やけのはら、ドリアン、tofubeats。
彼らに共通するのは、東京のミュージック・シーンを沸かせる新世代アクトであること、
そして大のテイ・トウワ・フリークであるということ。
20周年を記念してのインタヴュー・シリーズ第1弾は、愛と笑いの「後輩鼎談」。
「初めて聴いたテイ・トウワ作品ってなんでしたか?」
取材/写真 江森丈晃
左から、tofubeats、Dorian、やけのはら。
tofubeats(以下T) 初めて音源で買ったのは『Last Century Modern』のヴァイナルですね。黄色が目に飛び込んでくるようなデザインに惹かれて買いました。僕の作品で「.COM」を大きく表記するのは完全にこのアートワークの影響です。自分だけのフォントをつくっちゃうとか、ホント憧れますね。当時は『FLASH』が出たばかりの時期なのかな。僕はまだクラブなんかにもいったことのなかった頃で。
やけのはら(以下Y) 僕も最初に聴いたのは学生の頃です。『Future Listening!』が出たときに聴いて、そのあとは出た順に、リアルタイムで聴いてます。そもそも当時一番好きだったのはヒップホップなんですよ。ジャンブラ(Jungle Brothers)やトライブ(A Tribe Called Quest)は神みたいな存在で、サンプリングのセンスも最高だったじゃないですか。だから、そのトライブのファースト(『People's Instinctive Travels and the Paths of Rhythm』)で喋ってる人のレコードが出るんだ、っていうのがあったんです。
──「でもさでもさQちゃん」という謎の声の主が。
Y 本場も本場というか、ちょっとニューヨークに住んでました、っていうんじゃなく、本物がくるって感じにゾクゾクして。
──「Technova」のUS盤が渋谷のCISCOにズラーッと面出しされてたのをよく覚えてます。
Y そういう時代でしたよね。『Future Listening!』は日本的な醤油っぽさがまったくないというのが斬新でしたね。当時は自分も子どもだったので、テイさんが影響されたものなんかを遡っていけばいろんな人がいたんでしょうけど、あれこそが「洒落たサウンド」に触れた最初だったと思います。(テイさんの魅力は)ざっくりまとめると、プロデュース能力の高さというか、美意識の部分ですよね。初期の頃はもともと前に出たいタイプの人じゃないのに、あえて顔を出していたり、とにかくまとめかたがうまい。ポップアート的な感覚もあって。
T そうですね。『Future Listening!』、『SOUND MUSEUM』、『Last Century Modern』と、3枚続けて顔ジャケっていうのは並大抵の努力じゃないと思うんですよ。自分自身がレコード会社と契約したことで、ブレないことの大変さみたいな部分というのも、より強く実感できるようになって。そういえば、家にある『FLASH』が、当時TSUTAYAで借りたものなんですけど、ジャケットをカラーコピーして、CDRのケースに入れて、あたかも買ったかのように棚に入れてたんですね。で、きのうひさびさにそれを開けたら、白い盤に汚い字で「フラッシュ」って書いてあって。それ見て一生追いつけないなって思いましたね(笑)。全然デザインされてなかった……。
Y (笑)曲に関してもデザイン力を感じますね。新しいものも引っぱってきたりするけど、それがテイさんの引き出しの中で整理されて、ベストなサウンド・デザインで出てくる。SP-1200っていう古いサンプラーがあるんですけど、そのローファイでザラザラした音をあえてトレードマーク的につかったり、絶対に真似できないカッコよさがありますね。
T SPは欲しい。あまりに欲しすぎてポスターだけ買いましたもん(笑)。
──ドリアンさんはどうでしょう? テイさんのhug inc.所属ということもあって、この中では一番「近い男」ですよね。
ドリアン(以下D) そんなことないですよ。アイドルとかもを含めて、こんなにひとりの人にのめりこんだことってないんで、そんな人と話せるようになったというだけでガチガチに緊張してますよ。中学生の自分に「お前は将来hug inc.に所属することになる」って教えてやりたいです(笑)。
──中学生で聴いてたんですか?
D 隣の席になった女の子がテイ・トウワ好きで。当時はその子が好きな「Happy」ばかり聴いてました。
Y まずはテイ・トウワよりもその女の子のことが好きになったんでしょ?
D そうです(笑)。ちょうど『SOUND MUSEUM』が出た頃でしたね。知らないけど知ってるふりをして、「新作はまだ聴いてないから貸して」ってところから、急いで『Future Listening!』を買いに走って(笑)。だから、ファーストとセカンドをまったくの同時に聴き始めるっていう。
──その子とはどうなったんですか?
