国境を越えて影響を及ぼし合うグローバル化の深化に、ルール作りが追いつかない。そんな21世紀の現実を映し出す典型的な例がある。世界貿易機関(WTO)だ。

 昨年末の閣僚会合で、通関業務の簡素化などの「貿易円滑化」について協定を結ぶことに合意していた。しかし、インドなど一部の国の反対で、期限としていた7月末までに協定を結べなかった。

 この結果、2001年に始まった多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)の先行きが見えなくなった。これまで何度も行き詰まっては、対象分野を絞るなどして何とか継続してきた。それもいよいよ限界である。

 その一方で、自由貿易協定(FTA)が広がっている。自由貿易の主役をWTOから奪うかの勢いだ。FTAの協定国同士は互いに低い関税率を享受できても、それ以外の国は対象外で差別的な取り扱いを受けてしまう。

 WTOは「すべての国に対する無差別の自由化」をうたう。そこに意義があるし、FTA花盛りの今もWTOの存在価値は失せてはいない。実際、1995年の発足時、128だった加盟国・地域は現在、160に増えた。今も20カ国以上が加盟に向け手続き中だ。

 貿易をめぐる紛争解決の場としても、実績をあげている。例えば、中国によるレアアースなどの輸出制限について今月、WTO協定違反だという日米欧の主張が認められた。こうした争いを当事者間の交渉で解決するのは容易ではない。

 それでも、時代に即したルール作りに失敗し続ければ、WTOへの信頼も揺らいでしまう。

 交渉がまとまらない理由の一つは、全会一致を意思決定の原則にしていることだ。民主的とは言えるが、利害が異なる160の国の意見はなかなか一致しない。

 注目したいのは、一定の国の賛同で協定を結ぶ方式だ。こちらはFTAと異なり、すべての国に参加の扉を開いている。

 WTOではIT製品の関税引き下げについて、この方式をとっている。具体的には、29の国・地域が96年に合意し、参加国・地域のIT製品貿易が世界の90%を超えた時点で発効することとした。参加国が増えて協定は97年に発効。現在は78の国・地域が参加し、世界のIT貿易の97%をカバーしている。

 WTOは柔軟な意思決定方式を広げ、新たなルール作りを急ぐべきだ。投資や電子商取引など対応すべき分野は多い。