ネット選挙も解禁となり、政治家は自分の考えをネットに配信できるようになりました。政治が身近になったことは色々な意味で有効だったと思います。しかし政治家の言葉の重さは今も昔も変わりません。

政治家にとって話すことは生命線ですから有権者に自らの言葉で語りかけなければいけません。話の上手な政治家は例外なく建前のつかい方が上手です。建前を崩さないことで分かりやすく伝えているのです。
●建前と本音は難しい
企業で不祥事があった際、役員や関係者が、ゴルフに出かけていたり、旅行に出かけていたり、宴会をしていたり、という記事を眼にしたことはありませんか。

「これは福利厚生の一環ですから。詳細について説明をすることは控えさせていただきます」「ゴルフは半年前から決まっていたんだ。健康管理の一環ですから関係ありません」。このような発言で火に油を注ぐことは少なくありません。聞いている方には居直りとも取れる印象を与えてしまいます。

建前でも「本日、コンプライアンス部門に実態調査の指示を出しました。結果は迅速に報告したいと思います」「外部有識者を交えた再発防止委員会を設立しました」と発表しておけば問題が大きくなることは無かったでしょう。ゴルフにしても、速やかに中止にすれば良かったかも知れません。正論や持論は時と場合によってはマイナスイメージを与えてしまうのです。

私がある企業の役員をしていた時のことです。営業部長がメンバーを鼓舞するために受注が決まるたびに細かな数値達成状況や営業努力を労うメールを全社に配信していました。受注が決まるたびに部内では拍手や歓声が湧き起こっています。しかし、会社のなかには営業部門以外の部署も存在します。

そのようななか、管理部長が、営業部長の配信メールに対して「営業メールは部内に留めてほしい。各々、部門の役割は異なるし全社メールは部門の成果を披露するものではない。私の部門は細かな作業が要求されるから拍手や歓声は正直なところ迷惑です」と返しました。

全社同報で返していますから、その返信内容は全社員が眼にすることになります。そのメールにすかさず社長が、「管理部長の主張は正論で正しいと思います。しかし表現は最低です。君は上司が部下を労うための行動をどのように思っているのですか。」と返したことがありました。

人にはプライドがありますから気遣いが必要です。また相手に恥を欠かせないことは、マネジメントにおける鉄則です。思うままに対応していると、相手の否定につながり尊厳を傷つけてしまいます。このような場合は、建前を効果的に使いながら不用意なことは話さない配慮が必要でした。

●読者への示唆
人前で怒鳴り散らかす上司がよくいます。本人は正義を振りかざして威厳をひけらかしているのかも知れませんが、間違いなく周囲は硬直します。周囲に建前を上手く使える人がいたら発言や動作に注目してください。建前を上手く使える人は、それが信頼を勝ち取る術であることを知っているはずです。

尾藤克之
経営コンサルタント

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