ニコニコ技術部と中国の工場を見にいったら凄すぎて絶望した件
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ニコニコ技術部と中国の工場を見にいったら凄すぎて絶望した件

2014-08-13 00:25
    初めて秋葉原に来たときの興奮を覚えているだろうか?
    愛知の片田舎でパソコン通信で遊んでいた筆者が初めて秋葉原にいったのは、確か16のときだ。青春18切符を使って大垣発の深夜電車に飛び乗りコミケのついでに秋葉原を見に行った。

    「秋葉原にはなんでもある!!!!!!!」

    そのときの衝撃は今でも忘れられない。celeronのCPUも、最新のPD(光磁気)ドライブも、怪しい裏ソフトも、同人誌の専門店もある! 雑誌やネットでしか見たことないものが、ここにはすべてそろってるんだ!

    「シンセンにはなんでもある!!!!!!」
    先日、中国のシンセンに旅行にいき、全く同じ興奮を思い出した。
    人生の角度をねじ曲げるほどの強烈なインパクトを味わい、少しでもブロに残そうとおもった次第だ。

    本レポートは2014年8月5日~10日に、"世界の工場"である中国のシンセンに旅行にいってきたときのものだ。DMM.makeを担当するチームラボの高須さんがリーダーとなり約20人でシンセンの各施設を見学した。
    もし、気になる人がいたら12月にもまたあるらしいので、ぜひ参加すると良いとおもう。


    現地の製造請負企業seeedで基板を生産する様子

    ■Makerムーブメントってホントか?

    工場の話の前に、ちょっとものごとを整理しておきたい。

    最近、モノ作りがブームだ。展示イベント「Make Fair Tokyo」はイベントを重ねるごとに大きくなり、GoProやCerevoのようなハードウェアベンチャーのニュースをよく耳にする。健康情報管理の「FitBit」は俺も購入し、楽しく使っていた。(そして速攻でなくした…)

    こうしたブームは「Makerムーブメント」と呼ばれている。クリス・アンダーソンの著書『MAKERS』が発端だ。この本によると、モノ作りの世界に革命が起きている。それは、あたかもLinuxというOSがフリーソースの世界から生まれてしまったかのような革命だ。長らく"モノづくり"の世界は大企業のみが参加を許された特別な行為だったのだが、インターネットの普及により個人でも可能になった。製品データやノウハウがネットで簡単に流通し、3Dプリンタにより試作が手元でも行え、キックスターターで必要な資金を調達し、小ロットに対応した工場ですぐにでもそれが生産できるようになった。資金がなくても、アイディアとコンピューターさえあればモノづくりが誰でも行えるようになったのだ。これはあたかも誰でもソフトが作れるようになったネット初期のようで、新しいカルチャーが産まれ、ニッチだけれど新しい製品がどんどん誕生するだろう、という話だ。

    しかし、筆者としてはMakerムーブメントには懐疑的だった。だって、世界は別にいつも通りじゃない? フリーソフトカルチャーの産んだLinuxやapacheは我々の世界に欠かせないものになったし、CGMであるVOCALOIDによる音楽は日本の音楽シーンに爪痕を残しているけれど、arudinoや3Dプリンタによる製品がMAKE界隈以外で日常的に使われているのを見たことがない。

    一応補足として、筆者もヘンな発明品は大好きで、日本のMake Fire Tokyoではその前身のイベント2回の目から毎回出展側として参加してきた。だから一応Makerと名乗っても許されるだろう。それがまあ、中古のビデオカメラにビカビカ光るLEDをくっつけただけのヘボ作品だとしてもだ。



    ■世界の工場、シンセン


    Makerムーブメントに複雑な思いを抱えている中、「ニコ技シンセンツアーをしませんか?」という面白いお誘いをいただいて、中国にいくことになった。

    元々の発端は1年前にニコニコ技術部でおこなったディズニーシーの観察会だ。超会議2に興奮した有志でエンターテイメントの現場としてディズニーを見に行ったのである。技術の視点や中の人視点で話しながら巡ることができ、とても楽しかった。それの世界版をやってみようというわけだ。

