「固有の周波数に乗せて流すだけ」のラジオは、ゆっくりだけど確実に死ぬ:田端信太郎が語るラジオの未来

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業界関係者は絶対聴くべきかと。

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J-WAVE『HELLO WORLD』、2013年2月21日放送分より。

今回は番組の企画、「ザ・インタビューズ」より現・LINE株式会社 上級執行役員である田端信太郎さん出演回をピックアップ。これまでR25や、VOGUE、livedoorニュースなど様々なメディアの立ちあげおよび運営に携わってきた、いわば”メディア野郎”です。先月、発売されたばかりの新刊『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』も大好評です。

書き起こしの前半部分では、R25立ち上げ当初の知られざる苦労や、livedoorニュースを統括していた頃の裏話など、メディア野郎としての素顔が明らかとなりました。
同じ軸で争わず、他に似ていないメディアを作る:メディア野郎・ 田端信太郎が原体験と共に語る

引き続き、後半となる今回は打って変わって「ラジオ」の話題へ。実はかなりのラジオ好きだとおっしゃっており、”ラジオ野郎”からみたラジオ業界の現状、そしてラジオの未来についてのお話です。単なるラジオ好きの人のみならず業界の方に是非読んでほしい内容となっています。

 

また、この模様はUstreamのアーカイブからもご覧いただけます!
【HELLO WORLD】特集「ザ・インタビュー~田端信太郎~」

  

しゃべるひと

  • 田端信太郎さん(LINE株式会社 上級執行役員)
  • DJ TAROさん(ラジオパーソナリティ)

 

実は”ラジオ野郎”でもあった

DJ TARO:毎日のなかでラジオに触れてる時間もあるんですか?

田端:いまね、そんなにないんですよ。ただ、言い訳じゃないですけどJ-WAVEも大好きですし、小学校4~5年生くらいからオールナイトニッポンを聴いてたりとか…

DJ TARO:あぁ、それはやっぱり聴きますね。

田端:あと中高生のときに『電気グルーヴのオールナイトニッポン』が全盛期で、あとは『伊集院光のOH!デカナイト』とかがすごい胸熱な感じで毎日聞いてたし。

あと、ぼくは地方出身なんですけどJ-WAVEってのは東京に出てくる前に雑誌とかで知るわけですよ。「高感度なラジオ局が東京では開局してるらしい」と。でも、石川県なので聴けないんですよね。

で、東京にわざわざ模試を受けにくるときにわざわざラジオを買ってJ-WAVEを聴いて、「これがJ-WAVEというものか!」みたいな。

DJ TARO:当時のJ-WAVEはどんな風に聞こえました?

田端:ぼくが覚えてるのは、メディア野郎の原体験的には、モーリー・ロバートソンがやってた『Across The View』なんかは当時から「インターネット、インターネット」って言っててすごいぼくの中であのアツい感じというか、なんて言うんですかね。そういうところは未だに原体験としてあります。

あと、小山薫堂さん番組とか、『holiday spacial』とか大好きですよ。

DJ TARO:おっ、すごい結構J-WAVE…、

田端:J-WAVE大好きで、FMのなかでいうとダントツですよ。

DJ TARO:ありがとうございます。

 

ラジオ業界は生き残っていけるのか

DJ TARO:現在、直接触れる部分はなくてもメディアのお仕事をしていくなかで見えてくるラジオ像だったり、いまのラジオってどういうふうにお考えです?

田端:ぼく、新聞社とか出版社とかある種トラディショナルなメディアに呼ばれるときによく聞かれるんですけど、「ラジオ業界」っていう括り方自体がもうあんまり意味がないんじゃないかな?と思っていて

例えば、宅配ピザを頼む人がピザをスクーターで持ってくるかとか、自転車でもってくるかとかどっちでもいいじゃないですか。うまくて温かいピザを持ってきてくれておなかがいっぱいになって、仲間と食べてほっこりして「良かったね」っていう気持ちこそが本質だと思うんですよ。

そのときに、スクーターか自転車か徒歩かなんてどっちもでいいと。

例えば、同じようにラジオも電波で聴いてるかネットラジオで聴いてるか、そんなものはリスナーからしたらどうでもよくて、そこの本質を届けることにもっと集中した方がいいし、もっとたくさんの人に届けた方がいいのに…、ここからさき放送事故になっちゃうかもしれないですけど、radikoとかってぼくからしたら結構思うところいっぱいあるんですよ。

DJ TARO:あぁ。

田端なんでわざわざ聴ける人の地域をIPで制限すんのか?(現在は、「radikoプレミアム」の有料会員になれば、全国各地域の放送を聞くことが可能です)とか、ちょっとダサいんじゃないかな?って。もちろん分かるんですよ、いろいろ大人の事情は(笑)

DJ TARO:大人の事情があるんですよね(笑)

田端:わかるんだけど、「ぶっちゃけそんなのユーザー関係ねぇし」ってぼくが地方にいたらJ-WAVEが聴けないということに関して思いますね。今日はUstreamで聴けてるからいいかもしれないですけどね。

DJ TARO:聞くのは怖いところがあるんですけど(笑)、ラジオは生き残っていけるって思いますか?

