社説:8・15と日中韓 「歴史の衝突」回避せよ
毎日新聞 2014年08月16日 02時31分
69回目の終戦記念日を、私たちは日中、日韓の歴史認識や領土を巡る対立を解消できないまま迎えた。極めて残念なことだ。
対立の背景として、中国の台頭に伴う東アジアのパワーバランス(力関係)の変化が摩擦を生み出している面もあるが、3カ国の指導者の責任も大きい。最近、日中、日韓それぞれに外相会談が開かれるなど、ようやく関係改善の兆しが出てきている。この流れを大事にしたい。
安倍晋三首相は終戦記念日の15日、靖国神社への参拝を見送り、自民党の萩生田光一総裁特別補佐を通じて党総裁として私費で玉串料を奉納した。閣僚では新藤義孝総務相ら3人が参拝した。中国外務省は、閣僚の参拝や首相の玉串料奉納を批判する談話を発表した。
首相の参拝見送りは妥当な判断だ。先の大戦は無謀な侵略戦争である。首相は外交的配慮から参拝を見送ったのだろうが、そもそも戦争指導者のA級戦犯がまつられた神社に首相が参拝すべきでない。
靖国参拝の是非を巡る論争や外交的対立に終止符を打とう。自民党内でもかつて議論されたA級戦犯の分祀(ぶんし)や、新たな国立追悼施設の建設について、再び議論をおこし、真剣に検討すべき時だ。
また首相は全国戦没者追悼式の式辞で、昨年に引き続き、アジア諸国に対する加害責任や「不戦の誓い」に触れなかった。アジア諸国から誤解を招きかねない。
一方、韓国の朴槿恵(パククネ)大統領は15日、日本の植民地支配からの解放を祝う「光復節」式典の演説で、来年の日韓国交正常化50周年までに、元慰安婦が納得できる解決策を示すよう日本政府に努力を求めた。
慰安婦問題では、韓国が国の責任を認めるよう求めているのに対し、日本は戦後補償問題は法的に解決済みとの立場で、隔たりは大きい。
日韓両国が、慰安婦問題を2国間だけの問題ととらえるのでなく、戦時下の女性の人権という広い視野に立ち、国際的な取り組みを主導することも必要だろう。
日本は人道的・道義的責任の観点から、さらに何ができるか、韓国とよく話し合うべきだ。韓国にも過剰な対日批判を慎み、問題解決に向けた建設的な姿勢を示すよう求めたい。
そして中国にも、歴史問題を日本批判の国際的な宣伝材料にすることや、領土を巡る挑発的行為をやめるよう求めたい。
3カ国の指導者は、歴史認識やナショナリズムの衝突を回避するよう努めなければならない。8月15日にそのことを改めてそれぞれの胸に刻み、戦後70年に向けて関係改善につなげてほしい。