    シンセンはiPhoneから100円ショップのアレコレまで何でも生産している世界の工場の中心部だ。サイト「DMM.make」を運営するチームラボの高須さんが最近アジアのあちこちを飛び回ってMakerカルチャーを繋げており、その人脈でシンセンの工場を見学することができるのことになったのあ。ニコニコ技術部の尻Pやスイッチサイエンスの皆様、翻訳家の山形浩生さんなどこの界隈で最も強力なメンバーとともに遊びにいくことになった。

    旅程は以下だ。
    1日目 現地集合
    2日目 工場見学(5つ)
    3日目 中国版秋葉原の見学&インキュベーター施設見学
    4日目 現地のベンチャー見学(3つ)
    詳細は他ブログに譲るが、朝から晩までびっちりと先端を見続けるという非常に濃厚なツアーだった。ガイドやバス調達を無料でしてくれた現地のMaker支援企業Seeedには深く感謝したい。

    ■産地直送の最強市場


    シンセンには秋葉原の30倍近い面積をもった電気街がある。電気街といっても完成品を売るぬるい場所だけではない。秋葉原のラジオ会館のように本当にマニアックな製品や、部品を抵抗1個から売る店が並んでいるのだ。LED部品だけでビルの1フロアを占拠しているのをみたときは、本気で頭がくらくらした。40店舗近くあり、道を歩いても歩いてもLEDしか売ってない……。
    シンセンにないものは、世界にはないとおもって良い。

    この環境がモノを作る人にとってどれだけのアドバンテージか、想像してみてほしい。何か思いついたら部品屋にいけば実装できるかすぐにわかる。実装できるとおもえば発注してしまえば工場に部品が渡る。ちゃんと工場で作ってくれるかどうかは、工場までいってしまえばいい。極端な話、思いついて数時間で量産までいけるのだ。圧倒的なスピード感だ。



    部品街のほんの一部

    ■頭のいいやつらが資本主義を乗りこなす

    この環境を最大限生かしているのが、アメリカのベンチャーインキュベーターだ。Haxと呼ばれる現地インキュベーション施設では、半年で10組のベンチャーを育てている。Haxは世界中の優秀なチームを書類審査で集め、シンセンのオフィスに詰め込む。応募したチームは共同オフィスで他のチームと競い合いながら新製品を開発するのだ。必要な生活費や、場合によっては開発費もインキュベーターが出資する。

    なんでもあるシンセンで、世界一頭のいい若者達が、圧倒的な速度でモノをつくってクラウドファウンディングに出して世界にその成否を問う。ヒットしたものは資金注入をしてさらに拡大だ。10チーム中1チーム芽が出ればもうけもの。

    ITムーブメントでノウハウを蓄積したアメリカならではの合理的なシステムが築かれている。頭の良いやつらが資本主義をアクセルべたぶみで乗りこなしているのだ。

    日本はどうだろうか? ちんたらと通販で取り寄せたものでプロトタイプし、工場生産のノウハウをロクに教えられる人もなく、部品や工場も十分にそろっていない。クリエイターの能力が一緒だとしても、環境による差が大きすぎないだろうか?

    シンセンで筆者が感じたのは絶望だった。
    この世界では、日本は田舎すぎる。



    製品をプレゼンするHax卒業生。ロードバイクのハンドルにライトやコンピューターを埋め込み、拡張可能にしたもの

    ■シンセン+アメリカが正義なのか

    ではすべてがシンセン流になるか? というとそうでもない。シンセンが今のような製造環境にあるのは労働単価が低い今だけだ。数年後にはシンセン的なものは別の国に移っている可能性が高い。

    また、GoProやRED、BlackMagic Designのような世界を変えるような新しい製品はアメリカから誕生しているし、日本では世界を変える製品は、リコーのTHEATAや、Sonyのスマートテニスセンサーのように大企業から産まれている。任天堂のWiiや、WiiFitも偉大な実例だ。物作りの本流である「圧倒的なアイディアの、圧倒的なクオリティの製品を世界中に届ける」製造業は簡単には移らない。

