新しい話題もないが、
何にも書かないでいると、書くのがめんどくさくなってしまうので
重複をいとわず、まとめというか、よそのブログとに書かれていることも参考にして
簡単に。
現在、自他ともにMMTerと認めている人の中で、
代表的な論者を上げると
Warren Moser
L. Randall Wray
Scott Fullwiler
William Mitchell
Michael Hudson
Mathew Forstater
Pavrina Tcherneva
Alain Parguez
Stephanie Kelton(=Bell)
Geoffrey Ingham
といったところであろう。
これらの人々は、前々から、このブログでは
「Tcherneva の言うところの『第一世代』」として
紹介してきたような議論を立てている人々。
つまり、Tax Driven Monetary View
(Neo Chartalism)および
Employer of Last Resort (Job Guarantee Program)
政策に報じている人々である。
その中で、Warren Mosler については、
選挙向けかもしれないが、減税・（JGPを除く）財政縮小を
主張しているが、他の人については、
おいらの個人的印象としては、どちらかというと
財政拡張寄りであるように思っている。
ただし、財政拡張といっても
不景気の時に財政支出を増やせ、という意味ではなく、
景気にかかわりあいなく、民間支出に対する政府支出の比率を
高めるべきだ、と考えている。とりわけ、
医療、教育、環境保全の分野での政府による取り組みが
全く欠けている、としている。（これらの分野に関しては
Moslerも、政府の支出がふやされるべきだとしている。）
貨幣について、実物的貨幣観を放棄して
Tax Driven Monetary View を採用した結果、
政府（国家）部門（政府と中央銀行とを
合わせたもの）の債務残高がいくら大きくなっても
Operational な意味ではデフォルトリスクにさらされる危険はない、
としている。ただし、これには条件があり、
完全変動相場制をとっていること、
いかなる資産にもベースマネーを結び付けないこと、
中央銀行がコリドーシステムを維持すること、
などが必要になってくる。
中央銀行がコリドーシステムをとっている場合、
民間部門が保有する政府債務と
政府が民間から徴収しているとされる（MMTはそう考えていない）経済的
資源の間には何の関係もなくなっている。
つまり、政府が民間から経済的資源を徴収するために
国債を発行しているという事実はない。
なお、実際に民間部門が保有している国債残高は
中央銀行が金利を維持するために決定しているので、
MMT からは、 実際には国債を発行しているのは
財務省ではなく、中央銀行とみなされている。
また、中央銀行が一定の金利を維持し、
それに合わせて国債の残高を決定した場合、
政府が税収以上の支出をすることによってしか、民間が保有する
政府債務（ベースマネーおよび国債・財務省証券等）の金額が
総額で増加することはない。
つまり、事実上、新たに貨幣を発行しているのは
政府であって、中央銀行ではない、とされる。
政府が新たに貨幣を発行することで
民間から経済的資源を「徴用」するとき、
ほとんどの場合、民間側では、
新たな商取引が生まれたと考えられ、
政府の支出によって、本来民間で利用可能であった経済的資源が
奪われる、などということは発生していない。
そして、政府支出が徴税を上回ることによって
ベースマネの量が増えるとき、
ベースマネーとマネーが同額同時に増加するため、
貨幣市場では超過準備が発生する。
そのためインターバンク市場で金利がゼロにまで圧縮されてしまい、
銀行間取引が阻害されることになる。
これを避けるため、中央銀行が
金利を適切に維持するべく、国債や財務省証券などの流通残高を
調整している。
財務省が「財源を調達するため」と称して発行した国債の額が
不十分であれば、中央銀行は手持ちの国債を追加して民間に売却するし、
財務省の発行額が大きすぎれば、これを自ら買い取ってしまう。
つまり、財務省が国債を発行することで
民間が生み出した所得を徴用している、などという現実は
存在しない。
同じ意味で、国債の「マネタイゼーション」などということは
実行不可能。そんなことをすれば、インターバンク金利は途端に
ゼロにまで圧縮されてしまうだろう。
現にアメリカにしろ日本にしろ、
「金融緩和」などと称して実際にやっていることは
インターバンク市場に、国債とほぼ同等の条件で
新しい有利子資産を供給しているのであって、
マネーがtime deposit facility や「超過準備に対する付利制度」の
増加に見合って増加している事実はない。
中央銀行が、コリドーシステムを維持して、
金利を適切な水準に保ち続けている限り、
国債残高が増えすぎて、それが原因となって、高インフレが
発生する恐れはない、とする。これは、
オイルショックや民間における投資が過熱して
それによってインフレが発生する可能性を否定するものではない。
しかし、以下は私見になるが、
そのような状況下では
民間手持ちの国債残高が多かろうと少なかろうと
中央銀行が決意を持って
コリドーシステムの目標金利を大幅に引き上げない限り
インフレを食い止めることはできない。
中央銀行は、インターバンクレートを大幅に引き上げると決断しない限り、
民間の手持ち国債残高が大きければ、
それを買い取り続ける（この意味では、まさに国債の「マネタイゼーション」は
可能である）だろうし、なければないで、
金利を今の水準に維持するため、オーバーローンでも何でも
ベースマネーを供給し続けざるを得ない。
金融引き締めをやるとなれば、ボルカー氏が80年代初頭にやったように
20%でも30%にでもインターバンク金利を引き上げるしかないだろう。国債の
残高には関係ない。（と、
