The Economist

米国と中東:再びイラクへ

2014.08.18(月)  The Economist

(英エコノミスト誌 2014年8月16日号)

米国は、軍事力と政治的な瀬戸際作戦を組み合わせることで、いくらかの前進を見せている。

イスラム国への攻撃、長期化の可能性を示唆 オバマ米大統領

イラクの過激派に対する空爆に動いたバラク・オバマ米大統領〔AFPBB News

米国の直近2代の大統領は、イラク問題で間違いを犯した。ただし、正反対の形でだ。

 ジョージ・W・ブッシュ前大統領は、2003年に華々しくイラクに攻め入り、14万8000人の兵士を送りこんだが、サダム・フセイン打倒後にイラクをどう安定化させるかについては、あまりにも考えが足りなかった。その結果は悲惨なものになった。

 バラク・オバマ大統領は、それとは違うアプローチを取った。この暴力に満ちた複雑で遠い地域に平和をもたらす能力は米国にはない、とオバマ大統領は考え、その後の展開の可能性に十分な注意を払わずにイラク駐留部隊の任務を終了させた。

 シリアについても同じ理屈で、バシャル・アル・アサド大統領に抵抗する穏健派をほとんど支援しなかった。こうした政策は、シリアとイラクで勢力を広げるスンニ派テロ組織「イスラム国(IS)」の台頭を助ける結果となった。

 だが、欧米への攻撃に燃える過激派が支配するカリフ制イスラム国家という展望を前にして、消極的だったオバマ大統領も、中東の混乱から逃れることはできないと悟り、新たな方針を試そうとしている。控えめな軍事行動と現実的な瀬戸際政策を組み合わせるやり方だ。

 中東の諸条件を考えれば、成功する可能性は限られている。だが、それ以外のどんなアプローチよりも期待できる。

危険な賭け

 8月8日、ペルシャ湾の空母から飛び立った戦闘攻撃機がISの拠点を空爆し、その進軍を食い止めた。オバマ大統領のこの行動に対しては、あまりにも限定的で遅きに失したという批判の声が上がった。米国は2カ月の間何もせず、ISがイラク北部を支配下に収めていくのを傍観していたというのだ。

 それに続いて起きたのが、人道的な惨事だ。クルド系少数派のヤジド派の住民数万人が、ISから逃れるために山岳地帯に避難した。ISはクルド人自治区の主都アルビルへの侵攻を試み、その平和で豊かな居留地を脅かしていた。

 確かに、過激派を一掃するためには、もっと多くのことをしなければならないだろう。だが、過去の過ちを教訓にしたという点では、オバマ大統領は称賛に値する。

 今回のオバマ大統領の空爆により、米国の大統領は4代続けてイラクを空爆したことになる。その連鎖を断つためには、新たな「衝撃と畏怖」作戦を展開するだけでは十分ではない。それでは、ISが結局また体勢を立て直すだけだ。必要なのは、広く国民の支持を得た政権により、イラクを政治的に安定させることだ。

 過去8年にわたって多数派のシーア派に属するヌリ・ア…
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