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<秘密保護法>「必要性弱い」 11年、内閣法制局が指摘

毎日新聞 8月17日(日)8時0分配信

 2011年9月に初めて作られた特定秘密保護法の原案に関する政府内の協議で、「法の必要性(立法事実)が弱い」と内閣法制局に指摘されていたことが分かった。情報漏えい事件が少ないことなどが理由だった。特定秘密保護法には法律家から「立法事実がない」と批判があるが、政府内にも同様の異論があったことになる。【日下部聡、青島顕】

 内閣情報調査室(内調)は11年9月、内閣法制局の審査を随時受けながら法案を作り始めた。尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件の映像がインターネットに流出したことを機に、民主党政権が秘密保全法(当時)制定の検討を始めたためだった。

 毎日新聞の情報公開請求に開示された内調作成の「内閣法制局との検討メモ」によると、法案の素案に関して内調は11年9月20日、法制局と協議。法制局から「立法事実が弱いように思われる。防衛秘密制度を設けた後の漏えい事件が少なく、あっても起訴猶予のため、重罰化の論拠になりにくい」と指摘された。

 防衛秘密は01年の自衛隊法改正で導入され、秘密を漏らした隊員らは5年以下の懲役と定められた。適用は08年の中国潜水艦の情報の漏えい事件のみで、容疑者の空自1佐は起訴猶予処分だった。しかし内調はこの罰則を10年に引き上げることを想定。実際に特定秘密保護法でもそう定められた。内調は「ネットという新たな漏えい形態に対応する必要がある」と説明したが、法制局は「ネット(経由の漏えいの危険)と重罰化のリンク(つながり)が弱いのではないか」とも指摘した。

 その後も11月15日の協議まで、内調は内部告発サイト「ウィキリークス」を例示するなどして、ネットによる漏えいの危険性を強調。法制局は「重罰化への十分条件にはなっていない」と慎重な姿勢を保つ一方、「大きな補強材料となるだろう」とも述べて一定の理解を示した。これを最後に、昨年4月までこの件を議論した形跡はない。昨年5月以降の記録は未開示だ。

 特定秘密保護法は第1条で▽国際情勢の複雑化に伴い、情報の重要性が増大▽高度情報通信ネットワーク社会の発展で情報漏えいの危険が懸念される−−などと立法事実を規定。森雅子担当相は国会で「外国と情報共有をする上で必要」との趣旨の説明もしている。

 日本弁護士連合会は法制局の指摘と同様に「立法事実がない」と批判している。

 協議は内調側が警察庁出身の村井紀之参事官(現内閣官房)、法制局側が国土交通省出身の海谷厚志参事官(現国交省)を中心に進めた。2人は「過去の担当について話す立場にない」などとして、取材に応じていない。特定秘密保護法施行準備室の神原紀之参事官(防衛省出身)は「政府内でさまざまな観点からの議論があった」と説明している。

 ◇抽象的な立法事実

 高作正博・関西大教授(憲法)の話 国会審議でも政府は重大な情報漏えい事件として5件を例示したが、ほとんどが起訴猶予で立法事実としては弱い。警視庁の国際テロ対策資料がネット上に流出した事件の民事訴訟判決で今年1月、東京地裁が指摘したのは警視庁の情報管理体制の不十分さで、法の不備ではなかった。既に外国と情報も共有しており、立法事実としては抽象的だ。法制局の指摘は特定秘密保護法にも当てはまるのではないか。

 ◇【ことば】立法事実

 法律を作ったり改正したりする際に、その必要性を根拠づける事実のこと。法律が憲法に違反していないかどうかを裁判所が審査する際、その有無が判断基準の一つになる。

最終更新:8月17日(日)8時48分

毎日新聞

 

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