ここまではおいらの私見。）
他方で、デフレに対してベースマネーの貨幣価値を保ち続けるのは
JGPあるいはELR政策である。
地方政府やNPOが、民間営利部門によっては供給できない分野の仕事のため、
民間営利部門で失業した人々を、一定の賃金のもと、
無制限に雇用できるように、政府は資金を提供する。
これはつまり、金本位制度と同じような発想だが、
失業者が増えた時には、ベースマネーおよびマネーの新規発行量が増え、
それによって、雇用の確保と賃金水準の下支えを行う。
民間営利部門での失業者が減った時には
ベースマネーおよびマネーの増加率、場合によっては残高自体が
減少する。金本位制のもとでは、金の市場価格が下がれば
中央銀行が金を買い取り、貨幣供給量が増える。
（地方的な問題があるが、一般生産部門での雇用が減少する一方、
金採掘部門で雇用が増える。）
金の市場価格が上がれば、それと逆のことが生じる。
つまり、金採掘労働こと行われないが、
実際にはそれよりはるかに有意義なこと、地域差の少ないやり方で
雇用と貨幣価値の安定とを同時に実現できる、というわけだ。
そればかりではない。
こうすることで、ベースマネーの価値が維持されるだけでなく、
債務ヒエラルキー自体が安定したものになる。
現代の経済は、極めて複雑な債務システムの上に構築されている。
数多くの経済主体が発行する様々な負債が、
支払い手段として流通しているが、
これらの負債は、最終的には、より上位の負債によって
決済されなければならない。そして、このヒエラルキーの頂点にあるのが
ベースマネーであるわけだが、
しかしいくらベースマネーを大量供給して
銀行システムの安定を図ったところで、
銀行債務（預金）より低位の負債の価値が崩壊してしまえば、
経済の安定化は守られない。
バーナンキ氏は、QEを「大規模資産購入プログラム」と呼んだ。
実際、バーナンキ氏のやり方によって、数多くの危険資産の価値が
維持されたのは事実である。
だが、それは、社会的な不公平感を一層高めるという代償つきであった。
なぜなら、このバブル崩壊を引き起こした当の本人たちが抱えている資産の価値は
保持されたのに、多くの労働者が、失業にさらされ守られることはなかったからである。
そして、「お前たちが一日も早く再雇用されるように、
富裕層の資産価値を守ってやったのだ」といわれても、納得できるわけがない。
そこで、失業状態が長期化した人々の中からは、
「やってランねえよ」ということで、アルコールや薬に走る人々も出てくるであろう。
そうなってしまえば、たとえその後景気が良くなったとしても、
彼らは労働者として使い物にならず、社会的な不安定要因になりかねない。
JGPには、貨幣価値を安定させるだけでなく、
第二に、こうした人々の所得と尊厳とを守ることにも向けられている。
JGPで職を得た人々は、労働力としての自らの能力を
維持できるであろう。それは、次の景気回復時には、労働力となって
民間の営利部門に労働力を提供するべき、バッファー・ストック効果を期待できるとしている。
これは、同時に、景気回復時に急激に労賃が上昇することでインフレ圧力が発生することを
回避することにもつながる。
そして、彼らの所得が守られる、ということは彼らの支出も、守られる、
ということである。
だから、彼らの支出によって売り上げを立てている人々の所得および彼らが発行している
負債の価値、さらには、彼らが発行した負債を資産として保有している人々の
資産価値を守ることになる。こうして、債務ヒエラルキーが「下層から」維持再生産されることになる。
なお、こうして負債の価値が守られれば、
行き過ぎた「合理化」には歯止めがかかる。今や、過去の借入金を返済し、自分自身が発行する
負債の価値を守るためには、少なくなった売り上げに対応して支出を減らすことよりは
売り上げを維持することのほうが重要になる。おのずと、
支出の減少幅も小さくなる。これまた私見だが、
この辺のことは、いくら詳論しても、学者さんたちにはわかってもらえない、と思う。
（いや、MMTの連中だって、ほとんど学者さんなんだけど。）一番よく、身に染みて実感できるのは、
まあ、自分自身のことを言ってりゃあ世話ないけれど、
やっぱり、製造業なり商業なりで資金繰りを担当し、
毎日銀行に頭を下げているような立場の人間だと思う。
銀行は、「売り上げの増加を前提としないで、費用削減だけで
借入金の返済計画を立ててください」と、言う。確かにこれは、現状では
適切な指示なのだが、
人を減らすばっかりではおのずと限界がある。なんせ、よその企業も
みんな同じことを考えているのだ。経済全体が、際限のない縮小再生産に向かってしまう。
（と、いうとまた学者さんは、いや、無限に繰り返されれば、一定の値に収束するはずだ、
なんていうかもしれないけれど、しかし毎度おなじみの教科書的な数学モデルを使えば、
すべての経済主体が一斉に支出の切り下げを実行すると、
単純に考えて、固定費がない限り、
自分自身が支出を切り下げるのより大きな比率で売り上げのほうが減少してしまい、
当然むしろ理論的にはすべての経済主体が、売り上げゼロになってしまうんじゃないかと思う。
もちろん、固定費があるからそうはならない、というかもしれないが、おいらの勤務先は
よその企業や個人から固定的収入をあげられるような業種ではないので。）
MMTと主流派経済学の違いの一つに、
こうした債務ヒエラルキーをどのように認識するのか、という問題がある。
主流派経済学にとっては、貨幣制度は社会的なインフラだというが、
実際には、それがベースマネーのことを指しているのか、
マネーのことを指しているのか、広義流動性のことを指しているのか、
よくわからない。
民間非金融部門内部の取引では、政府部門の負債が支払い手段として用いられることは
必ずしも多いわけではない。あるいはマネーを得るための対価として割引かれた
様々な負債が日常的に金融部門内部で取引されている。
（日本ではまだ少ないが）売掛金や（特に日本で多いが）約束手形、
