「HUNTER×HUNTER」のゴン役などで人気上昇中の声優・潘めぐみさんと、「機動戦士ガンダム」のララァ役などで知られる母親の潘恵子さんが、さまざまな思いや出来事を交換日記形式でつづります。最終回となる今回は、“潘ちゃん”ことめぐみさんが、自身のデビュー作となった「HUNTER×HUNTER」や“恩師”について語ります。
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みなさん、おはようございます! こんにちは、こんばんは、はじめまして! 潘めぐみです!
このあいさつから書き始め、このあいさつを書き続けて、はや1年。いよいよ、今回が最後のコラムとなりました。先月コラムを書き上げたとき「次回が最終回になります」という話を聞いて、いかにして最終回らしい終わりを迎えられるか、今、この瞬間さえも、奮闘している最中です。
連載当初もお話しさせていただいたことなのですが、実はコラムというものを書かせていただいたのは、今回が初めての経験だったんです。それも母との、潘さんとの交換日記というコンセプトで。それも1年間というスパンで。
初めてだということもあり、戸惑うこともありましたが、このような機会をいただけるのは、とてもありがたいこと。
今回、このコラムを企画し、提案、実現してくださった人物というのが、私の恩師でもある日本テレビの中谷敏夫プロデューサー。日本テレビで数々の番組を手がけていらっしゃる方で、私のデビュー作である「HUNTER×HUNTER」をはじめ「ちはやふる」などのプロデューサーでもあります。この方に出会えなければ、見つけ出していただかなければ、今の私はいなかったと言っても過言ではありません。
中谷さんとの出会いは3年前の夏。「HUNTER×HUNTER」のオーディション会場となったスタジオ。そのときのことは、今でも鮮明に覚えています。私にとって、初めてのオーディション。それも15年前、原作の連載当初から愛してやまなかった作品のオーディションです。家を出るとき、母に「ゴンになってらっしゃい!」と背中を押されて向かったそのオーディションは、相手役のいるゴンとキルアの掛け合いでした。
スタジオに入ると、そこにいらっしゃったのは、相手役であろう女性ともう1人。タオルをハチマキのように頭に巻いて、片手にうちわを持った、大胆で豪快な男性でした。掛け合いのオーディションと聞いていたので、キルア役を受ける方とのオーディションかと思いきや、もう1人男性がいらっしゃったのです。オーディションの原稿には、ゴンとキルアのほかに、ノブナガのセリフもあったので、てっきり私はノブナガ役の役者さんなのだと勘違いしてしまいましたが、その方こそが中谷さんだったのです。
恥ずかしながらにも、まじめにそう思っていたことを、ご本人にお話ししたら、「役者さんと間違ってもらえるなんて光栄だ」と笑顔を浮かべていらっしゃいました。中谷さんと初めてお会いしたそのスタジオは、後のそして現在の「HUNTER×HUNTER」を収録している三分坂スタジオです。
このスタジオは、3年前の今ごろ、はじまりの記者会見が行われた場所でもあります。この記者会見も中谷さんが用意してくださった機会。ここで初めて、キルア役の伊瀬茉莉也さん、クラピカ役の沢城みゆきさん、レオリオ役の藤原啓治さん、ヒソカ役の浪川大輔さん、そして、神志那弘志監督とお話しさせていただいて。あの日のことも、鮮明に思い出されるなあ。号泣しちゃったんだよなあ。あのころから変わってないなあ……。なんて思い返しながら、本当は書きたいことがいっぱいありすぎて、これ、書き終わらない気がしてきました(笑い)。
そうそう、この日の記者会見でインタビューをしてくださった方の1人が、今、このコラムを担当してくださっているのです。今回の企画が持ち上がる前に、「HUNTER×HUNTER」という作品のストーリーの節目、節目で、インタビューを組んでは、作品についての記事を書いてくださって。それもすべて、中谷さんをはじめ、担当の方、そして母との交流を交えつつといった環境で初めてのコラムを書かせていただけたということに、感謝の気持ちでいっぱいです。こうして無事に最終回を迎えられたのも、読者の皆さんを含め、支えてくださった方々がいてくださったからなのだと、切に思います。
