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状況証拠、なぜ崩壊 京都・舞鶴高1殺害捜査検証

男性宅を捜索する京都府警の捜査員と、ビデオカメラを手に立ち会う弁護士。6日間連続という異例の長期捜索が行われたが、犯行に結び付く証拠は出なかった(2008年11月28日午前、舞鶴市)
男性宅を捜索する京都府警の捜査員と、ビデオカメラを手に立ち会う弁護士。6日間連続という異例の長期捜索が行われたが、犯行に結び付く証拠は出なかった(2008年11月28日午前、舞鶴市)

 京都府舞鶴市で2008年5月、東舞鶴高浮島分校1年の小杉美穂さん=当時(15)=の遺体が見つかった事件で、殺人などの罪に問われた男性(65)の無罪が確定した。最高裁は「男性と被害者を見た」とする目撃証言など京都府警の積み重ねた状況証拠を否定した。なぜ立証は崩れたのか。当時の捜査員への追跡取材や記者の取材メモを基に捜査を検証した。

 美穂さんの遺体発見の8日後だった。現場近くを通ったトラックの運転手が駐在所を訪れ、発見前日の08年5月7日午前3時すぎに現場から約300メートルの路上で自転車を押す男と若い女性を目撃した、と証言した。女性は美穂さんと似て死亡推定時刻とも合致していた。一方、男については「19、20歳ぐらい」と話し、男性の特徴とは異なっていた。

 当時の捜査員は「捜査本部は当初、この証言を重視せず、美穂さんの交友関係を重点的に調べていた」と語る。証言をキャッチし質問した記者に、捜査幹部は当時、「(証言の)確度は低く、たいしたことない」と答えていた。

■画像鑑定で犯人視

 捜査本部は、5月7日未明に帽子姿の男が美穂さんと並んで歩く様子が写っている3台の防犯カメラの映像を入手した。男性が当日立ち寄った飲食店店員からは「男性は帽子をかぶり、自転車で帰ると話していた」という証言を得る。防犯カメラの男と男性の画像を鑑定した大学教授は9月、「同一人である可能性が非常に高い」との結果を出した。

 画像鑑定の結果は、のちに男性を有罪とした一審京都地裁判決も「単なる印象」と否定することになる。だが、府警幹部は「この鑑定で自信がついた」と振り返る。捜査本部は男性以外を捜査線上からふるい落とす捜査を続けていく。周辺を往来した車や人の特定とアリバイ確認を進め、男性が「犯人」という心証を強めていった。

 半年後の11月15日、捜査は重大局面を迎える。府警は、捜査員が行動確認中に下着とさい銭を盗んだ疑いで男性を逮捕した。同28日から6日連続で自宅を殺人容疑で捜索したが、犯行に結びつく証拠は出なかった。捜査員は「直近の目撃証言が立証に必要だった。この段階になって当初は重視していなかった運転手証言に注目するようになった」と明かす。

■男性の特徴を混同

 翌年1月11日、捜査本部は運転手から再び話を聴いた。この時に捜査員がミスを犯す。男性の写真を見せてほしいと頼まれ、複数から目撃人物を選ぶ「面割り」の前に写真を見せたのだ。この後、運転手証言は「帽子をかぶり肩幅ががっちり。あごの部分が飛び出し」と詳細になり、男性の特徴と合う内容に変遷する。

 公判に入ると、弁護側は運転手の証言を「記憶が変容した」と批判を強めた。逆転無罪を言い渡した二審大阪高裁は「事後的に得た男性の特徴を混同した」と判断、最高裁の決定も高裁判決を追認した。

 ある捜査員は捜査時期が司法制度改革の過渡期だった点を指摘する。「昔は心証を得るため面割りの前に1枚だけ見せることもあった。証拠開示請求の仕組みが整ったからこそ、弁護側が証言の変遷に気付いた」

 逮捕された男性は取り調べで美穂さんのポーチの色や形を詳述し、府警は「秘密の暴露」とみて状況証拠と据えた。しかし、最高裁は捜査員の誘導や示唆があったと判断した。

■「録音録画は必要」

 府警幹部は、男性の取り調べを振り返り「供述の矛盾を突いて有罪に持ち込めると考えていた」と打ち明ける。弁護側は逮捕直後、取り調べの可視化を求めていた。別の幹部は「当時、否認事件は録音録画していなかった。裁判で誘導と認定されたことは厳粛に受け止めねばならない。ただ、誘導の有無を後に検証するために録音録画は必要だった」と話した。

 「やるべき捜査はやり尽くした」。そう語る捜査員は多い。だが司法は捜査に疑問を呈した。

 刑事部幹部は言う。「一昔前の感覚で証拠を取り扱うと駄目。一つでもミスがあればアリの一穴のように崩れ落ちてしまう。最高裁決定を捜査員全員が重く受け止めなければならない」

<最高裁の決定骨子>

・目撃者の運転手は面割りの前に写真を見せてもらい、記憶が変容した可能性がある。証言は取り調べを重ねるにつれて男性の特徴と矛盾する部分が消え、最終的に男性とほぼ一致する内容に変遷し、信用性を損なう

・直前に男性が被害者と一緒にいたからといって犯人と推測することは困難

・ポーチや下着の色などの特徴に関する男性の供述が捜査機関の示唆や誘導による可能性がある

・男性は取調官の反応を見ながら供述した結果、ポーチなどの特徴にたどりついたと見る余地もある。特徴を言い当てたからといって犯人性を推認するのは困難

【 2014年08月14日 12時41分 】

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