きょうもどこかから、「ありのままの♪」の歌声が聞こえてくる。すっかり耳になじんだディズニー映画「アナと雪の女王」(アナ雪)の主題歌だ。

 物を凍らせる力を持つ孤独な姉エルサと、特別な力はないが快活な妹アナ。2人の王女を主人公にしたこの映画の人気が止まらない。

 3月の日本封切り以来の観客は2千万人に迫り、興行収入は253億円。「千と千尋の神隠し」(304億円)、「タイタニック」(262億円)に次ぐ歴代3位になった。

 先月発売されたDVD・ブルーレイの売り上げは200万枚を超え、サウンドトラックCDも90万枚に達したという。

 破格のヒットである。

 「アナ雪」は、ディズニーらしい、お姫様もののおとぎ話。雪と氷の世界が美しく描かれ、幅広い世代が楽しめる。特に主題歌が愛され、動画サイト「ユーチューブ」には、膨大な数の歌う映像が投稿されている。

 ツイッターでは、この作品を話題にしたツイートが他のヒット映画と比べて格段に多く、長期間にわたってつぶやかれているという調査もある。

 歌いたい。触発された思いを伝えたい。そんな、映画に参加する気持ちがネットを介して広がり、共有されている。

 世界でヒットしている「アナ雪」だが、地元北米をのぞけば興収は日本がトップで、他の国々より一桁多い。配給元によると、家族連れに加え、大人の女性客が多いのが特徴だという。

 ディズニー長編アニメ初の女性監督が手掛けたこの作品で、主人公姉妹は「白馬の王子様」を待たず、自分で困難を乗り越える。エルサが主題歌を歌いあげるのは、それまで抑えていた力を存分にふるう場面だ。

 ヒロインが「ありのままの自分になる」と歌う映画に、日本社会は強く反応した。それは、女性たちが生きるうえで、大小様々な障害にぶつかっている現実と無縁ではないはずだ。

 この映画の公開中も、女性の生きにくさを映す事件が頻発した。政権が成長戦略として女性「活用」を唱える一方、働く母親が仕方なく預けた幼い命が奪われたり、国や地方議会で女性差別ヤジが問題になったり。三重県の女性の活躍推進会議では「女は下」発言もあった。

 こうした環境を変えるため、一つ一つの問題を見逃さず、声を上げ、取り除く努力を重ねたい。社会の仕組みを見直し、偏った意識を問い続けよう。女性が、そして男性も、伸びやかに生きられる世の中を目指して。