こうした節目に準じてお話ししたいことがあります。先日、この思い出深い、はじまりの場所、三分坂スタジオにて、テレビアニメ「HUNTER×HUNTER」のいったんの節目となる、第148話の収録が行われました。あくまで「節目」というところで、私からは「最終回」とは言いません。あえて「第148話」であると意地を張ってみます。それは、ある意味この話数は良い最終回でありながら、新たなるスタート地点に立ったような、そんな気がしているからです。どちらかと言うと「第147話」が最終回で「第148話」は、エピローグというか。原作も続いていますし、冒険もまだまだ終わらない。未知なる世界が待っている。むしろ今までが、その予兆にすぎなかったと思わせるような展開に、期待はふくらむばかり。
といいつつも、この3年間、毎週、同じ時間、同じ場所に通い続けてきた日々が、来週からは……と思うと、さみしくてたまりません。
前にもお話ししたことがあったかな。いつかこの日が来るとわかっていても、どこか現実逃避してしまう感覚というか感情というか。「HUNTER×HUNTER」という一つの作品に対しても、そういう感覚や感情を抱いてしまうんです。この物語が一体どういう結末を迎えるのか知りたいという気持ちは、もちろんあるけれど、終わってほしくないという気持ちの方が、きっと強くて。それは原作だけにあらず、テレビアニメに対しても、現場に対しても……。そう、この「HUNTER×HUNTER」にまつわるすべてに対して。
「HUNTER×HUNTER」は、本当に特別な作品です。
「特別」というと、他の作品と比べてしまっているようで、あまり好ましい表現ではないのですが。それでも「特別」という表現以外に、どう表せばいいのか。月並みの表現かもしれません。もちろん、これまでの作品、これからの作品、一つずつ、すべてに思い入れがあって、すべてに全力で在りたいという気持ちは変わりません。
それでも私のデビュー作は「HUNTER×HUNTER」。
すべてのはじまりは「HUNTER×HUNTER」。
これは一生変わることはありません。
ここが私の原点だから。
いつでも帰ることのできる場所。
だから、いつでもゴンになれる、いつでもみんなに会える、そう思える。
父親であるジンが、息子のゴンに伝えた言葉があります。
「道草を楽しめ。大いにな。欲しいものより大切なものが、きっとそっちにころがってる」
この言葉が果たして、父親から息子へのメッセージだったのかは、想像でしかない。それは、ゴンにとって、ジンはジンであって、父親というよりは、あこがれの存在“ハンター”であり、旅の目的だったから。それでもこれは、最高の子育て方法だと思いました。しかし、ゴンのこれまでの旅は、いつだって命懸け。死の間際をも経て、生還をした。物語の流れをくめば、この子育ての方法に疑問を覚えるかもしれないけれど、私は、物語の流れをくんでこそ、そう感じました。
そして、この言葉は、これまでの、すべてだと。それは、私にとっての、この3年間、ううん、人生そのものだと。でも、それは、きっと私だけじゃない、誰もが感じ得る言葉だと思います。大切なものは、常に目の前にはなくて、経て、得て、気づく。自分の後ろ、歩んできた道のりにあった。たとえば、出会い、別れ、生まれた絆、笑顔、涙、交わした約束、愛情、憎悪、揺るぎない決意……「HUNTER×HUNTER」を通じて上げてみようとしたけれど、うん、上げ切れません。その人の人生において、大切なものの、得られるものの可能性は無限大です。
だから、今、この「潘ちゃん×潘さんの交換日記」を書き終えたとき、振り向けば、そこには、企画してくださった中谷さんが、担当してくださった方が、母である“潘さん”がいて、読者の皆さんがいて、日ごろから支えてくださっている、たくさんの方々がいて成り立っている道があって。誰一人として欠いては成り立たない道のり。これは作品に対してもそう。仕事に対してもそう。人生においてもそう。
だからこそ、幾度となく、伝えたかったこの言葉。伝え過ぎはないと思ったけれど、今回は、この一度に気持ちを凝縮して。これまでのすべてに、すべての方々に、「ありがとう」を。
こうして同じ時期に節目を迎えた「HUNTER×HUNTER」と「潘ちゃん×潘さんの交換日記」。またどこかで皆さんにお目に掛かれる日がくるとしたら、その日まで、私は大いに「道草」を楽しもうと思います、一時、一時を。
このコラムの本当の最終回は、潘さんなのでした。お母さん、私ね、これまでが、最高の贈り物だとそう思える今を生きているよ。
◇プロフィル
潘めぐみ(はん・めぐみ)=1989年、東京都生まれ。2008年に映画「櫻の園」の一般公募オーディションに合格し女優デビュー。ドラマ「オトメン-乙男-」のほか舞台などにも出演。11年に100人を超えるオーディションをへて、アニメ「HUNTER×HUNTER」の主人公・ゴン役に抜てきされた。アニメ「ハピネスチャージプリキュア!」の白雪ひめ役、ゲーム「The Last of Us」のエリー役などを好演し注目を集めている。