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電気自動車の充電装置の規格として、チャデモ(CHAdeMO)というものがある。これについて、私見を述べる。
まず、これまでの事情を概説する。以下では、いちいち出典は示さないので、知りたければ自分で調べてほしい。
・ 電気自動車の時代が来そうだ。
・ 充電装置(充電ステーション)が必要だ。
・ そのための規格が必要だ。
・ まだ規格ができていないので、規格を考えよう。
・ 欧米はやっていないので、日本が先行できるぞ。
・ 日本が先に規格を定めれば、日本が有利になる。
・ 日本企業が結束して、チャデモという規格をつくる。
・ 名前の由来は「お茶でも」のダジャレ。
・ 日本企業がお茶でも飲みながら談合する。
・ 欧米企業が「参加させてくれ」と打診する。
・ チャデモ協議会は「ノー。日本で独占する」と断る。
・ 欧米企業は反発した。「おれたちで自分で規格を作る」。
・ 欧米企業がコンボという規格を作る。
・ チャデモ協議会は「こっちは技術的に上だ」と威張る。
・ 欧米企業は世界連合を組み、中国を引き入れる。
・ 現状での勢力分布は「日本 対 それ以外」。日本は孤立。
・ つまり日本規格はもはやガラパゴス規格。
・ 現時点での普及台数は、チャデモの方がずっと上。
・ ただし現時点での普及率はスズメの涙程度。
・ 将来的にはコンボの勝利が見込まれる。
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以上を見ると、昔の歴史を思い出す。それは「ベータ対 VHS」だ。
ソニー「こっちの方が技術は上。普及率も上。技術がほしければ土下座しろ。無条件降伏の契約にサインしろ」
VHS 「誰にでも安価で技術供与しますよ。だからみんなで世界連合を組んで、ベータを打破しましょうね」
結果がどうなったかは、ご存じの通り。当初はベータが圧倒的だったが、最終的にはベータは撤退して VHS に統一された。
ただし、ここで日本に幸いだったことは、VHS もまた 日本の技術だった、ということだ。
一方、チャデモとコンボとでは、事情が違う。コンボは日本初の技術ではない。コンボが世界を支配すれば、日本は世界から締め出されるようなものだ。
そして、そうなるのは、最初から決まっている。
・ 仲間を組むときに日本以外を排除した。
・ 名前からして日本語のダジャレにした。
特に、後者はひどい。CHAdeMO なんて、ローマ字丸出しである。その証拠に、発音が統一されない。CHAdeMO の CHA は、ローマ字では「チャ」だが、フランス語では「シャ」である。(シャンソン chanson や、シャンパン champagne と同様。)また、ドイツ語では「cha」は「ヒャ」または「キャ」である。( → 参考 )
だいたい、CHA という文字が欧州言語ではさまざまな発音になるということは、欧州言語の基礎知識がある人には常識だ。そんなことも知らないのだから、チャデモの協議会には国際感覚のある人が皆無だったとわかる。(英語はグローバル言語だと思って、それだけで世界に通じると思っているような、阿呆ばかりだったのだろう。)
こういう人々が、世界規格よりもダジャレを優先した結果、チャデモというダジャレ名称ができた。この時点で、世界規格たる資格を失って、ガラパゴス規格になる運命となったのだ。
( ※ 欧米人の参加を拒んだのも、「英語ができないから」というような愚劣な能力不足が理由だったのかもね。)
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私としては、こう結論する。
「外国の参加を排除する、という方針を取った時点で、世界規格たる資格を失った。この時点で、ガラパゴス規格になる運命となった。そのあげく、ガラパゴス規格で世界を支配しようと考えたが、そんな野望は無理に決まっている。逆に日本が排除されるだけだ。将来の運命は決まっている。とすれば、決定的な敗北を喫する前に、さっさと撤退するべきだ。チャデモを普及させようとするのを諦めて、コンボの軍門に降るべきだ」
