく側面がありつつ、人と人とのつながりで泥臭く取り組んでいくことも成功に欠かせない要件であると考えています。
--将来の理想的なDMPの姿とは、どのようなものでしょうか。
広告やコンテンツ、CRMの改善から始めることがほとんどと思いますが、これらマーケティングコミュニケーションの改善は広い意味で事業活動支援の一つのフィールドに過ぎません。DMPの可能性として、営業活動や経理システムとの連携、製品開発、需要予測や原料の調達、製品のデリバリなど広告宣伝領域以外での活用、事業活動全体を支援し、活用されていく取り組みに発展する可能性を感じています。また、事業主間のポイントサービスや顧客情報のエクスチェンジ、異なる業種のコラボレーションに関しての話も増えてきています。DMP設計の要件について話を進めていくと、これら事業開発の話や期待を感じることが多く、広告周辺の話から距離が出てくるケースが多いと感じています。5年先、10年先には、現在認識されているDMPの形から大きく変わって企業内のさまざまな領域でのデータやデジタルを取り込んで、DMP(と呼ばれているかどうか分かりませんが)が大きく発展する可能性があると考えています。また、そういった未来に対して、DMPとは事業主と顧客の関係を改善する目的で運用されるもの、という原点を忘れてはならないと思います。個人情報の取り扱いやコンプライアンスに対する姿勢は、いま以上に優先度高く求められるでしょう。
また、そのような将来像を考えると、ますます異なるバックボーンを持ったスペシャリストと、事業や製品、顧客理解を前提としたジェネラリストの縦横の体制、データ接続と分析によるバリューの創出、ベストインクラスで取り組む必然性は増加していくでしょうし、必然性はこのようなサービスを提供するサプライヤ側の変化を促すことになるだろうと考えています。
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