信用状と船荷証券やCP、こうしたものが常に資金調達の手段として割引かれ、
取引されている。
いくらベースマネーを増やしました、といったところで、
こうした、個々の経済主体が発行する負債の価値が全く顧みられず、
引き受ける側の自己責任で引き受けたまえ、というのでは、
いくら金融を「緩和」したところで、広い意味での、つまり、こうした
民間非金融部門が発行する負債が割引かれ、取引されるという意味での金融市場は
タイトなままであろう。要するに、負債が発行され決済される経路を
守らなければ、貨幣を守ったことにはならない、というのが、MMTの認識である。
そして、MMTを方法論的に特徴づけるのが、Stock=Flow Consistent Approach である。
民間営利部門がすべて利益を上げようとしている、つまり、純資産を増やそうとしている場合、
これが実現するには、
民間営利部門以外の部門が、負債の発行残高の増加が資産の増加を上回っていなければならない。
つまり、民間営利企業部門の純資産が増加するには、政府部門か海外部門、民間家計部門で
債務の増加が資産の増加を上回っているか、
債務の減少のほうが資産の減少より少なくなっていなければならない。
民間企業の場合、「その他包括利益（純資産直入項）」を除けば
当期利益の発生（純資産の増加）は、
売上げから費用を差し引きしたものとイコールである。
したがって、民間企業部門の売り上げからキャッシュアウトする費用を差し引きした
正味キャッシュフローは、
総額では上記3部門の純キャッシュアウトの合計になっていなければならない。
したがって、民間家計部門を別とすれば―常に別にできるとは、限らないわけだが―
海外部門か政府部門が負債の発行残高を増やす（あるいは資産の減少額以下に
抑える）しかない。民間営利企業部門の経済活動の結果、
政府の貨幣発行残高が増え、民間の貨幣資産の保有残高が増えた時、
金利が低下する。特に、不況期に、民間企業部門が負債圧縮に走るようなケースでは
インターバンク市場で金利が急落し、ゼロに到達してしまう。
これを避けるために、政府が新たに有利子負債を発行するか中央銀行が
手持ちの国債等を手放すか、あるいは、超過準備に対する付利制度などの形で
インターバンクレートをゼロ以上に維持することが必要になってくる。
民間企業部門が、負債圧縮をやめたとしても
新規に投資する分野がない限り、民間企業部門全体としては
政府の債務を購入するか、海外の資産を購入する以外にない。
ここで民間部門内部で投資が盛んになれば、
民間部門全体としては、政府部門あるいは海外部門から資金を調達することになる。
そのためには、手持ちの政府負債を政府（中央銀行）に売却することになる。
中央銀行はコリドーシステムを維持する以上、これに応じるしかない。
政府負債は、それがベースマネーという形を取ろうと有利子負債という形を取ろうと
民間部門が成長し続けるためには（海外部門を別とすれば）増加し続けざるを得ない。
特に不況期には、政府が貨幣を新たに発行する（支出額＞徴税額）ことによって
行われる支出は、民間部門の所得を増やすだけであり、
民間部門の経済的資源を犠牲にすることにはならない。むしろ民間部門の
所得は増えるのである。増えた所得の行き場所がないから、
結果的に政府が有利子負債を増やすことになるのであって、
民間から資源を徴用するため、有利子負債を発行するわけではない。
これは、
政府が国債を増やせば自動的に民間の資産が増える、ということではない。
政府（財務省）が国債を発行して資金を調達し、それを支出して
民間からものを購入しているのではなくて、
政府が、徴税を上回る支出をすることで、それがなければ行われなかったであろう
民間の生産活動が行われれば、それによって政府の貨幣発行額と等しい
貨幣所得が民間部門に形成されるのであり、
その結果、金利が低下しすぎるのを防ぐために、国債が発行されているのである。
この考え方に従うなら、確かに、
財務省の発行した国債の残高がいくら多かろうと、
それによってインフレが生じることもない。民間の経済活動に起因するインフレも
バッファーストック効果が本当に期待通りの効果を上げるのであれば
インフレに対しても、抑制的な効果があるかもしれない。
ただ、個人的には、ここでは長期的な分配にかかわる問題が
軽視されている（少なくとも、Moslerは、問題があることを認識してはいる）と
感じざるを得ない。
念のために強調しておくと、
かなり誤解されていることではあるけれど
MMTは（少なくとも第一世代は）いくら国債が増えても、政府支出が増えても
インフレが発生しない、などと、一言も言っていない。
Wrayは、クルグマンのブログに寄せたコメントの中で、
少なくとも、自分とStephanie Kelton(Bell)と、Mitchel Hudson (Mathew
Forster だったかな）の3名はそんなことを一言も言っていない、
と語っていたが、おいらの知る限り、それ以外の人も言っていない。
（Mosler だけは、そうとられかねないようなことを
あっちこっちで言っているんじゃなかろうか、という気がする。ただし
彼は、財政支出削減派だけれどね。）
無軌道に貨幣を乱発すれば、インフレになるのは当然であって、
そんなことを言っているわけではないし、
政府支出の拡大（直接雇用ではなく）によって景気を刺激し、
それによって完全雇用を達成しようとすれば、
完全雇用達成前にインフレが発生し、いわゆる「インフレと失業率のトレードオフ」
問題に逢着することは、はっきりしている。少なくとも
第一世代のMMTer の中には、そのようなことを主張している人は
一人もいない。現在の合衆国の支出（医療や教育向けの）が少なすぎる、
と主張することと、財政支出をいくら増やしてもインフレになる心配はない、
という主張の間には、相当の開きがあるのだが、
「財政ヒステリア」のみならず、クルグマン（彼自身の主張は