D つきあったりとかっていうのはなかったですけどね。でも、そういう私的な思い出と音楽がいっしょになると一生残るというのはあるんで、今となってはその子に感謝してますけどね。
T その女の子、絶対にかわいいと思うなー。
──テイ・トウワを聴いている女の子はいいですね。たとえば女の子の部屋に遊びにいって、Corneliusが飾ってあったりすると、ちょっとは音楽の話しなくちゃいけないのかなって思うけど、テイ・トウワならそんなことはない。
Y (笑)それいいな。確かにある種の「軽さ」というか、なんなら「聴き流すこともできる」っていうのはテイさんの音楽の強みですよね。
T 「上品」というのに尽きますよね。すごくポップなんだけど敷居を下げないままにやっているというのがすごく好きです。絶対に「これ以上」をキープしているというか、説明過多にならずに長くやっているというのも本当にすごいと思う。
D 僕はそんなふうに分析できるようになったのは最近のことですね。まず、本当に実在するのかなっていうのはずっと思ってたから(笑)。
──(笑)実際に会ってみて、どんな人でしたか?
D こんなこと言っていいのかわからないですけど、ふつうのいいオジサンだったというか(笑)。
Y テイさんは新譜も聴いてるし、古いものなんて自分たちより全然詳しいわけで、普通に音楽の話をさせてもらうというか。音楽を接点に関わってくれている感じはしますけどね。
D なるほど……僕をリラックスさせるために、あえてオジサンみたいなことを言ってくれてるのかな……。
──ダウンタウンの『ガキの使い~』で、ココリコの遠藤がテイさんのマネしてる回があるじゃないですか。ジュラルミンのアタッシュケースにパソコン入れて、打ち込みしながらウイダーinゼリーを吸っているという(笑)。当時はまさにああいうイメージでしたよね。
D そうですそうです。でも実際はマネキンじゃなかったし、むしろとても人間味を感じる人で。
T ダウンタウンといえば、僕はGeisha Girls(ダウンタウンのふたりをテイ・トウワや坂本龍一がプロデュースしたユニット)も大好きなんですよ。ミュージシャンと芸人さんがやって、あそこまでのものができるっていうのはいい時代ですよね。あと、別名義っていうのは遠くに物を投げるのに適してるっていう。自分にも経験があるんですけど、力が抜けているときにこそいい曲ができるっていうのはあるんです。あの頃は芸人さん自体もスキルフルだし、予算もかかってる感じがするし……
D めちゃくちゃカッコいいからおもしろいんですよね。
──名言ですね。「おもしろいからカッコいい」んじゃないんですよね。
T それはありますね。僕が「ディスコの神様」で藤井隆さんを呼んだのも、そこで綺麗に着地できたらいいなと思ったからです。実際にやってみて(テイさんには)やっぱり品の部分では敵わないものがあるなって痛感しましたけどね。自分の音楽なんかはなんでもかんでも詰め込みちゃう傾向があるけど、いつもテイさんは落としどころがちょうどいいところにあって。……なんだか自分だとゲスくなりがちなんですよね。やってるうちに、どうしても西の血が出てしまうというか。
──「ディスコの神様」から遡りますが、tofubeatsさんは「水星」でKOJI1200(テイ・トウワのプロデュースによる今田耕司のユニット)の「ブロウ・ヤ・マインド~アメリカ大好き」を引用していますよね。テイさんの反応というのはどういったものでしたか?
T いや、それがまだ聞けてないんですよ。僕、まだ一度もお会いしたこともなくて。
──え?
T 「水星」にはいろんな経緯があって、あの曲のアナログが完売した後に、諸般の事情で追加プレスするのが難しくなって、でもお客さんは聴きたいって状況があったから、配信で出そうと。そこでドリアンさんに頼んで、テイさんにアナログを渡してもらって、そこに手紙を入れたんですね。「なにか問題あれば御連絡ください」って。それが、これもまた諸般の事情でテイさんまで届かなくて、そのままデジタルが出ちゃった後、ちょうど僕がレコーディングしているところに電話がかかってきたんですね。「テイです」「どちらの…」「テイ・トウワです」「うわー!」って(笑)。そこでずっと憧れてきた人と初めて話すことになって。
──よりによってクリアランスの話を(笑)。
Y なにかのイベントで、曽我部(恵一)さんが「水星」をかけてて、それを聴いたテイさんが「あれ?」って(笑)。
T 吉本(興行)に念書を送るとか、緊張のシーンもいくつかありましたけど、なんとかこうして生きてます(笑)。テイさんもいろいろ動いてくださって、(サンプリングじゃなく)カバー扱いにしてもらったり。そこから何度かお電話はいただてるんですけどね。そういえば、ちょうどこないだ『94-14 REMIX』のフラゲ日にメッセージを送り合っていた時はちょっと失礼なことをしてしまって。「そろそろお店閉まっちゃうんで、CD、取りにいってもいいですか?」って(笑)。
