【サッカー×将棋 特別対談】村井満Jリーグチェアマン×将棋棋士・渡辺明二冠「接近する将棋とサッカー」

構成/頼野亜唯子 写真/樋口涼(2014年7月23日 @東京将棋会館)

 今年1月、第5代Jリーグチェアマンに就任した村井満氏。就任以来、J3を含む全51クラブの地元訪問を実現しようと全国行脚を敢行中だが、その一方で、Jリーグの振興・発展のヒントを得ようとさまざまな“異業種”の俊傑との交流にも精力的である。そんな村井氏が、なんと将棋の棋士に会いに行った。

 対談相手の渡辺明二冠は、現在「棋王」「王将」のタイトル2冠を保持。また、かの羽生善治名人(四冠)ですら未踏の「永世竜王」資格を唯一持つ、押しも押されもせぬトップ棋士だ。

 頭脳のスポーツとも言われる将棋の世界に興味津々の村井チェアマンと、「サッカーと競馬が二大趣味」と公言するほどのサッカーファンである渡辺二冠との、楽しくも濃密な対談が実現した。

「将棋の場合は小学生の時の力関係がそのままで上がってくる。もちろん、お互いがきちんと努力した場合ですが」




村井 実は、最近たまたま『ナリキン!』(*1)という漫画を読みまして、「こんなにサッカーと将棋は近いんだ!」と知りました。それがきっかけで、こういう対談の場を作ってもらうことになりました。将棋については全くの素人なので、ピントのズレた質問をして失礼があったら申し訳ないのですが、よろしくお願いします。

渡辺 こちらこそ、よろしくお願いします。

村井 先ほど、この将棋会館の中の「将棋道場」で、夏休みの子どもたちが将棋を指しているところを見て来ました。将棋の場合、スタートの年齢は何歳ぐらいからなのでしょう?

渡辺 自分の場合は5歳か6歳、小学校に上がるぐらいの年だったと思います。プロを目指す子はそれぐらいが一番多いとされていますね。3歳ぐらいの子でも、たぶん指せるんですけど。

村井 3歳でも指せるんですか!?

渡辺 はい。ただ、反則などのルールがありますので、そういう事を理解した上でやるには、3歳ではちょっと厳しい。よほど頭のいい子なら別ですが。だから一般には小学校に上がる前くらいが多いんじゃないかと思います。それから道場などに来て腕を磨く。

村井 Jリーグは今、51クラブあるんですが、Jリーグへの入会基準として、アカデミー組織、つまり高校生世代のユース、中学生世代のジュニアユースのチームを持つことを条件にしています。今回のW杯のドイツを見てもわかるように、トップの強化を考える時に、育成年代の子どもの位置づけがすごく大事だと言われているんですね。いかに子どもの時、神経が発達するタイミングで、箸を使ってご飯を食べるように足の細かい動きを身につけられるか。でもサッカーの特徴は、何歳ぐらいから化けるかわからない。例えば長友佑都選手は愛媛県の出身ですが、ユース年代までは代表に呼ばれることもなく、大学に行ってから花開いている。そういう選手もいれば、子どもの時に神童と言われた選手が必ずしも花開かない。

渡辺 ええ、そうですよね。

村井 将棋では、後から花開くということは難しい?

渡辺 将棋の場合、プロを目指すチャンスのある年齢がサッカーよりだいぶ若く設定されているので、大学生からプロになろうというのはまず難しいです。高校生ですら厳しいですね。

村井 それは、奨励会の「26歳までに四段になる」という年齢制限から逆算すると、目一杯やっても大学からでは間に合わないということですか?

渡辺 そうですね。間に合わない。奨励会(*2)というのはプロになりたい子が集まって来るところですが、プロになれる定員は決まっているので、そこでつぶし合うわけです。そして、奨励会には15歳以下で入った方が有利で、15歳以上だとちょっと上のクラスからしか入れないので、どんどん苦しくなっていくんです。

村井 なるほど、なるほど。

渡辺 17歳でも入れますが、次に二十歳で初段という年齢制限があるので、それまで数年しかないというのは苦しい。だから基本的に若ければ若いほど有利なんですよね。その上で、26歳までにプロ(=四段)になれなければ退会という区切りがあるので、小学生で奨励会に入った方が有利だし、実際にプロになっている人を見ると、小学校とか中一ぐらいで入っている人が多いんじゃないかなと思います。

村井 逆に言うと、この子は将来上に行けるという見極めが、小さい時につくということなんでしょうか。

渡辺 そうですね……例えば、今、羽生さんと森内(俊之)さんが活躍していますが、この二人は小学校の時からライバルなんです。

村井 ああ、そうなんだ!

