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【社説】

集団的自衛権 経済人の声が聞きたい

 この国の行方を左右する集団的自衛権の行使容認問題で経済人の発言が聞こえない。閣議決定はされたものの、法案審議はこれから。経済人は最後まで沈黙を続けるのだろうか。

 安倍内閣が七月一日、集団的自衛権の行使を認めるために憲法解釈を変える閣議決定をした後、国民の不安や反発は強まっている。

 閣議決定を受けて実施された新聞各社の世論調査をみると、「憲法解釈の変更」という方法で集団的自衛権の行使を認めたことを「評価しない」が五割を超え、「評価する」は三割台にとどまった。

 政府の説明が「不十分だ」とする答えは八割を超えた。

 世論調査だけではない。閣議決定に対する全国の新聞社の社論をみると、全国紙は賛否が相半ばしたが、ブロック紙・地方紙では三紙を除く三十九紙が反対を表明している。こうして、多くの国民が強い懸念を抱いているにもかかわらず、経済人は沈黙している。

 経団連、経済同友会、日本商工会議所は経済団体として行使容認を支持している。しかし、聞きたいのは一人の経営者、経済人、一主権者としての意見や考えだ。

 閣議決定は海外での武力行使を禁じた憲法九条を事実上、破棄することにならないのか。憲法改正の手続きを取らず一内閣の判断で憲法解釈を変えていいのか…。

 経済団体としてはともかく、経済人一人一人の心中は決して一様ではないはずだ。過去、戦争体験のあるダイエーの故中内功氏や、同友会の故品川正治氏は平和憲法の大切さを訴えている。

 実は同友会も二〇〇六年五月、当時の小泉純一郎首相の靖国神社参拝について、反対の提言を発表し世論を喚起している。小泉首相は「財界人から商売のことを考えて行ってくれるなという声もたくさんあったが、それと政治は別だ」と、同友会の提言を銭金(ぜにかね)の問題に矮小(わいしょう)化した。しかし、提言が目先の企業の利益を求めたものでないことは一読すればわかる。

 世論の反発で支持率が下がった安倍政権は、関連法案の提出を秋の臨時国会から、来年の通常国会に先送りした。その一方で、法人税減税や株価対策などで経済界の取り込みを図っている。

 戦争への反省、財閥解体を柱にした経済の民主化と平和憲法を土台に、強い決意で戦後日本の繁栄の一翼を担った経済人は、この国の節目の時に沈黙を続けるのか。ほんとうの声が聞きたい。

 

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