まさにその通りなのだが）のような人からもそのような批判を受けているのは
珍妙な話である。
と、まあこのあたりが、上記MMT主流派の人々の間に共通した考え方だと思う。
正直な話、日本のブログやなんかにもちょっとだけ目を通したけれど
MMTの主張を、ごくかいつまんですら、きちんと理解している、といえるようなものには
全くお目にかからなかった。
Wray に関しては、80年代末のドクター論文が、
日本でも比較的多くの人の注目を集めている。ただし、これはまだ
彼がMMTer を名乗る前の、構造主義時代のものである。もちろん、
立場が多少変わっても、共通しているものも多く、大変勉強させてもらった。
情けないのが、多くのブロガーたちが、MMTに言及するといっても、
単に、クルグマンのブログで書かれていることをうのみにしたり
自分で適当に想像で膨らませただけ、というのが多いという点である。
で、問題なのが、クルグマン自身のMMTに対する理解も相当お粗末なのだが、
そのクルグマンが参照しているMMTの議論というのが
Cullen Roche という人が書いたペーパーなのである。
このRoche という人、以前は、確かにMMTer を名乗っていたのだけれど、
実際には、その後、趣旨替えをして、Monetary Realism と名乗っている。
いや「趣旨替え」という言い方は、公平ではない。
彼自身は、確かに、当初MMTerだったのである。だが、彼の主張、
とりわけJGPに対する考え方などは、当初から『第一世代』とは異なっており、
それが（たぶん）主因となって、MMTの主流から外れたのである。
クルグマンがブログで参照したのは、11年のことで、そのころはまだ
MMTを名乗っていたのであるけれど、
クルグマン自身が参照しているペーパーを読む限り、
すでにMMTの主流派とはやや趣を異にする立場に立っている。
クルグマンは、これをMMTと理解しており（ただし、クルグマンは
Rocheの議論自体も、きちんと消化していないと思う）
そのあたりも、ちょっといろんな誤解を生んだ理由の一つのような気もする。
Moslerのインタビュー記事などを邦訳しているブログもあり、
これなんかは、参考にさせてもらったが、
どちらかというと、Moslerの主張の内容よりも、Moslerの人となりを知るうえで
役立ったという次第。（それはそれで、大変役に立ったけど。）
それより、こういうインタビュー記事のようなものを翻訳した人は、
どうして、直接Mosler の書いたものに目を通そうとしなかったのだろう、と、
その点を残念に思う。（たぶん、ぶあっつい論文なんか、読んでる時間ねえよ、
と、いうことだったのかもしれないが、
特に最初のパンフレットなんか、
実際手に取ってみるとね、「なんじゃこりゃ、絵本か？」というような、
まあ何というか、、、すごいんだよなあ。。。まあ、内容的に
英文簿記がわかってないと、というのはあることはあるけれど。。。）
ただ、おひとり、なんでも「人気ブロガー」なのだそうだが、
MMTのことを「ブードゥー経済学」なんぞと酷評しているから
どのような徹底批判か、と思ったら、、、
おそらく、ご当人、全然英語が読めないのだねえ。。。
妄想だけで、縁もゆかりもない他人のことを悪く書くのは、
はたから見てて、ご自分のほうがみっともないので
およしになったほうがいいように思うのだが。。。。
（しっかし、こういう人が「人気ブロガー」になるという
この日本の知的状況、やばくね？）
さて、MMTer は、先行者として
とりあえず、4名の名前を挙げている。
フレデリック・クナップ
マイケル・イネス
メイナード・ケインズ
アバ・ラーナー
の、4人である。
クナップについては、経済学説史の授業をとった人なら、
名前を一度ぐらいは聞いたことがあるのではないだろうか。
ドイツ歴史学派の末裔である。
ケインズについては、説明する必要もないだろうが、
特に重視しているのは、『貨幣論』の最初の2章である。
マイケル・イネスとは、全く無名の銀行実務家であり、
日本では、一応、楊枝嗣郎先生の論文で取り上げられている。
アバ・ラーナーは、北欧学派の流れを汲む人で、
「マーシャル・ラーナー条件」とか
「ラーナーの独占度」などの概念で学習するが、
MMTの立場から重要なのは
Functional Finance といわれる考え方で、
財政支出の功罪は、その支出の結果によって判断されるべきで、
財務内容（赤字か黒字か、債務が大きいか小さいか）で
判断されるべきではない、というもの。
この4名は、MMTの思想的源泉として特別な重要性を与えられているが、
他に重要な影響を与えたのが
M.カレツキー
H.ミンスキー
W.ゴドリー
などが挙げられる。
また、近年、ゴドリーと結びつけて論じられることの多い
A.グラジアニについては、竹永進先生の、
全部集めるとかなり浩瀚な研究が発表されているが
ネットでは全文読むことができない。。。。多分、おいらの調べ方が
悪いと思うのだが、、、、なんでかな。。。
また、MMTの議論をおおむね認めたうえで
JGPによる雇用維持ではなく、より積極的な財政戦略を要求しているのが
G.Kadomos & P.A.O'Hara で、
これについては近い将来、このブログでコメントする予定。
MMT（というより、Tax Driven Monetary View + コリドーシステム）の議論を使って、
財政支出による景気浮揚なんてことを考えている人には
むしろMMT第一世代よりは、こっちのほうが興味あるんじゃないかと思う。
逆にTaxDriven View やStock=Flow Consistent Approach よりも
JGPのほうを重視する人にBlack Alcottなんて人もいる。
これは経済学よ言うより政治学に近い人だが、
まあ、G. Inghum は社会学者だから、それもいいのかもしれない。
（でも、政府がデフォルトしない論理的根拠というものを
ある程度共有していないと、MMTer と呼ぶには、ちょっとね。）