渡辺 ということは、羽生さんと森内さんは小学生の頃から上位で、それが今も同じようにトップなわけですけど(笑)。

村井 つまり、大逆転は起こりにくいということなんですね。

渡辺 そう思います。小学校5、6年生くらいの力関係が、そのままで上がってきちゃう。もちろん、お互いがきちんと努力した場合ですよ。どちらかがサボったりしたらダメですが、お互いが努力すれば、そのまま持ち上がっているケースが多いのかなと思います。

村井 「この子は将来性がある」と判断する要素というのは、当然、頭脳はあるでしょうけど、性格とかマインドというのかな、その辺はどういうバランスなんでしょう。だいたい頭脳で決まるんでしょうか。

渡辺 性格も大きいとは思うんですよね。サッカーはチームに属して、監督やコーチがいて、回りの大人が何らかの道筋を立ててくれる。試合を組むのも大人だし、練習メニューを組むのも大人。だからまあ、子どもは──少なくとも高校生くらいまでは──それに乗っかって行けばいいという部分があると思うんです。

村井 うん、確かにね。

渡辺 将棋の場合、監督やコーチはいません。一応、師匠はいますが、手取り足取り教えるという関係ではない。たまにしか会わないし、技術的な指導はほとんどしないというケースも多いんですね。なので、ふだん家でどういうふうに練習するかは自分で決める。

村井 自分で決めて、自分でやると。

渡辺 はい。自由な時間のうちどれくらい将棋の勉強をするか、全て自分次第だし、サボるのも勉強するのも自由。なので、その子の性格みたいなもので、プロになれるかどうかとか、プロになった後に大成するかみたいなものは、ある程度は決まって来る……もちろん、もともと持っている才能も、これはやっぱり残念ながらあるんですが。

村井 あるでしょうね。

渡辺 おそらく、みんなが同じ勉強をしたからといって同じ強さになるわけじゃなくて。サッカーもそうでしょうけど、持って生まれた運動神経があるじゃないですか。

村井 あります、あります。

渡辺 ちょっとの差なら逆転するかもしれないけれど、どうしようもなく運動神経が良い子と悪い子と、当然ながら存在してしまう。将棋でもそれはあるんです。でも将棋の場合、やっぱり自分でどういうふうに勉強していくかみたいな部分は、けっこう大きいですね。

村井 うーん、なるほどね。『将棋の子』(*3)というノンフィクション小説を読んだのですが、奨励会の子どもがプロになれるかどうかという、あれは残酷な世界ですね。

渡辺 そうですね。

村井 半期に2名ということは、1年に4名しかプロになれない?

渡辺 そうです。

村井 それが全て勝負で決まっていくわけですか?

渡辺 奨励会は6級が一番下のクラスで、そこから5、4、3、2、1級と上がって初段になって、その後に二段三段と、勝ち数などの規定によって上がりますが、三段から四段は定員制なんです。半期で上位2名。Jリーグで言えば、J2からJ1に上がる枠が3つと決まっているようなもの。三段の奨励会員が30人になっても40人になってもプロになれるのは2人なんです。

村井 厳しいですね。

渡辺 三段まで行ってようやく、そこからプロになれる割合が50%くらいになる。もちろん三段まで行けない子もいるわけです。

*1 「ナリキン!」:鈴木大四郎作のサッカー漫画。将棋の天才少年がプロサッカーチームのGKになり、将棋の戦術を駆使してチームを勝利に導く。プロ棋士・野月浩貴七段が監修。月刊少年チャンピオン(秋田書店)連載。
*2 奨励会:日本将棋連盟によるプロ棋士養成機関。関東奨励会(東京)と関西奨励会(大阪)があり、プロ棋士を目指す子どもたちが全国から入会する。
*3「将棋の子」:講談社刊、大崎善生著。奨励会でプロを目指し、志を果たせず退会した主人公の人生を描いたノンフィクション。第23回講談社ノンフィクション賞受賞。

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