(英エコノミスト誌 2014年8月9日号)
ウラジーミル・プーチン大統領は、ロシアを自立した強い国にできるふりをしている。
「孤立」「強化」「自立」は、モスクワの政財界のエリートたちの間で同じ意味で使われる異なる用語だ。ウクライナ東部の武装勢力に対する支援と、それ以前のクリミア併合が引き起こした外国からの制裁に直面し、ロシアは内向きになる準備を進めている。長期にわたる外交的対立と経済的苦境に備え始めたのだ。
このプロセスは加速しているように見える。8月6日、ロシアは西側諸国からの圧力に対抗し、ロシアに制裁を科す国からの農産物の輸入を禁止、もしくは制限すると発表した。
ウクライナ東部の緊張は高まっている。ウクライナ軍は概して無差別な爆撃によって、武装集団の牙城であるドネツクを事実上封鎖した。もしドネツクがウクライナ政府の手に落ちたら、親ロシア派の反政府組織は勢力を失うだろう。
プーチン大統領の危険な賭け、生活水準の低下を補える恩恵?
プーチン氏は「人道的」な作戦を口実としてロシア軍をウクライナ東部に派遣することによって、自身の信頼を保とうとする衝動に駆られるかもしれない。北大西洋条約機構(NATO)によると、2万人のロシア兵が国境に集結しているという。ロシア兵は戦闘機や爆撃機を使った実弾軍事演習を行っている。実弾演習は以前、侵略の前触れとなった類の演習だ。
たとえロシア軍が国境を越えることがなくても、ロシアと西側の対立は、ウラジーミル・プーチン氏の支配が続く限り、もしかしたら、その後も続くと見られている。
先月起きたマレーシア航空17便撃墜後にウクライナ東部の反政府勢力に対する支援を強化したことで、プーチン氏は、ロシアの経済的な健全性や世界的な評判よりも、ロシアの歴史的宿命に対する自身の理解を大事にしていることを世に示した。冷戦後の世界秩序の構造に挑むことは、それ独自の利益をもたらし、生活水準の低下を埋め合わせるという危険な賭けに出ている。
親クレムリンの政党、統一ロシアに所属するあるロシア下院議員は、プーチン氏を「重商主義」と見なすのは間違いだとし、同氏はむしろ、自立した勢力の中心地としてのロシアを確立することに尽力する「歴史的人物」だと言う。
プーチン氏は先月、ロシア連邦安全保障会議で「ロシアは幸い、どの同盟にも加わっていない」と話し、これを「我が国の主権を保証するもの」と評した。
ロシアと西側の新たな確執は、大国間の戦いにはならない。1つには、今のロシアは国境を越えた訴求力のあるイデオロギーを持っていないからだ。先月の本誌(英エコノミスト)のインタビューで、バラク・オバマ米大統領は、ロシアが突きつける課題は「事実上、地域的なもの」だと発言した。