日本を考える夏 遺族会の悲願 靖国再考2009(文・写真/上杉隆)
靖国問題に詳しい出口晴三・元葛飾区長の綿密な調査によって、1978年のA級戦犯合祀の際、昭和天皇が示された不快感とそれを根拠に参拝に行かれなくなったというさらなる確証がみつかっている。
では、いわゆるA級戦犯の存在が天皇の参拝を妨げているのであるならば、なぜ靖国問題の解決は進まないのか。追悼施設などを作らなくても、明日にでも分祀を行えば、すぐにでも解決しそうな話ではないか。じつは分祀問題が停滞している理由は、政府、つまり政治側にある。
一見すると、いったん合祀した霊魂は分祀や廃祀することは不可能だといい続けている靖国神社側に問題があるようだが、それは畢竟、政治の問題に過ぎないのである。戦後、合祀の根拠となる祭神名票の送付事務は、旧厚生省引揚援護局が一貫して行なってきた。A級戦犯の合祀も、その行政的な手続きに基づいてというのが靖国神社の言い分である。
しかし、先述の出口氏の調査では、14人のA級戦犯の祭神名票が取り消されていることがわかってきている。しかも、その一部は、そもそも合祀の根拠となる祭神名票の送付すらされていない可能性も出てきたというのだ。
60年以上前、若き命を散らした数百万柱の英霊たちの多くは、家族を救うため、天皇を崇拝し、靖国で会おうと誓い合っていた。国立追悼施設の建設はそうした英霊、なにより残された遺族たちへの裏切りに他ならない。30年以上前までは、昭和天皇も、内閣大臣も、堂々と靖国神社に参拝していたではないか。
2002年、福田康夫官房長官(当時)が企図したころの追悼施設の建設予定地は、ある宗教団体の土地であったともいう。家族や国のために死んでいった英霊たちを、政治的な利権で穢してはならない。新しいハコものもいらない。
保守を自称する自民党のトップは、30年以上もこの問題を放置してきた。遺族会の会員の多くは高齢者だ。新しいリーダーにはなにより早くも靖国問題を解決して欲しい。
天皇陛下が靖国神社にお参りできる環境に戻すことは、簡素な行政手続きと、新しいリーダーの勇気だけで可能なのだから。