何にも書かないでいると、書くのがめんどくさくなってしまうので
重複をいとわず、まとめというか、よそのブログとに書かれていることも参考にして
簡単に。
現在、自他ともにMMTerと認めている人の中で、
代表的な論者を上げると
Warren Moser
L. Randall Wray
Scott Fullwiler
William Mitchell
Michael Hudson
Mathew Forstater
Pavrina Tcherneva
Alain Parguez
Stephanie Kelton(=Bell)
Geoffrey Ingham
といったところであろう。
これらの人々は、前々から、このブログでは
「Tcherneva の言うところの『第一世代』」として
紹介してきたような議論を立てている人々。
つまり、Tax Driven Monetary View
(Neo Chartalism)および
Employer of Last Resort (Job Guarantee Program)
政策に報じている人々である。
その中で、Warren Mosler については、
選挙向けかもしれないが、減税・（JGPを除く）財政縮小を
主張しているが、他の人については、
おいらの個人的印象としては、どちらかというと
財政拡張寄りであるように思っている。
ただし、財政拡張といっても
不景気の時に財政支出を増やせ、という意味ではなく、
景気にかかわりあいなく、民間支出に対する政府支出の比率を
高めるべきだ、と考えている。とりわけ、
医療、教育、環境保全の分野での政府による取り組みが
全く欠けている、としている。（これらの分野に関しては
Moslerも、政府の支出がふやされるべきだとしている。）
貨幣について、実物的貨幣観を放棄して
Tax Driven Monetary View を採用した結果、
政府（国家）部門（政府と中央銀行とを
合わせたもの）の債務残高がいくら大きくなっても
Operational な意味ではデフォルトリスクにさらされる危険はない、
としている。ただし、これには条件があり、
完全変動相場制をとっていること、
いかなる資産にもベースマネーを結び付けないこと、
中央銀行がコリドーシステムを維持すること、
などが必要になってくる。
中央銀行がコリドーシステムをとっている場合、
民間部門が保有する政府債務と
政府が民間から徴収しているとされる（MMTはそう考えていない）経済的
資源の間には何の関係もなくなっている。
つまり、政府が民間から経済的資源を徴収するために
国債を発行しているという事実はない。
なお、実際に民間部門が保有している国債残高は
中央銀行が金利を維持するために決定しているので、
MMT からは、 実際には国債を発行しているのは
財務省ではなく、中央銀行とみなされている。
また、中央銀行が一定の金利を維持し、
それに合わせて国債の残高を決定した場合、
政府が税収以上の支出をすることによってしか、民間が保有する
政府債務（ベースマネーおよび国債・財務省証券等）の金額が
総額で増加することはない。
つまり、事実上、新たに貨幣を発行しているのは
政府であって、中央銀行ではない、とされる。
政府が新たに貨幣を発行することで
民間から経済的資源を「徴用」するとき、
ほとんどの場合、民間側では、
新たな商取引が生まれたと考えられ、
政府の支出によって、本来民間で利用可能であった経済的資源が
奪われる、などということは発生していない。
そして、政府支出が徴税を上回ることによって
ベースマネの量が増えるとき、
ベースマネーとマネーが同額同時に増加するため、
貨幣市場では超過準備が発生する。
そのためインターバンク市場で金利がゼロにまで圧縮されてしまい、
銀行間取引が阻害されることになる。
これを避けるため、中央銀行が
金利を適切に維持するべく、国債や財務省証券などの流通残高を
調整している。
財務省が「財源を調達するため」と称して発行した国債の額が
不十分であれば、中央銀行は手持ちの国債を追加して民間に売却するし、
財務省の発行額が大きすぎれば、これを自ら買い取ってしまう。
つまり、財務省が国債を発行することで
民間が生み出した所得を徴用している、などという現実は
存在しない。
同じ意味で、国債の「マネタイゼーション」などということは
実行不可能。そんなことをすれば、インターバンク金利は途端に
ゼロにまで圧縮されてしまうだろう。
現にアメリカにしろ日本にしろ、
「金融緩和」などと称して実際にやっていることは
インターバンク市場に、国債とほぼ同等の条件で
新しい有利子資産を供給しているのであって、
マネーがtime deposit facility や「超過準備に対する付利制度」の
増加に見合って増加している事実はない。
中央銀行が、コリドーシステムを維持して、
金利を適切な水準に保ち続けている限り、
国債残高が増えすぎて、それが原因となって、高インフレが
発生する恐れはない、とする。これは、
オイルショックや民間における投資が過熱して
それによってインフレが発生する可能性を否定するものではない。
しかし、以下は私見になるが、
そのような状況下では
民間手持ちの国債残高が多かろうと少なかろうと
中央銀行が決意を持って
コリドーシステムの目標金利を大幅に引き上げない限り
インフレを食い止めることはできない。
中央銀行は、インターバンクレートを大幅に引き上げると決断しない限り、
民間の手持ち国債残高が大きければ、
それを買い取り続ける（この意味では、まさに国債の「マネタイゼーション」は
可能である）だろうし、なければないで、
金利を今の水準に維持するため、オーバーローンでも何でも
ベースマネーを供給し続けざるを得ない。
金融引き締めをやるとなれば、ボルカー氏が80年代初頭にやったように
20%でも30%にでもインターバンク金利を引き上げるしかないだろう。国債の
残高には関係ない。（と、
ここまではおいらの私見。）
