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「日本的リベラル」という偽善の終焉

慰安婦問題は、単なる誤報事件では終わらない。20年以上前に事実誤認に気づきながら、正義の味方を装って政府を糾弾し続けてきた朝日新聞の偽善は、徹底的に暴かれるだろう。ここには戦後の「日本的リベラル」の問題点が、典型的にあらわれている。

丸山眞男が悔恨共同体と名づけたように、「戦争を止めることができなかった」という悔恨が、戦後日本の知識人を幅広く結集させた。左翼はもちろん、戦前の体制内にいたリベラルの中でも、軍部の暴走に歯止めをかけられなかったという思いが強かったので、新憲法で戦争が放棄されたとき、反対論はほとんどなかった。

憲法改正や再軍備には、社会党だけでなく宮沢喜一など自民党内のハト派も反対した。1950年代にはまだ服部卓四郎のクーデタ計画など物騒な動きがあり、警察予備隊の幹部の半分以上は旧日本軍の将校だった。その歯止めとして憲法を厳格に解釈することは、50年代まではそれなりの意味があったのだ。

悔恨共同体は政治の主流には一度もなったことがないが、知識人や「論壇」の中では一貫して主流だった。これが野党の唯一の対抗軸となり、他にまともな政策がなくても「憲法を守れ」というだけで一定の得票が見込めた。

しかし丸山は、悔恨共同体の限界は、まさにそれが「悔恨」によって幅広い知識人を結びつけた点にあったという。悔恨は戦争体験とともに風化し、「否定の情熱」だった民主主義は制度化され、知識人はもとのタコツボに戻ってしまう。こうして悔恨共同体は消えたが、その劣化した「日本的リベラル共同体」は野党やマスコミなどの亜インテリに残った。

冷戦が終わり、成長が止まると、野党が壊滅する一方で、「自由陣営を守る」ことしか取り柄のなかった自民党も存在意義を失った。イデオロギー論争に代わって「都市/農村」とか「現役世代/年金生活者」といった利害対立が先鋭化したが、朝日新聞はいまだに終戦直後の「戦争か平和か」というアジェンダ設定を脱却できない。

久しぶりに幅広いリベラル共同体を復活させたのが、3・11だった。「50年ぶりにデモに来た」という柄谷行人氏に象徴されるように、絶滅危惧種だった日本的リベラルが反原発という結集軸をもったようにみえたが、それは鼻血に騒ぐようなマス・ヒステリーに劣化し、知性ある人々の支持を失った。

民主党政権はリベラルが現実に政権を取るといかに悲惨な結果になるかを実証し、野党が瓦解した今、政治は55年体制より悪い「一強多弱」になった。このように対立軸が失われた(あるいは最初からなかった)ことが、日本の政治が漂流し続ける原因だ。

そして慰安婦事件は、日本的リベラルの最後の看板だった「人権」と称する偽善を葬るだろう。それは悪くないのだが、あらゆる政治的対立が消失した先には何が残るのだろうか。頭が悪いなりに対立軸をつくっていた朝日新聞が沈没すると、あとは安倍政権のような問題の先送りが果てしなく続くだけなのだろうか。

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