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磯部涼『踊ってはいけない国で、踊り続けるために ---風営法問題と社会の変え方』(河出書房新社)
音楽ライターの磯部涼氏と編集者の中矢俊一郎氏が、音楽シーンの“今”について語らう新連載「時事オト通信」第1回の後編。前編【磯部涼×中矢俊一郎 対談新連載「グローバルな音楽と、日本的パイセン文化はどう交わるか?」】では、日本のヒップホップ文化全般のあり方を、ヤンキー社会に顕著な“パイセン文化”という観点から読み解いた。後編では、海の家のクラブ化問題や危険ドラッグについて、さらにEDMブームのグローバル性まで、音楽と社会に関わるアクチュアルな問題について議論を深めた。
海の家のクラブ化問題
中矢:ところで、去年の夏はテレビなどで「海の家のクラブ化」が社会問題になっているとよく報じられましたよね。そんな海の家で流れているのも、今はEDMが主流なんですかね?
磯部:EDMでもJ-POPでも、とにかくアガるものだったら何でもかかるって感じだと思うよ。クラブ・ミュージックと海の家の関係っていうと、レゲエ・バンドのHomegrownを生んだ葉山の<OASIS>とか、野村訓一氏がやっていた辻堂の<Sputnik>がよく知られているけど、そっちはもっと洗練された感じで、いま問題になっているようなガラが悪い方向に行ったのは、サイケデリック・トランスのイベントをやる店が増えてからだろうね。『men’s egg』(既休刊)の人気読者モデルだった植竹拓ことピロムの回想録『渋谷(ピロム)と呼ばれた男』(鉄人社、2013年)には、もともとはヒッピー色が強かったサイケデリック・トランスが、2000年代初頭、渋谷でポスト・パラパラとしてギャルとギャル男に受けて、それに目を付けたエイベックスが<ヴェルファーレ>でイベント「サイバートランス」を開始したことによって大きなムーヴメントになっていく過程が描かれている。そして、いわゆる野外レイヴにもギャル/ギャル男客が押し寄せるんだけど、彼らのマナーの悪さは有名で、最近もジュークのトラックメーカーである食品まつりが「ギャル、ギャル男とかの間でサイケトランス流行ってた頃に野外パーティ手伝った時に、パーティ後そこら中にテントごと捨ててあったの思い出して、そうゆうパーッとした生き方もあるんだと今もたまに思い出す。けど片付けが死ぬほど大変だった」なんてツイートしていて笑ったな。山奥だとまだ世間と隔離されてるからそれぐらいで済むとして、それが海に来たら……当然、地元と揉めるよねっていう。以後、サイケに限らずガラの悪い若者に受けるチャラ箱風・海の家が増えて色々と問題を起こした末に、今年は逗子市がかなり厳しい条例を制定して話題になっている。
中矢:結局、何が「問題」なんでしたっけ? 大音量の音楽に周辺住民が迷惑をしている……とか?
磯部:騒音問題もあるんだけど、さっき挙げた逗子市の「安全で快適な逗子海水浴場の確保に関する条例及び施行規則」は音楽を流すことだけでなく、「砂浜で酒を飲むこと」や、「入れ墨を露出すること」も禁止しているから、まぁ、ガラが悪い若者を排除しようとしていると言っていいだろうね。昨夏、逗子海岸では喧嘩の末の殺人事件すら起きているから、市としても動かざるを得なかったんだと思う。
中矢:そうなると今年の夏、クラブ化する場所が逗子からどこかへ移ることもあり得るんですかね。
磯部:実際、昨夏に藤沢市の片瀬西浜海水浴場が他の地区に先立って音楽を禁止したため、若者が逗子と鎌倉に流れて荒れたことで件の「安全で快適な逗子海水浴場の確保に関する条例及び施行規則」の制定に至ったんだよね。結果、この夏の逗子海岸は静かになってファミリー層には好評みたいだけど、海水浴客の総数は激減して海の家の組合からは不満も聞こえてくる。一方、若者たちは依然として規制が緩い鎌倉に流れていて。松尾崇・鎌倉市長は「何かを排除することなく皆が楽しめる海水浴場を目指したい」と発言しているし、意図的に規制緩和路線を進めている節もある。さて、このまま逗子が落ち込んでいくのか、あるいは、鎌倉で問題が起きたりしないのか、この夏の湘南は、規制と経済のバランスを考える上でも注視しておきたいね。
中矢:日本の公共空間というのは、マナーとルールとモラルが混在しているし、何が本当にダメなのか曖昧な部分が多いように思います。
磯部:曖昧に成り立っていたものに対して、法できっちり規制していこうというのが近年の傾向だろうね。やはり話題になっている風営法とクラブの問題もそう。例えば、僕が編集した『踊ってはいけない国、日本』(河出書房新社、2012年)では、社会学者の宮台真司氏がその原因について「地域共同体が弱体化したことにより生まれたいわゆる“新住民”が、何か問題が起こった時に自分で文句を言いに行かず、すぐ行政に頼るがために過剰な規制が生まれている」というようなことを語ってくれた。ただ、“新住民”化しているのはクラブも同じで、地域のことなんて意に介さない店も多い。湘南の海の家にしても、昔は権利を持っている地元の人がやっていたのが、00年代に入って権利を企業に貸すようになって。そのおかげで盛況になったものの、やり逃げのような経営をするところも増えて風紀は乱れた。クラブに関しては、一部の事業者は地元との関係を修復する方向に動いているけど、全ての事業者がそうなるとは考えられないから、僕は程よい規制の在り方を考えるしかないと思っている。
中矢:ところで、アメリカは日本より何かとオープンな印象がありますが、カリフォルニア州の場合、アルコールに対しては厳しい。コンビニではビール一缶を買うときでも必ず袋に入れられるし、午前2時から6時までお酒の販売が禁止されています。だから、クラブは大体2時で閉店する。他方で、医療大麻は合法なので、公園で学生たちがジョイントを堂々と回していたりしますけど、それを咎める人もいない。
磯部:そうそう、アメリカやイギリスはリカー・ライセンス(アルコールの販売許可)の取得も難しくて、それが合法クラブをつくるハードルになっていたりもする。あっちのアルコールに対する厳しさは宗教観も関係しているのかな。一方、日本は寛容だけど、逗子の件は公共の場におけるアルコールの在り方が問われた珍しい事例と言えるだろうね。それにしても、海で暴れている若者たちはEXILEのメンバーみたいなルックスをしているのに、同グループに顕著な日本的集団主義が見られず、世間というグループから突出した行動を取ってしまっている。そこには、HIROさんのような目を光らせているパイセンが不在なのかもしれない。
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