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死者1000人超 エボラ出血熱

8月12日 22時20分

味田村太郎記者

西アフリカで患者が増え続けているエボラ出血熱。
これまでに死亡した人は1000人を超え、過去最大の規模で感染が広がっています。
WHO=世界保健機関は「制御できない速さで、エボラウイルスの感染が拡大している」と危機感を強め「緊急事態」を宣言。
感染が広がる西アフリカの国々だけでなく、世界各国に対して対策の強化を呼びかけました。
感染はなぜ、ここまで広がってしまったのか。
現地では今、何が求められているのか。
アフリカを拠点に取材を続けている味田村太郎記者が解説します。

エボラ出血熱とは

「エボラウイルス」が引き起こす感染症、エボラ出血熱。
1976年にアフリカで初めて確認され、アフリカ中部を中心にたびたび流行が起きてきました。

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エボラ出血熱の症状は、発熱や頭痛などインフルエンザのような症状から始まります。
その後、下痢やおう吐を繰り返すようになり、重症化すると口や胃などの内臓から出血します。
そしてさらに悪化すると死に至ると言われています。
発症した人の致死率は最大で90%にも上ると言われ、致死率が極めて高い感染症として知られています。
今回の流行は、西アフリカのギニア、リベリア、シエラレオネを中心に広がっています。
西アフリカでエボラ出血熱が流行するのは初めてで、WHOは今月9日までに1013人が死亡したと発表しました。

過去最大規模で広がる感染

エボラ出血熱の流行で死者が1000人を超えるのは初めてです。
まさに過去最大規模の流行となっているのです。
今月はじめ、WHOは専門家による緊急の委員会を実施。 記者会見したチャン事務局長は「エボラウイルスの40年近い歴史の中で、最も深刻な事態だ」として「緊急事態」を宣言しました。

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WHOがエボラ出血熱で緊急事態を宣言するのは初めてで、現状の対策だけでは感染拡大は防げず、ほかの国にも感染が広がるおそれがあることを、WHOが認めたことになります。
実際、西アフリカの3か国と国境を接していない周辺国のナイジェリアでも今、感染拡大の懸念が強まっています。
先月、リベリアからナイジェリアに渡航した1人の患者から、これまでに9人が感染し、1人が死亡したのです。

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ナイジェリアはアフリカ最大の人口を有する大国です。
経済成長の著しい国で国際的な行き来も盛んです。
そのナイジェリアでもし感染が広がることになれば、飛行機による移動などで感染がさらにほかの国へと広がる事態も考えられ、WHOが警戒を強めています。

立ちはだかるハードル

それでは、西アフリカの3か国でなぜこれほどまで感染が拡大したのでしょうか。
専門家はさまざまな要因を指摘しています。
まず挙げられるのは、人の行き来が多い地域で感染が広がったことです。

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過去の流行では、小さな集落などを中心に感染が広がったといわれ、一定の時間が経てば、感染の広がりは収まるとされてきました。
しかし今回は、人の行き来が多いなかで、地方から都市部へ、さらには国境を越えて隣国へと拡大していったとみられます。
2点目は現地の風習です。
感染が広がる地域の中には、葬儀などの際、亡くなった人の体に触れる風習があります。
しかし、エボラウイルスは患者の血液や体液などから感染します。
特に亡くなった患者の血液などには大量のウイルスが含まれています。
患者の遺体に直接触れれば感染する可能性が高く、住民に正しい知識がきちんと伝えられてこなかったことも感染が広がった要因とみられています。
そして3点目は現地の医療体制のぜい弱さです。

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私はこれまで、現地で活動する日本人の医療従事者や国連の職員などを取材してきました。
みな医療従事者の数が圧倒的に足りないと話していて、増え続ける患者に対応しきれていない現状があることも要因になっているとみられています。

過酷な現場

なかでもユニセフ=国連児童基金が明らかにした医療現場の実態は、現地の過酷な状況を表していると感じました。
感染が広がる地域の1つ、シエラレオネの東部州、ケネマ地区にある病院。
ことし3月以降、毎日新たに5人の患者が運ばれ、現在は45人が入院しているといいます。
1週間で10人以上の患者が死亡しているということで、看護師などの医療従事者も、これまでに6人が感染して命を落としています。
医療従事者の中心的な存在だった看護師長のシスター・マブル・フォニーさんも感染して死亡しました。
さらに追い打ちをかけるのは住民からの偏見と差別です。
ある看護師は、次のように語ります。

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「私たちは“エボラ看護師”と呼ばれ、避けられています。誰も私たちに近寄りたがらず、家族ですら私たちからウイルスが感染することを恐れています」

世界が動き出した

こうした医療従事者は、全身を覆う防護服に加え、手袋やマスク、ブーツを着用して、感染を確実に防ごうとしています。

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しかし、熱帯気候の現地では猛烈な暑さとなります。
常に感染のリスクがある医療従事者は、ただでさえ大きな緊張とストレスにさらされています。
そうしたなか、暑さと疲労が、医療従事者の気力や体力、それに注意力を奪い、感染するリスクをさらに高めてしまっているのです。
ひっ迫した医療体制。
現状を知った世界各国は、現地を支援しようと、本格的な対策に乗り出しています。

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アメリカCDC=疾病対策センターは警戒レベルを最高の「レベル1」に引き上げました。
アメリカにとっても憂慮すべき深刻な事態だとして、エボラ出血熱の感染対策に詳しい専門家など50人以上を現地に派遣。
地元の政府と協力して、感染拡大を食い止めようとしています。
一方、感染が広がる各国も非常事態宣言などをして、対策を強化しようと乗り出しています。
国境を閉鎖したり、感染の疑いがある人の出入国を制限したりするなどの対応を急ぐとともに、報道機関などと協力し、エボラ出血熱に関する正しい知識を住民に広く伝える取り組みも本格化させています。

貧しさが広げる感染

エボラウイルスは、本来適切な感染対策を行えば感染を防ぐことができるウイルスです。
しかし西アフリカの貧しい国々にとって、先進国のような感染対策を行うことは難しいのが実情です。
今回感染が広がった西アフリカの国々は、もともと医療体制がぜい弱で、病院などの医療機関そのものの数をはじめ、医師や看護師が大幅に不足しているのです。
さらに現地では別の懸念も広がっています。

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医療従事者のほとんどが、エボラ出血熱の対応に追われていることから、マラリアなどのほかの感染症や、妊婦や赤ちゃんの診療など、日頃から求められる保健衛生の分野にも影響が及ぶと懸念されているのです。
西アフリカで、エボラウイルスの感染の広がりが明らかになってから5か月余り。
いまだ終息の兆しが見えないなかウイルスとの懸命の闘いが続いています。
感染拡大の防止に向けて、日本を含めた国際社会による支援と結束が求められています。


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