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WIRED VOL.12

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ビジネスのスピードを上げた「社内メールゼロ」ルール:Cyta.jp×IBM〜生きたデータが、ぼくらのビジネスをエンパワーする

ソーシャルツールはあくまでもプライベート用。ビジネスで使うなんて想像できない──。もしそう思っているならば、いますぐ考えを改めた方がいい。ソーシャルツールは、コミュニケーションを円滑にするだけではなく、その先にさまざまな可能性を秘めているのだから。そんな「ソーシャルとビジネス」の関係性について、とあるスタートアップとIBMが対話を繰り広げた。

 
 
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TEXT BY TOMONARI COTANI
PHOTOGRAPHS BY MICHINORI AOKI@LIGHT

現在2万人を超えるエデュケーション・プラットフォーム「Cyta.jp」を立ち上げた有安伸宏(写真左)と、日本IBMのソーシャル・エバンジェリスト行木陽子。

「人のアタマの中には、Googleではインデックス化できない、Amazonでは売ることができないニッチな『ノウハウ』が蓄積している。それを流通させたら、ものすごいことになるのではないだろうか…」

ある日そんな閃きを受けた有安伸宏は、勤めていた企業を辞し、既存の教育ビジネスとは一線を画すプライベートレッスンのサイト「Cyta.jp」を立ち上げる。2007年のことだ。そして2013年、有安はクックパッドとの経営統合を選択し、その結果、2万人を超える受講者を抱える一大プラットフォームへとCyta.jpを押し上げた。

そんな有安の元を、「ソーシャルウェア・エバンジェリスト」の肩書きをもつ日本IBMの行木陽子が訪れた。ソーシャルツールの普及では、一般企業の数歩先を行くスタートアップの現状を、その目で確かめるためである。2人の会話はまず、有安によるCyta.jpというサーヴィスの本質の解説からスタートした。


有安 Cyta.jpはいわゆる習いごとのサーヴィスを提供している会社ですが、教育系の会社ではなく、「サーヴィスをeコマースのように購入できる」というユーザー体験をつくる会社なんです。わかりやすくたとえると、Amazonのように簡単に安く「対面のサーヴィス」を購入できる、サーヴィスのECだと捉えていただければと思います。

行木 いまどれくらいのサーヴィス、つまりはレッスンが用意されているのですか?

有安 2007年に、ぼくの弟が講師第一号としてドラムのレッスンをはじめて以来、現在では約3000人の講師が、およそ200科目のレッスンを全国5000カ所で行っています。

行木 3000人! 講師陣のリクルーティングはどのような方法で行っているのでしょう?

有安 レッスンのクオリティコントロールはとても大事なので、必ず、まず最初に面接をしています。たとえプロのミュージシャンだとしても、面接をクリアしないと講師として登録できないんです。あとは、講師同士を競わせるレーティングも存在します。検索エンジンの結果と同じで、人気の先生はどんどんサイトの上の方に登場するんです。

行木 そのレーティングには、受講生も加わっているんですか?

有安 間接的に加わっています。最初のレッスンは無料なので、体験レッスンを受けた後に入会するとポジティヴ、途中で止めるとネガティヴといった要素などが加味されています。ぼくらはプラットフォームとして集客コストとリスクを取って、講師はリスクを取らずに報酬をもらう。人気が出てくれば、取り分も増えるというわけです。ぼくらの利益は、その報酬の一部から出ています。

行木 なるほど、そういう仕組みなんですね。ところで、有安さんは起業なさる前に、ユニリーバで働いていらっしゃいましたよね。起業するにあたって、大企業にお勤めになった経験はどれくらい生かされているのでしょうか?

有安 ユニリーバには大学を卒業してから2年ほどいて、ずっとマーケティングの仕事をしていました。ぼくは、ビジネスで一番大事なのは顧客だと思っています。それには、顧客のニーズとウォンツ(wants)を解析して、いかに自分たちのサーヴィスをそこにぶつけるかが重要になってくるわけですが、その点に関してはユニリーバ時代の経験はすごく役に立っています。

経営者には、例えばファイナンスにすごく強くて、パワーゲームで「このマーケットをこれくらい取りに行く」といって投資をしていくタイプや、消費者ひとりひとりにインタビューをしてインサイトを紡ぎ出し、そこから事業をつくり出していくタイプがいると思うのですが、ぼくは明らかに後者ですね。

行木 逆に、ユニリーバ時代と大きく変わったことは何でしょう? たくさんあるとは思いますが…。

有安 ぼくらはいま40人の組織ですので、例えばオフィスを引っ越すとか、独立資本を止めて全株を売却するとか、そういった大きな判断をぼくがしたとき、メンバーひとりひとりとコミュニケーションを取って、なぜそういう意志決定をしたのかを直接話すことが可能です。それにもちろん、全員の名前と顔と兄弟構成くらいはアタマに入っているので、それをふまえていることでチームを動かしやすかったりもします。

その点ユニリーバは巨大な組織だったので、常にノウハウのひとつ前の「ノウフー(Know-Who)」に関する情報が飛び交っていた記憶がありますね。

行木 誰がどのようなノウハウを有しているかという「企業内での人材の見える化」、つまりノウフーは、ビジネスをエンパワーしていく上でとても重要ですよね。IBMはグローバルで40万人を超える社員がいるのですが、これまでだと、例えばヨーロッパIBMのAさんが自分と非常に近い領域を担当していて、連携すればすごくいい効果が現れるはずだけれど、そのAさんのことを知る術がない、というような状態でした。

そんな人材情報の共有や、社員同士の相互理解といった問題意識を解決するソーシャル・ソフトウェア・プラットフォームとして登場したのが、IBM Connectionsなんです。このプラットフォームによって、ずいぶんノウフーが活性化してきたと思います。

有安 おっしゃる通り、テクノロジーを用いることで、大きな組織であっても社員ひとりひとりが何を考えているかを健在化させることは可能だと思います。一方で、そのテクノロジーを大企業が導入することの難しさも、実感としてわかります。

行木 そうなんです。まだまだ紙文化が残っていて情報のデジタル化が進んでいない企業もありますし、組織を越えた情報や知識の共有が難しい企業も多いです。

有安 とはいえ、スタートアップでは当たり前、というか死活問題とも言える「スピード感」は、今後、あらゆる規模のビジネスにおいてますます重要になってくると思います。組織内でソーシャルをうまく使えない企業は、この先、キビシイ現実が待っているかもしれませんね。

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