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『若者を見殺しにする日本経済』に見る絶望感



 原田泰「若者を見殺しにする日本経済」を読んだ。本書の主旨を一言で言えば、若者のためには日本経済の成長が不可欠で、そのために構造改革と金融緩和をやるべき、ということになる。もっと言えば、景気が良くなれば問題は解決すると主張している。


 本書の主張に目新しいものは感じないが、一応はデータを使いながら自分の立場を示すという内容になっている。テーマは、タイトルの通り世代間の不公平。高齢者の社会保障費が高すぎて、若者は著しく損をしている。そういう認識はメディアでも流される通り、ほとんどの人が共通しているだろう。


 当たり前だが、インフレにして通貨価値を引き下げれば自然と世代間の富の移転は進む。だから、貯金も少なく現役で働いている世代からすれば(賃金もある程度上がるとして)インフレは大賛成だろう。筆者の主張も金融緩和で、インフレターゲットを決めて少しずつ通貨価値を切り下げていくことが重要だ、と言ってる。それについては異論はないし、今まではデフレで老人の権益がさらに強められてきたというのもその通りなのだろう。

 ただ、その後に述べられている構造改革やグローバルなんちゃらみたいな話にはちょっと閉口せざるを得ない。


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 著者はエコノミストなので金融政策に関して提言するのは当然だが、日銀が「適切」な金融緩和を行っていれば経済が上手くいっていたという類の話は眉唾だ。日本が「停滞」した決定的な要因は、経済政策を誤ったからというわけでもなく、労働人口が減った必然だろう。

 経済成長が若者のためになる、という主張だが、そりゃ若者とか高齢者とか関係なく経済が成長するに越したことはない。今の日本のシステムは「成長」を前提に組まれているわけで、景気が良くなって経済成長すれば解決する問題は多い。ただ、その成長ができるかどうかが問題なんだよ!筆者はTPP賛成で、規制緩和して円安にして海外市場に打って出ればまだ成長はできると主張する。

 要するに、若者はグローバリゼーションに立ち向かって海外シェア奪って日本に再び経済成長をもたらしてくれ、というわけだ。


 じゃあどうやって成長すればいいの?と言うと、保護や規制や障壁なくして、後は脈絡もなく「若者のために真の教育を」と語りだす有り様だから話にならないよ。



 福祉制度の格差もそうだが、成長し続ければ上手くいく、という枠組みそのものがすでに不公平だ日本はずっと経済成長していかなければならない、という価値観でやっていくとしたら、それこそ高齢者なんて働かないし消費もしないしお荷物以外の何者でもない。国内市場が縮小しているなら海外市場だ、と言うが、老人に足引っ張られながら海外シェア獲得するみたいな妄想を国内産業全体に適用するのは無理がある。自動車やゲームみたいなグローバル化に成功した企業だって最初は潤沢な国内需要に支えられてたわけだし。

 仮に海外市場に打って出て、成功して経済成長が上手くいったとする。でも、原理的にそれをずっと続けるのは不可能だ。まず、高齢者の増加というハンディの度合いは段々大きくなる。それに、国内市場が高齢化で行き詰まったように、海外市場だっていつかは同じ状況が来る。


 成長し続けることは不可能だが、成長し続けることを前提にあらゆる制度を組み込んでしまったので、具体的な方法を考える上では成長し続ける政策を取るしかないというジレンマ。まあ、脱成長みたいな理想を掲げるのが一番ヤバいことになりそうだし、ごまかしつつも新しいやり方を探っていくしかないのだろう。でも、成長すれば問題が解決するというのは若い人のリアリティにはまったく即してない。


あと気になったのが、今の社会問題に関する考え方。


 年金制度や高齢者のための医療保険制度ができ、他人の子供に頼るようになると、際限がなくなってくる。社会保障制度ができ、国家権力が必ず自分の老後を保障してくれるとなって、子供すらも産まなくなった。何かおかしくはないか。…過度の、しかも、他人の親への親孝行を強制するような制度は国を滅ぼす。しかも、その制度を持続させることが国家100年の体計の席になる態度と論ずる人が出るに至っては、もはや日本という国家が滅んでいると言うべきだ。


 ブラック企業などと言われている企業の多いことを考えると、政府に規制の強制的な執行能力があるのか疑問を持つが、政府にそういう能力があるとしよう。あるとしても問題は解決できない。なぜなら、企業には雇わないという選択肢があるからだ。企業が雇わなければ、失業者は増える。失業者は、条件の悪いところでも働くしかない。…雇用条件を改善するためには、規制よりも2つのことが重要である。まず第1に日本の生産性が上がること、第2に人手不足気味の状況になることである。


 グローバリゼーションには、格差を縮小させる効果もある。貧しい国が発展すれば、豊かな国の買うものが安くなる。100円ショップやユニクロの服や安価な家電製品によって先進国の貧しい人々の実質所得は高まる。日本が食糧の輸入も自由化すれば、さらに豊かになるだろう。所得の低い人は、エンゲル係数も高いので、食料品が安くなれば、実質所得は高まる。


 こういうのって、自由化を進めて競争は促進するのに面倒くさい部分は都合よく「家」に任せようとする旧来の自民党の考え方そのものだよね。それで上手くいってた時代はあったけど、「家」の部分が崩壊、暴走しているのが今の問題だと思う。子供が少なくなって高齢者が長生きするようになると家庭では面倒見きれなくなるし、ブラック企業だってジョブ制という概念がないメンバーシップ型の労働環境が暴走した結果だし、グローバリゼーションで物価安くなっても移転しにくい地価や人的サービスの価格は下がりにくいから家庭を持つこと難しくなる。



 エコノミストとして金融政策を主張するのは本分だし、デフレ、円高が若者に対して不利に働いてきたというのはその通りだろう。本書の所々で賛同できる部分も多かった。ただ、一見若者の味方をして結局は自分の幻想を押し付けてくるというのはよろしくない。本書の後のほうは意味のわからん教育論にページ割いてるし、何かの政策と妙な価値観がセットになっているという例のアレなのだろうか。


 この本は安部総理がFacebookに挙げていたらしい。自民党の経済政策にそういう部分が反映されなければいいんだけど……/(^o^)\



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