(2014年8月18日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
バラク・オバマ大統領の任期はあと2年半ある〔AFPBB News〕
古代ギリシャの時代から、医師は何よりもまず人に危害を加えないことを誓ってきた。これは超大国にとっても重要な原則だ。外交で解決できるのであれば、武力に訴える必要などない。
バラク・オバマ大統領の「ヒポクラテスの誓い」、すなわち「ばかなことはするな」という言葉で表現される外交姿勢は、同氏が所属する民主党内でもばかにされている。イラクのイスラム主義者の進軍やウクライナの親ロシア派分離主義者の武装集団によるミサイル発射はすべて、オバマ氏の慎重姿勢が間違っていることの明確な証拠だと受け止められている。
米国が自制する時代は終わりつつあるのだろう。オバマ氏が巻き返すとしたら、残された時間はあと2年だ。
悲しいことに、オバマ氏は自分のドクトリン(主義)を友人に納得させることすらできなくなっている。同氏が2008年の大統領候補指名選挙で勝利を収めたのは、イラクでの「ばかげた戦争」に反対したからだった(もちろん、対抗馬のヒラリー・クリントン氏はこの戦争の開戦に賛成票を投じていた)。米国の有権者は当時、野心的な軍国主義にうんざりしていた。オバマ氏は、有権者が明るい気持ちになるチャンスを提供した。
各種の世論調査や専門家のコメントを信じるのであれば、今日のオバマ氏は有権者を暗い気持ちにさせている。大統領の外交を支持する有権者の割合は、3分の1を辛うじて上回る程度でしかない。オバマ・ドクトリンはオバマ氏とともに失敗に終わる恐れがある。その場合、その責めの一部はオバマ氏自身が引き受けなければならない。
なぜ敵にわざわざ米国のためらいを教えるのか?
ばかげた決断を回避することは、物事の出発点としては優れている。しかし、過ちの対極に位置すること――この過ちとは、ジョージ・W・ブッシュ前大統領による2003年のイラク侵攻のこと――をやるのが常に正解だとは限らない。
オバマ大統領はずっと、地上軍の投入を回避することを基本的な原則としている。しかし、そのような強いためらいが存在することを米国の敵に教えることは、ほとんど理にかなっていない。また、地上軍の投入回避が常に正しいわけでもない。例えば、オバマ氏が2011年に、米軍のイラク駐留を継続すべくもっと粘り強く取り組んでいたら、今日のような惨事は生じていなかったかもしれない。
またここ数カ月間について言えば、バルト海沿岸諸国や、ロシアと国境を接するそのほかの北大西洋条約機構(NATO)加盟国における米国のプレゼンスを高めておいた方がよかっただろう。オバマ氏はこれを最小限に抑えていたが、この施策はロシアのウラジーミル・プーチン大統領を大胆にしただけだったかもしれない。
ヒラリー・クリントン氏が先週述べたように、「頭を低くして撤退する時には、勢いに乗って攻めている時とは違って優れた決断ができない」のである。