    ベンチャーインキュベーターに参加しているのも北米が中心だ。残念ながら日本や中国のチームはほとんどない。高度な教育と、独立精神に溢れる人達が、中国を「うまく使っている」のが現状だ。シンセンのクオリティがコストに見合わなくなったとき、台湾のようにオリジナルティのある製品を作れるように移行するか、まだわからない。

    現状のシンセンは環境として本当に凄いが、それがすべてではない。



    ベンチャーとして成功しつつあるMakeBlocksのオフィス。製品を検品している。


    ■日本はどうなのよ!?

    アメリカの奴らは「最高の環境と人材で世界を変える製品をつくる」というゲームをしている。これまでAppleにしか許されなかったような挑戦を個人でもできるようになったことがMakersムーブメントの一つの重要な答えだ。もし、個人で世界を変える製品をつくりたいと思っている人は、今すぐこの潮流に触れたほうが良い。

    一方で、デバイスで世界を変えることだけが「個人がものづくりをできるようになったこと」のすべてではない。日本で個人が自由にものを書けるようになったとき、日本を変えたのはアメリカ発のBlogではなく「2ちゃんねる」と「携帯小説」だった。動画や生放送が作れるようになったとき、「VOCALOID」や「パズドラ実況番組」が日本人の心を動かしていた。かのように日本らしい物作りでのやりかたがあるだろう。

    その答えの一つは、「にゃんこ型イヤホンジャックカバー」だとおもう。Twitterのつぶやきからうまれた小物で、20万個以上が販売されている。アメリカ流のcoolな世界から比較するとなんともアレだが、個人から産まれた物作りで、その後もフォロワーも産んで一つのムーブメントになったものといえばコレだ。

    Twitterでつぶやいたら商品化、「にゃんこ型 イヤホンジャックカバー」ついに完成 - GIGAZINE http://gigazine.net/news/20120601-nyanko-twitter/

    同人誌、同人グッズも「個人のものづくり」の一つの例だろう。コミケなどではみんなあきれるほど気軽にグッズを作りまくっているが、世界的に見ると相当特異な現象である。デジタルデータを単にパッケージングしたものではなく、モノとして凝りに凝った本やグッズも実は多い。高河ゆん先生の「ビニールカバーに水とラメが入ったNARUTO同人誌」などは実物を見たことがあるが最高に極まっている。

    本や同人誌という媒体に愛着を寄せる人たちへ:『本フェチ』 - マンガLOG収蔵庫 http://d.hatena.ne.jp/m-kikuchi/20110912/1315827412

    ニコニコ技術部のように「役にたたないモノを作って遊ぶ」こと、意味不明なほどリアルに風に揺れる髪が表現されたフィギア、型紙付き雑誌が販売されるコスプレ衣装なども物作りだ。頭の硬い人は認めないかもしれないが、既存の製造業から逸脱した物作りカルチャーは、着々と育っている。まあ、ことごとく輸出しにくいし世界も変えないけど。



    工場で金属を曲げ加工する様子。工場勤務者は若い女性が多い。

    ■おわりに

    正直「いまから半年、シンセンでベンチャーやらない?」といわれたらフラっと行っちゃうとおもう。少しでも物作りをしたことがある人なら、シンセンに触れれば取り返しのつかない焦りを感じるだろう。この街に満ちている「世界は良くなっていく」ことへのまっすぐな期待は、日本では味わえなかったものだ。

    この文章を読んで興味をもったひとは、ぜひ足を運んで欲しい。繰り返しになるが、12月にも見学ツアーを行われる。あなたの人生を変える旅行になることは、間違いない。参加を希望されるかたは高須(@tks)さんまでご一報を。

    筆者はとりあえず今年もMAKEに出展し、末席に関わっていたいとおもう。こうやって世界に嫉妬できるのも、参加者の特権なのである。一緒に参加してくださるかたは@iyokan_nicoまで。

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