この際、コンボへの特許料の支払いもやむを得ない。せいぜい、クロスライセンスの形で、特許料の減免を受けるだけで我慢するべきだ
ま、現実には、特許料はたいしたことはないだろう。それよりは、名誉とか誇りとかの問題があるにすぎない。そんなものはさっさと捨てて、敗北を認めて、撤退するべきだ。
旧日本軍は、負けがわかったあとでも、徹底的に抗戦したことで、傷を深めた。傷が深くならないうちに、さっさと撤退して、白旗を揚げる方がいいのだ。
そもそも、旧日本軍は、「アメリカ相手に開戦した」という基本方針が根本的に狂っていた。もともと勝ち目のない戦いだったのである。
チャデモもまた、「日本だけで規格を独占しようとした」という基本方針が根本的に狂っていた。もともと勝ち目のない戦いだったのである。
チャデモは、旧日本軍やソニーの愚を繰り返すべきではない。負けのわかっている戦いからは、さっさと撤退するのが賢明だ。
根源を言えば、「自分だけで規格を独占しよう」という当初の野望が欲張りすぎだったのである。恨むのであれば、先人を恨むがいい。要するに、チャデモ協議会というダジャレ団体の設立が、諸悪の根源だったのである。
[ 付記 ]
現実的な見通しを立てよう。
まず、チャデモとコンボは、一つの充電装置に共存が可能である。二つの端子を一つの装置で併用可能である。だから、併用することは、技術的には難しくない。だから、併用する装置を普及させたい、というのが、チャデモ陣営の楽観的な見方だ。
一方、コンボだけの装置というのは、もっと容易である。併用装置に比べて、単機能なので、コストが少し安く済む。ざっと見て、5%ぐらいは安くなるだろう。
となると、少なくとも欧州では、次のようになる。
・ 併用機 の電気代 1.05 ユーロ
・ コンボ機の電気代 1.00 ユーロ
後者の方が 5%安い。となると、大半の人は、コンボの単機能機の方を使うことになる。そういう状況が続くと、設置者は単機能機を設置するようになるので、単機能機ばかりが普及するようになり、コストが下がる。一方、併用機は売れないので、コストが上昇する。両者の格差は、時間とともに、ますます拡大する。やがては次のようになる。
・ 併用機 の電気代 1.40 ユーロ
・ コンボ機の電気代 1.00 ユーロ
これは、ベータ対 VHS の最終時代のころに相当する。この時点で、ベータまたは併用機のシェアは、激減している。もはや絶滅寸前だ。かくて、欧州からは、併用機は排除される。自動車も、充電装置も、コンボ単機能機で統一される。チャデモはもはや「過去の化石のような規格」となる。
一方、同様のことは、日本でも成立する。ただし日本では、コンボではなくチャデモが優者となる。充電装置も、電気自動車本体も、チャデモが圧倒的に多数派となる。とはいえ、それは、日本国内だけだ。世界における日本だけというガラパゴス状態で、チャデモが局所的な勝利を得る。一方、それ以外の世界中では、コンボが勝利する。
そのあとは? 充電装置は、世界中でコンボとなるが、それだけではない。電気自動車そのものの規格が問題となる。欧米の自動車メーカーはコンボだけを生産する。日本の自動車メーカーは、コンボとチャデモの双方を生産する。そのせいで、チャデモの規格の分だけコスト高となり、不利となる。同じ電気自動車を作っても、日本メーカーの電気自動車は、双方の規格で作る分、コスト高となり、生産コストが3%ぐらい高くなる。これは無視できない差だ。そのせいで、日本の電気自動車は、世界市場で大幅にシェアを失う。当初は日本メーカーの電気自動車が世界で優勢だったが、チャデモ規格に足を引っ張られて、世界での販売台数が大幅に低下する。
かくて、「充電規格の独占で世界支配」を狙ったあげく、「肝心の電気自動車のシェアを大幅に失う」という結果となる。皮肉な計算違い。