他方で、デフレに対してベースマネーの貨幣価値を保ち続けるのは
JGPあるいはELR政策である。
地方政府やNPOが、民間営利部門によっては供給できない分野の仕事のため、
民間営利部門で失業した人々を、一定の賃金のもと、
無制限に雇用できるように、政府は資金を提供する。
これはつまり、金本位制度と同じような発想だが、
失業者が増えた時には、ベースマネーおよびマネーの新規発行量が増え、
それによって、雇用の確保と賃金水準の下支えを行う。
民間営利部門での失業者が減った時には
ベースマネーおよびマネーの増加率、場合によっては残高自体が
減少する。金本位制のもとでは、金の市場価格が下がれば
中央銀行が金を買い取り、貨幣供給量が増える。
（地方的な問題があるが、一般生産部門での雇用が減少する一方、
金採掘部門で雇用が増える。）
金の市場価格が上がれば、それと逆のことが生じる。
つまり、金採掘労働こと行われないが、
実際にはそれよりはるかに有意義なこと、地域差の少ないやり方で
雇用と貨幣価値の安定とを同時に実現できる、というわけだ。
そればかりではない。
こうすることで、ベースマネーの価値が維持されるだけでなく、
債務ヒエラルキー自体が安定したものになる。
現代の経済は、極めて複雑な債務システムの上に構築されている。
数多くの経済主体が発行する様々な負債が、
支払い手段として流通しているが、
これらの負債は、最終的には、より上位の負債によって
決済されなければならない。そして、このヒエラルキーの頂点にあるのが
ベースマネーであるわけだが、
しかしいくらベースマネーを大量供給して
銀行システムの安定を図ったところで、
銀行債務（預金）より低位の負債の価値が崩壊してしまえば、
経済の安定化は守られない。
バーナンキ氏は、QEを「大規模資産購入プログラム」と呼んだ。
実際、バーナンキ氏のやり方によって、数多くの危険資産の価値が
維持されたのは事実である。
だが、それは、社会的な不公平感を一層高めるという代償つきであった。
なぜなら、このバブル崩壊を引き起こした当の本人たちが抱えている資産の価値は
保持されたのに、多くの労働者が、失業にさらされ守られることはなかったからである。
そして、「お前たちが一日も早く再雇用されるように、
富裕層の資産価値を守ってやったのだ」といわれても、納得できるわけがない。
そこで、失業状態が長期化した人々の中からは、
「やってランねえよ」ということで、アルコールや薬に走る人々も出てくるであろう。
そうなってしまえば、たとえその後景気が良くなったとしても、
彼らは労働者として使い物にならず、社会的な不安定要因になりかねない。
JGPには、貨幣価値を安定させるだけでなく、
第二に、こうした人々の所得と尊厳とを守ることにも向けられている。
JGPで職を得た人々は、労働力としての自らの能力を
維持できるであろう。それは、次の景気回復時には、労働力となって
民間の営利部門に労働力を提供するべき、バッファー・ストック効果を期待できるとしている。
これは、同時に、景気回復時に急激に労賃が上昇することでインフレ圧力が発生することを
回避することにもつながる。
そして、彼らの所得が守られる、ということは彼らの支出も、守られる、
ということである。
だから、彼らの支出によって売り上げを立てている人々の所得および彼らが発行している
負債の価値、さらには、彼らが発行した負債を資産として保有している人々の
資産価値を守ることになる。こうして、債務ヒエラルキーが「下層から」維持再生産されることになる。
なお、こうして負債の価値が守られれば、
行き過ぎた「合理化」には歯止めがかかる。今や、過去の借入金を返済し、自分自身が発行する
負債の価値を守るためには、少なくなった売り上げに対応して支出を減らすことよりは
売り上げを維持することのほうが重要になる。おのずと、
支出の減少幅も小さくなる。これまた私見だが、
この辺のことは、いくら詳論しても、学者さんたちにはわかってもらえない、と思う。
（いや、MMTの連中だって、ほとんど学者さんなんだけど。）一番よく、身に染みて実感できるのは、
まあ、自分自身のことを言ってりゃあ世話ないけれど、
やっぱり、製造業なり商業なりで資金繰りを担当し、
毎日銀行に頭を下げているような立場の人間だと思う。
銀行は、「売り上げの増加を前提としないで、費用削減だけで
借入金の返済計画を立ててください」と、言う。確かにこれは、現状では
適切な指示なのだが、
人を減らすばっかりではおのずと限界がある。なんせ、よその企業も
みんな同じことを考えているのだ。経済全体が、際限のない縮小再生産に向かってしまう。
（と、いうとまた学者さんは、いや、無限に繰り返されれば、一定の値に収束するはずだ、
なんていうかもしれないけれど、しかし毎度おなじみの教科書的な数学モデルを使えば、
すべての経済主体が一斉に支出の切り下げを実行すると、
単純に考えて、固定費がない限り、
自分自身が支出を切り下げるのより大きな比率で売り上げのほうが減少してしまい、
当然むしろ理論的にはすべての経済主体が、売り上げゼロになってしまうんじゃないかと思う。
もちろん、固定費があるからそうはならない、というかもしれないが、おいらの勤務先は
よその企業や個人から固定的収入をあげられるような業種ではないので。）
MMTと主流派経済学の違いの一つに、
こうした債務ヒエラルキーをどのように認識するのか、という問題がある。
主流派経済学にとっては、貨幣制度は社会的なインフラだというが、
実際には、それがベースマネーのことを指しているのか、
マネーのことを指しているのか、広義流動性のことを指しているのか、
よくわからない。
民間非金融部門内部の取引では、政府部門の負債が支払い手段として用いられることは
必ずしも多いわけではない。あるいはマネーを得るための対価として割引かれた
様々な負債が日常的に金融部門内部で取引されている。
（日本ではまだ少ないが）売掛金や（特に日本で多いが）約束手形、