田端:全く同じことを新聞社で聞かれたんですよ。ぼくはこう答えたんです、紙としての新聞紙の未来と、組織としての新聞社の未来と、新聞記者の未来はそれぞれバラバラです、と。

紙としての新聞紙は遅かれ早かれちょっとずつ確実になくなっていきます。新聞記者は、もしそのしがすっげーイケてる記事をバンバンかけるとしたら、むしろ新聞社に中途半端に務めるよりもっと可能性は広がる。

新聞社としてのところはどうなるか分からなくて、経営判断次第だし、ラジオも81.3MHzでスカイツリーから電波が出てる部分を「ラジオ」と捉えるのか、ラジオ番組の未来を捉えるのか、あるいはラジオパーソナリティと捉えるのか、というところで全然違ってきて、申し訳ないけど81.3MHzっていう形でタワーの先っぽから飛ばす電波というかたちにこだわっていくと、ゆっくりだけど確実に死ぬと思います。

DJ TARO:…、ありがとうございます。

田端:(笑)

DJ TARO:すみません、1回息を吸いたいので曲にいきましょう!(笑)

(中略)

田端:さっきちょっと「このままだと死んじゃう」みたいなきついことを言いましたけど、ぼくが思うのはラジオ番組が番組としてどれくらいメディアのブランドになっていけるか?ってことだと思うんですよ。

ジャイルス・ピーターソンっていう有名なラジオDJがいるんですけど、彼がやっている動きとかって近くて。J-WAVEでやってたと思うんですけど『WORLDWIDE』ってもともとラジオ番組の名前ですよね。

ただ、単なるラジオ番組の名前を超えて『WORLDWIDE』という名前でMIX CDを出したり、音楽フェスを出したりするじゃないですか。

そうすると、もともとただラジオ番組だったけど、もう今やジャイルス・ピーターソンの『WORLDEIDE』っていうのはただのラジオ番組を指してないんですよね。『WORLDWIDE』的な感覚でクロスオーバーしたような、独特の感性で集まってるなんとも言えない音楽の雰囲気と、それが好きな人とその中心にいるジャイルス・ピーターソンみたいな、ある種のコミュニティというか、それこそが『WORLDWIDE』であって、たまたまその出発点がラジオに過ぎなかったってことだと思うんですよ。

クロスメディアありきじゃないですけど、結果的に自然とそうなったみたいな。もしかしたら音楽のセレクトショップみたいなのを出せるかもしれないしいろんな展開があるじゃないですか。

例えば、いまだと「ロッキンオン」っていう音楽雑誌ありますけどあれを出してるロッキンオンは今や雑誌で儲ってるというよりイベントで儲ってたり

ロッキンオンの本質でいうと、「音楽好きにどれだけ喜んでもらえるか?」がうちの商売だとか、ジャイルス・ピーターソンも例えば、音楽を愛する人に対してラジオは最初はあくまで手段でしかなかったと、でも全然CD出すのもアリだしイベントをやるのもありだし、ということで360°モデルというか、ゴールから逆算するみたいなことが本質なんじゃないかなって思うんですよね。

 

ラジオを「電波塔から固有の周波数に乗せて流すもの」という旧来の捉え方をし続けていくと、いずれ確実に死ぬというのは、ここでのDJ TAROさんの反応を見ても、ラジオマンにとってかなり耳の痛い話なのではないでしょうか。

ただ、これはデタラメでもなんでもなく仰るとおりだと思います。

ラジオの現状に関しては下記の記事が大変参考になりますが、広告収入は年々右肩下がりになっていく一方で、決して明るい未来とはいえません。その結果、地方のラジオ局が独立して運営を継続させていくことが困難になり、合併が進み再編されるとも言われいて、端的に言うと地方局・キー局共にヤバい状況です。

元ラジオディレクターがBRUTUSのラジオ特集で感じた危機感のなさ : たのっちのぶろぐ by @tanocchi 

ラジオをきっかけにするのもアリ

そうして考えていくと、ここで田端さんが例に出したようなジャイルス・ピーターソンの『WORLDWIDE』のような例は、これからラジオが生き延びる上で重要な手掛りになるのではないかと思います。

ラジオ番組というものをメインに据えて全てそこで完結するというこれまでのやり方ではなく、その番組を起点としたコミュニティの一環になるような、言わば「きっかけ」になってしまうというのもひとつの方法として考えられます。

例えば、最近堀江貴文さんが有料サロンを開いたことで大きな話題を集めましたが、リスナーとパーソナリティ、サロン主催者と参加者の関係は共通する部分もあるので、番組を起点にしてこうした新たなコミュニティを作り上げていくことも考えられます。

堀江貴文サロン – Synapse(シナプス)

一方、純粋にイベントを開くというのも大変わかりやすい手法です。9月14日にオードリーが「オードリーのオールナイトニッポン5周年記念」と題し、延べ5000人を集めた大規模なイベントを開催するそうです。対象としているのは、ラジオを聞いている人だけのはずなのに5000人も集まるのか?という疑問もありますが、そもそもラジオのリスナーはパーソナリティなファンであり、その人の話が聞きたいがためにわざわざチャンネルを合わせているという側面もあり、ここまで大規模ではないにしろイベントというのは有効な手段だと言えるでしょう。

「本質」を届けるということを第一に考えると、よりよい案はいくらでも出てくると思います。ラジオ番組単体で十分な利益を生み出せて、今後も安泰だというのであればこんなことは考える必要はないですが、「いつか死ぬ」という危機に差し迫ったいま改めて考えるべきなのではないのかな、と思いました。

 

もちろん、番組のUstreamアーカイブからでもご覧いただけます!
【HELLO WORLD】特集「ザ・インタビュー~田端信太郎~」

 

 番組情報

HELLO WORLDJ-WAVE
放送日時:22:00〜24:00(月〜金曜)

 


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