──ファンのあるべき姿ですね。「人より音楽」っていう(笑)。
T もし会えたらビビりますけどね。今はFacebookでのやりとりでも緊張するぐらいなんで。僕はテイさんのInstagramにひたすらイイネ!をつけてるだけですけど(笑)。
──今回ベストが3枚出るわけですが、特に思い入れのある曲があれば教えてください。
Y 僕はやっぱり出会いの衝撃が大きいんで、「Technova」か「Luv Connection」ですかね。
T 僕は断トツで「Taste Of You」なんです。これは2009年の曲で、僕が大学に入ったぐらいの頃に聴いたんですけど、いまだにこの曲を超える「時間の使い方」の曲がないっていうか。音楽って縦軸と横軸があって、縦はサウンドでのレンジであったりレイヤーの部分で、横軸は時間だと思うんですけど、その横軸の中で、ループしているにも関わらず一瞬も停滞することがない。ずっと前進を続けているように聴こえるんです。あと、意図的に無音部分が挿入されているところも自分にとってジャストで。
──「Let Me Know」なんかにも顕著ですよね。
T そうですね。リバーブが効いているのに、スパッと音場が切れたり。「Taste Of You」はその魅力に加えて、グリッドで前進していく様子がつぶさに感じられるというか。そこがこの曲は飛び抜けてると思うんです。
D 僕も「Taste Of You」は好きですね。テイさんの曲にはいくつかの好きなラインがあるんですよ。まずは「Taste Of You」とか「Time After Time」の〈キャッチーな100~110(BPM)ライン〉。あとは〈カバーのライン〉……
Y そこは分けたいんだ(笑)。
D 分けたい(笑)。あとは「Raga Musgo」とか「Stretch Building Bamboo」とか「Meditation!」とかの〈変な曲ライン〉っていうのもあって(笑)、本当はそれぞれのラインで1曲ずつ選びたいぐらいなんですけど、思い入れってことでは「Luv Connection」ですね。聴いてたのは中学生の頃で、当時7時に目覚ましをセットしてたんですけど、そのときに「Luv Connection」が流れるようにしていて。
T 超オシャレ!(笑)。
D それでも起きないんで、最後はお母さんが起こしにくるんですけど、そしたらお母さんが「Luv Connection」を歌ってる夢を見ちゃって。
──アハハハハ!(爆笑)。
D 目覚ましのCDをそのままCDウォークマンに入れ直して通学の自転車でも聴いてたし、とにかく思い入れありますね。
──まさかそんなアーティストのリミックスを担当することになるとは(「Alpha(Dorian Remix)」)。
D はい、自分でもビビりました。
──今後、テイさんとコラボレーションできるとしたらどんなことをしてみたいですか?
D いや、これからは「自分といっしょに何か」というよりも、テイさんがつくったものをたくさん聴きたいっていうのがありますね。自分と関わるのであれば1曲でも多く新曲に関わってほしいです。
──謙虚ですね……。
D あ、それか、音楽の手は煩わしてもらうことなく、なんか僕の新作のアートワークをやってもらうとか、曲単位でもいいからヴィジュアルをつくってもらうとか。
T それは実現しちゃいそうで羨ましいなぁ。僕も共同作業というよりは、素材をお渡しして、それがどう変わるのかを楽しみたいというか、単純にリミックスをお願いしたいですね。あと、ふつうにパラデータとかもらいたいです。それで勉強させてもらいたい。たとえば森高(千里)さんのドラムのサンプルとか、そういうのをシェアさせて頂いて、みんなでリミックス・アルバムを出すっていう。
──サンレコといっしょじゃないですか(笑)。(※『Sound & Recording Magazine』2009年3月号で開催された『BIG FUN』の素材を使ったリミックス・コンテスト)
T だってあれ応募しましたもん! 残念ながら選ばれませんでしたけど。
──やけのはらさんはどうでうすか?
Y 夢ベクトルでいいですか? たぶんテイさんはかなり(曲を)厳選してアルバムを出していると思うので、そのぶんストックになっている曲も多いと思うんですよ。テイさんの〈ロスト・ワークス3枚組〉を僕が監修するっていうのはやりたいですね。一番僕が楽しい(笑)。
T ロスト・ワークスは聴いてみたいですね。テイさんはどんな曲をつくってもテイさんだろうし、どんな機材をつかってもテイさんだと思うんですよ。こないだユーミンがNHKに出てて、「若い子は(機材が)パソコンしかないからかわいそうね、うふふふふ」って言ってましたけど……
Y パソコンがどうこう、ハードがどうこうじゃないんだよね。やり方はどうあれ、いかに仏に魂を入れるかっていう。
T 志(こころざし)の部分ですよね。テイさんの音楽を聴いてるとその部分を強く感じるし、自分もそうあれるように頑張ろうと思えるんです。