信用状と船荷証券やCP、こうしたものが常に資金調達の手段として割引かれ、
取引されている。
いくらベースマネーを増やしました、といったところで、
こうした、個々の経済主体が発行する負債の価値が全く顧みられず、
引き受ける側の自己責任で引き受けたまえ、というのでは、
いくら金融を「緩和」したところで、広い意味での、つまり、こうした
民間非金融部門が発行する負債が割引かれ、取引されるという意味での金融市場は
タイトなままであろう。要するに、負債が発行され決済される経路を
守らなければ、貨幣を守ったことにはならない、というのが、MMTの認識である。
そして、MMTを方法論的に特徴づけるのが、Stock=Flow Consistent Approach である。
民間営利部門がすべて利益を上げようとしている、つまり、純資産を増やそうとしている場合、
これが実現するには、
民間営利部門以外の部門が、負債の発行残高の増加が資産の増加を上回っていなければならない。
つまり、民間営利企業部門の純資産が増加するには、政府部門か海外部門、民間家計部門で
債務の増加が資産の増加を上回っているか、
債務の減少のほうが資産の減少より少なくなっていなければならない。
民間企業の場合、「その他包括利益（純資産直入項）」を除けば
当期利益の発生（純資産の増加）は、
売上げから費用を差し引きしたものとイコールである。
したがって、民間企業部門の売り上げからキャッシュアウトする費用を差し引きした
正味キャッシュフローは、
総額では上記3部門の純キャッシュアウトの合計になっていなければならない。
したがって、民間家計部門を別とすれば―常に別にできるとは、限らないわけだが―
海外部門か政府部門が負債の発行残高を増やす（あるいは資産の減少額以下に
抑える）しかない。民間営利企業部門の経済活動の結果、
政府の貨幣発行残高が増え、民間の貨幣資産の保有残高が増えた時、
金利が低下する。特に、不況期に、民間企業部門が負債圧縮に走るようなケースでは
インターバンク市場で金利が急落し、ゼロに到達してしまう。
これを避けるために、政府が新たに有利子負債を発行するか中央銀行が
手持ちの国債等を手放すか、あるいは、超過準備に対する付利制度などの形で
インターバンクレートをゼロ以上に維持することが必要になってくる。
民間企業部門が、負債圧縮をやめたとしても
新規に投資する分野がない限り、民間企業部門全体としては
政府の債務を購入するか、海外の資産を購入する以外にない。
ここで民間部門内部で投資が盛んになれば、
民間部門全体としては、政府部門あるいは海外部門から資金を調達することになる。
そのためには、手持ちの政府負債を政府（中央銀行）に売却することになる。
中央銀行はコリドーシステムを維持する以上、これに応じるしかない。
政府負債は、それがベースマネーという形を取ろうと有利子負債という形を取ろうと
民間部門が成長し続けるためには（海外部門を別とすれば）増加し続けざるを得ない。
特に不況期には、政府が貨幣を新たに発行する（支出額＞徴税額）ことによって
行われる支出は、民間部門の所得を増やすだけであり、
民間部門の経済的資源を犠牲にすることにはならない。むしろ民間部門の
所得は増えるのである。増えた所得の行き場所がないから、
結果的に政府が有利子負債を増やすことになるのであって、
民間から資源を徴用するため、有利子負債を発行するわけではない。
これは、
政府が国債を増やせば自動的に民間の資産が増える、ということではない。
政府（財務省）が国債を発行して資金を調達し、それを支出して
民間からものを購入しているのではなくて、
政府が、徴税を上回る支出をすることで、それがなければ行われなかったであろう
民間の生産活動が行われれば、それによって政府の貨幣発行額と等しい
貨幣所得が民間部門に形成されるのであり、
その結果、金利が低下しすぎるのを防ぐために、国債が発行されているのである。
この考え方に従うなら、確かに、
財務省の発行した国債の残高がいくら多かろうと、
それによってインフレが生じることもない。民間の経済活動に起因するインフレも
バッファーストック効果が本当に期待通りの効果を上げるのであれば
インフレに対しても、抑制的な効果があるかもしれない。
ただ、個人的には、ここでは長期的な分配にかかわる問題が
軽視されている（少なくとも、Moslerは、問題があることを認識してはいる）と
感じざるを得ない。
念のために強調しておくと、
かなり誤解されていることではあるけれど
MMTは（少なくとも第一世代は）いくら国債が増えても、政府支出が増えても
インフレが発生しない、などと、一言も言っていない。
Wrayは、クルグマンのブログに寄せたコメントの中で、
少なくとも、自分とStephanie Kelton(Bell)と、Mitchel Hudson (Mathew
Forster だったかな）の3名はそんなことを一言も言っていない、
と語っていたが、おいらの知る限り、それ以外の人も言っていない。
（Mosler だけは、そうとられかねないようなことを
あっちこっちで言っているんじゃなかろうか、という気がする。ただし
彼は、財政支出削減派だけれどね。）
無軌道に貨幣を乱発すれば、インフレになるのは当然であって、
そんなことを言っているわけではないし、
政府支出の拡大（直接雇用ではなく）によって景気を刺激し、
それによって完全雇用を達成しようとすれば、
完全雇用達成前にインフレが発生し、いわゆる「インフレと失業率のトレードオフ」
問題に逢着することは、はっきりしている。少なくとも
第一世代のMMTer の中には、そのようなことを主張している人は
一人もいない。現在の合衆国の支出（医療や教育向けの）が少なすぎる、
と主張することと、財政支出をいくら増やしてもインフレになる心配はない、
という主張の間には、相当の開きがあるのだが、
「財政ヒステリア」のみならず、クルグマン（彼自身の主張は