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ただし、日本にとって幸運だったのは、その失敗が現実に起こる前に、本項で警告されていたことだ。この警告をきちんと受ければ、大失敗の落とし穴に落ちずに済む。今のうちにチャデモから撤退すれば、大損をしないで済む。日本中にチャデモの充電器(将来はゴミになるもの)を設置するという、馬鹿げたことをしないで済む。日本メーカーも、チャデモというゴミ規格に無駄な投資をしないで済む。
とはいえ、幸運をむざむざと捨てるのが、日本の常だ。あらかじめ警告されていても原発事故を防げなかった、という例もある。(本サイトは警告していたが、日本政府はそれを聞いて対策することはなかった。そのあげく、大惨事。)
チャデモも同様だろう。たぶん日本の自動車メーカーはそろって自滅への道を進むのだろう。そのあとは? トヨタや日産は、軍門に下る形で、中国の電気自動車メーカーの子会社にでもなるしかないね。(事前の警告を無視したのなら、それも仕方ないだろう。)
たとえば、日産自動車の将来的な名前は、「東風汽車日本支社」かもね。本社との違いは一つだけ。中国茶のかわりに、日本茶を飲んで、「お茶でも」と言っていることだけだ。
【 関連サイト 】
あんまり役立たないが、関連情報が下記にある。本項の見通しとは違って、「大日本帝国軍の勝利は確実」みたいな楽観的な予測も見られる。
→ どうなるEVの充電方式…EUにおける「コンボ」対「チャデモ」の戦い
→ EV用急速充電の規格争い、チャデモに負けはない
→ 電気自動車の「充電プラグ」、中国とドイツが規格統一へ・
→ EV、PHEV向けの非接触充電は、いつ頃普及するのか?
ゴーン氏一押しのリーフはCHAdeMO方式でしたが。
等の開発(規格争いも)は重要です。交渉事が苦手な日本はいろいろと損をする可能性があります。
しかし、ガソリン・軽油エンジンの自動車の利便性と信頼性には捨てがたいものがあります。
藻類による石油生産の研究開発に期待します。渡邉信氏らのグループにより沖縄の海で発見された
オーランチオキトリウムは、石油生産能力が高い。油の回収や処理を含む生産コストが1リットル当り
80円程度になることが期待されている。火力発電に使う場合は、培養したものをペレットにしたもの
を燃料にして電気を生み出すことができる。その場合は、当然、生産コストはさらに下がる。
今乗っている車の燃費は6km/L。新型マツダ デミオは30km/L。藻類による石油が実用化されれば、
現行車より、安く走れる可能性は十分ある。しかも、枯渇の心配も貿易収支崩落の心配もなくなる。
開発事情から火力発電用の燃料の方が先行する可能性もある。いずれにしても、エネルギー資源の
ない日本は、エネルギー資源の高騰で息の根を止められる脆弱な国。藻類による石油生産の研究開発
環境を整え、是非、各界からの支援を望みたいですね。日本の永続的な繁栄のために。
水素をエネルギーとして直接使うことは難しいと思います.産み出した水素を気中の炭酸ガスと化合すればアルコールになります.アルコールなら扱いは容易です.気中の炭酸ガスは廃棄物ではなくて,エネルギー資源となります.こういう発想の転換が必要だと思います.
根岸英一先生が言われた「発想の転換必要」という路線ですね。
「世の中が持続可能であるためには、ほとんどのものが何らかの形でリサイクル
されなければならない。」という主張は本質を衝いています。
ノーベル化学賞の根岸氏、CO2削減の温暖化対策「発想の転換必要」
http://sankei.jp.msn.com/world/news/110109/erp11010918560034-n1.htm
石油資源確保に関しては、藻類による原油生産は、日本にとって戦略的な研究であり事業
であると思いますが、CO2のリサイクル研究も重要テーマですね。
CO2利用に関しては、偉大な植物に追いつくことは簡単ではないでしょうが。