(2014年8月13日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
出版社の推計では、アマゾンは米国の書籍販売のほぼ3分の1を占めている〔AFPBB News〕
出版大手アシェットとオンライン小売りの巨人アマゾンの争いに、ドナ・タートやスティーブン・キング、マルコム・グラッドウェルといった有名作家の一群が割って入る動きに出た*1。
音楽業界に詳しい人にはおなじみの戦術だ。かの業界では、音楽出版社の利害は音楽家の利害と一致するという理屈を著名な音楽家たちに吹き込んでいるのだ。この理屈は、実態とはかなり異なる。
音楽業界と印刷メディア業界はともに、デジタル化によって根本的に変わった産業の一角に名を連ねる。アマゾンはこの変化をペーパーバックの登場になぞらえるが、それはかなりの過小評価であり、むしろ印刷技術の発明になぞらえるべきだろう。デジタル化によって、書籍販売に参入する際の障壁とコストはほとんど消えてしまったからだ。
どんな産業においても、事業をすでに確立した企業は、既存のビジネスモデルに内在する既得権益のせいで根本的な変化への対応が鈍る。
音楽出版社は新しい技術を阻止しようとしたが、経営力に優れた企業(アップル、ウォルマート、スポティファイ)によって脇に追いやられた。書籍の出版社は当初、紙に印刷された本のお粗末な複製を電子媒体で提供するという対応に出たが、これが空振りに終わると、一歩退いて現状を守る作戦に切り替えた。
この戦いの様相を大きく変えたのが、ハードウエアメーカーの技術力だった。紙の本と同じくらい快適に文章が読めるディスプレーが作られるようになったのだ。このディスプレーの性能は、近いうちに紙の本をも凌ぐようになるだろう。この結果アマゾンは、その販売力を武器に、出版社の抵抗勢力に挑むことができるようになった。
金儲けに走る出版業界の大手コングロマリット
出版社の役割の基盤は、販売チャネルへのアクセスを支配していることにある。作家になりたい人は常に「本を出すこと」を目指す。出版社は昔から、どの本を世に出すべきかを決めることに加え、関連する様々なサービスをセットにして提供している。作品制作プロジェクトの特定と支援、資金提供、草稿の編集、完成した作品の販売促進などがそれにあたる。
しかし、出版業界で幅を利かせるようになった大手コングロマリット(複合企業)は、本よりもカネの方が好きな人たちによって経営されている。作家を支援するサービスは、販売チャネルへのアクセスの支配から得られる収益を最大化するために削減されている。
今日のベストセラーのリストを見てほしい。サッカー選手の自伝、セレブのシェフの本、吸血鬼の話、女性向けのエロティックな小説など、すでに売れている本の焼き直しばかりだ。
*1=米ニューヨーク・タイムズ紙に意見広告を出し、アシェットの書籍を意図的に予約できなくしたりして圧力をかけるアマゾンの姿勢を批判したうえで、早期の紛争解決を求めた