田原総一朗「朝日新聞の『慰安婦問題総括』を読んで思うこと」
さらに97年3月31日の特集記事のための取材の際も吉田氏は面会を拒否し、虚偽ではないかという報道があることを電話で問うと「体験をそのまま書いた」と答えたということで、朝日新聞はその後、吉田氏を取り上げていないようだ。
また、92年1月11日の朝刊に「太平洋戦争に入ると、主として朝鮮人女性を挺身隊の名で強制連行した。その人数は8万とも20万ともいわれる」という記事を載せた。「挺身隊」の名で前線に強制的に動員されて慰安婦にさせられたということだ。だが、挺身隊と慰安婦はまったく別種であり、朝日新聞は混同していたのである。そのことについて、「原因は研究の乏しさにあった。当時、慰安婦を研究する専門家はほとんどなく、歴史の掘り起こしが十分でなかった」と反省している。
私は、今回、朝日新聞が誤報道を全面的に総括したことを評価する。しかし、実は私は、もっと前に誤りを認めて訂正していたものとばかり考えていた。それがここまで延びたのは、報道機関にとって記事の撤回がいかに困難な作業かを示しているのだろう。おそらくここまで遅れに遅れたことについて、朝日新聞はだらしない、官僚的だという批判が少なくないはずだ。また、記事を撤回はしたが、読者に謝罪をしていないことに対する不満もあるはずだ。だが、朝日新聞としては、当然ながらそうした批判や不満が出ることは承知した上での総括作業であるはずで、私は、あらためて今回の総括を評価していると記しておきたい。
しかし、いささか残念に思うのは、読売新聞、毎日新聞、産経新聞も、朝日新聞と同様に吉田清治氏の虚偽発言を報じていたと記していることだ。総括は自社のことに徹すればよいのであって、余計な弁解としか読み取れない。
※週刊朝日 2014年8月22日号