献本ありがとうございました。佐々木俊尚さんの「自分でつくるセーフティネット」です。国と会社が守ってくれる時代が終わろうとしており、そんな時代であっても、それなりに充実して生きる術はあるというポジティブな考え方が示されている一冊です。
若いころにいわゆる「脱サラ」をやって、大きな会社に属すという生き方を自ら捨ててもうずいぶん長くなります。著者の佐々木俊尚さんも、毎日新聞の記者という正社員の立場を自ら捨てた方です。
自分でつくるセーフティネット~生存戦略としてのIT入門~ [単行本(ソフトカバー)]
佐々木 俊尚大和書房
2014-07-26
しかし、自らの意志、自らの選択ではなく、今では、多くの人がかならずしも正社員になれるという時代ではなくなりました。正社員比率がどんどん下がり、またリストラの憂き目にいつなんどき襲われるかもしれない時代です。組織にどっぷり使っている人、またITアレルギーの人には特に読んでいただきたい一冊です。
そんな立場でなくとも、飲食店を経営している人たちも、会社が助けてくれる、守ってくれるわけではなく、自らが贔屓のお客さんを呼び寄せる力がなければ、店も成り立ちません。そういった小さなお店だけでなく、今ではITの分野が顕著ですが、専門的な知識やスキルを持っている人で独立系の人も増えてきています。
振り返ってみると、組織からはみ出し。正社員の切符を持たずに、生きていくということでは団塊の世代が先鞭をつけたのかもしれないとも感じます。団塊の世代が学生だったころに、いったん停滞していた学生運動が、ベトナム反戦で火がつき、多くの学生が運動に参加したのですが、結果として正社員の切符を失ってしまった人が大量に生まれたのです。オイルショックによる不景気がさらに追い打ちをかけました。有名企業の正社員になれなかった団塊の世代の人たちの行き先が、いまどきの言葉で言えばベンチャー企業でした。今では押しも押されぬ有名企業に成長したところも多々ありますが。
大学時代のサークルつながりで新しい分野の出版社やマーケティングの会社をつくった人たちも、大学時代の知り合いには数多くいました。ITの分野もそのひとつだったのでしょう。だから、自ら「セーフティネットをつくる」ということがあたりまえだという人が多く誕生した最初の世代だったのかもしれません。
佐々木さんは、自らのセーフティネットでほんとうに役立つのは「緩やかなネットワーク」であり、フェイス・ブックがその「緩やかなネットワーク」を生み出すとポジティブな考え方です。なぜなら匿名の世界ではなく、いつでも機会さえあればリアルの世界でもつながる可能性をもっているからです。
確かに、今参加している勉強会で、ブログ界で活躍されている著名なひとに講師を頼んでもらえないかと依頼されたことがありますが、フェイスブックにメッセージを送り、快く受けていただいたこともあります。詳しく自己紹介から始めなくとも、互いに警戒感がありません。ずいぶん時代も変わったものだとつくづく感じます。
もしはじめて名前を聞くような人でも、タイムラインなり、過去のブログを読めば、その人のことは、実際に何度かお会いする以上にわかります。「自分でつくるセーフティネット」で佐々木さんが書かれているように、その人の人格や考え方、また性格がわかってしまうのです。もしかすると強い絆で結ばれた組織のなかの正社員同志よりも、互いが分かる時代になったのかもしれません。
しかし、SNSが人と人のつながり方を変えてきたとしても、やはり個人に魅力がなければ、セーフティネットは広がりません。佐々木さんは、それは生き方の問題、とくにつぎの生存戦略をもつことだと提言されています。
「見知らぬ他人を信頼すること」
「多くの人との弱いつながり」(をもつこと)
「善い人」(であること)
「自分の中途半端な立ち位置知ること」
つけくわえるとすれば、人を引き寄せるのは、ひとりひとりの魅力に他なりません。笑顔なのかもしれません。アイデアの発想力なのかもしれません。誠実さなのかもしれません。
組織の枠組みが崩壊してくると、世の中はしだいにひとりひとりのギブ&テイクの関係になっていきます。組織と個人のかかわりも同じです。
それを考えると、今日は個人のマーケティングが大切になってきた時代だとも感じます。それによって個人のブランドとしての魅力をつくっていくしかないと思えるのです。
マーケティング流に言えば、ギブ&テイクの世界も、まずはギブから始まります。ある意味ではギブ&ギブで、成功すれば、結果としてなにかをテイクできるのです。
自らの魅力がなにか、それを追い求めることに徹する生き方も、自らの回りに人を集め、やがてそれがセーフティネットになっていく、そんな時代がやってきているということではないでしょうか。
記事
- 2014年08月18日 12:09
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