まさにその通りなのだが）のような人からもそのような批判を受けているのは
珍妙な話である。
と、まあこのあたりが、上記MMT主流派の人々の間に共通した考え方だと思う。
正直な話、日本のブログやなんかにもちょっとだけ目を通したけれど
MMTの主張を、ごくかいつまんですら、きちんと理解している、といえるようなものには
全くお目にかからなかった。
Wray に関しては、80年代末のドクター論文が、
日本でも比較的多くの人の注目を集めている。ただし、これはまだ
彼がMMTer を名乗る前の、構造主義時代のものである。もちろん、
立場が多少変わっても、共通しているものも多く、大変勉強させてもらった。
情けないのが、多くのブロガーたちが、MMTに言及するといっても、
単に、クルグマンのブログで書かれていることをうのみにしたり
自分で適当に想像で膨らませただけ、というのが多いという点である。
で、問題なのが、クルグマン自身のMMTに対する理解も相当お粗末なのだが、
そのクルグマンが参照しているMMTの議論というのが
Cullen Roche という人が書いたペーパーなのである。
このRoche という人、以前は、確かにMMTer を名乗っていたのだけれど、
実際には、その後、趣旨替えをして、Monetary Realism と名乗っている。
いや「趣旨替え」という言い方は、公平ではない。
彼自身は、確かに、当初MMTerだったのである。だが、彼の主張、
とりわけJGPに対する考え方などは、当初から『第一世代』とは異なっており、
それが（たぶん）主因となって、MMTの主流から外れたのである。
クルグマンがブログで参照したのは、11年のことで、そのころはまだ
MMTを名乗っていたのであるけれど、
クルグマン自身が参照しているペーパーを読む限り、
すでにMMTの主流派とはやや趣を異にする立場に立っている。
クルグマンは、これをMMTと理解しており（ただし、クルグマンは
Rocheの議論自体も、きちんと消化していないと思う）
そのあたりも、ちょっといろんな誤解を生んだ理由の一つのような気もする。
Moslerのインタビュー記事などを邦訳しているブログもあり、
これなんかは、参考にさせてもらったが、
どちらかというと、Moslerの主張の内容よりも、Moslerの人となりを知るうえで
役立ったという次第。（それはそれで、大変役に立ったけど。）
それより、こういうインタビュー記事のようなものを翻訳した人は、
どうして、直接Mosler の書いたものに目を通そうとしなかったのだろう、と、
その点を残念に思う。（たぶん、ぶあっつい論文なんか、読んでる時間ねえよ、
と、いうことだったのかもしれないが、
特に最初のパンフレットなんか、
実際手に取ってみるとね、「なんじゃこりゃ、絵本か？」というような、
まあ何というか、、、すごいんだよなあ。。。まあ、内容的に
英文簿記がわかってないと、というのはあることはあるけれど。。。）
ただ、おひとり、なんでも「人気ブロガー」なのだそうだが、
MMTのことを「ブードゥー経済学」なんぞと酷評しているから
どのような徹底批判か、と思ったら、、、
おそらく、ご当人、全然英語が読めないのだねえ。。。
妄想だけで、縁もゆかりもない他人のことを悪く書くのは、
はたから見てて、ご自分のほうがみっともないので
およしになったほうがいいように思うのだが。。。。
（しっかし、こういう人が「人気ブロガー」になるという
この日本の知的状況、やばくね？）
さて、MMTer は、先行者として
とりあえず、4名の名前を挙げている。
フレデリック・クナップ
マイケル・イネス
メイナード・ケインズ
アバ・ラーナー
の、4人である。
クナップについては、経済学説史の授業をとった人なら、
名前を一度ぐらいは聞いたことがあるのではないだろうか。
ドイツ歴史学派の末裔である。
ケインズについては、説明する必要もないだろうが、
特に重視しているのは、『貨幣論』の最初の2章である。
マイケル・イネスとは、全く無名の銀行実務家であり、
日本では、一応、楊枝嗣郎先生の論文で取り上げられている。
アバ・ラーナーは、北欧学派の流れを汲む人で、
「マーシャル・ラーナー条件」とか
「ラーナーの独占度」などの概念で学習するが、
MMTの立場から重要なのは
Functional Finance といわれる考え方で、
財政支出の功罪は、その支出の結果によって判断されるべきで、
財務内容（赤字か黒字か、債務が大きいか小さいか）で
判断されるべきではない、というもの。
この4名は、MMTの思想的源泉として特別な重要性を与えられているが、
他に重要な影響を与えたのが
M.カレツキー
H.ミンスキー
W.ゴドリー
などが挙げられる。
また、近年、ゴドリーと結びつけて論じられることの多い
A.グラジアニについては、竹永進先生の、
全部集めるとかなり浩瀚な研究が発表されているが
ネットでは全文読むことができない。。。。多分、おいらの調べ方が
悪いと思うのだが、、、、なんでかな。。。
また、MMTの議論をおおむね認めたうえで
JGPによる雇用維持ではなく、より積極的な財政戦略を要求しているのが
G.Kadomos & P.A.O'Hara で、
これについては近い将来、このブログでコメントする予定。
MMT（というより、Tax Driven Monetary View + コリドーシステム）の議論を使って、
財政支出による景気浮揚なんてことを考えている人には
むしろMMT第一世代よりは、こっちのほうが興味あるんじゃないかと思う。
逆にTaxDriven View やStock=Flow Consistent Approach よりも
JGPのほうを重視する人にBlack Alcottなんて人もいる。
これは経済学よ言うより政治学に近い人だが、
まあ、G. Inghum は社会学者だから、それもいいのかもしれない。
（でも、政府がデフォルトしない論理的根拠というものを
ある程度共有していないと、MMTer と呼ぶには、ちょっとね。）