イラク:緊迫の検問所、鉄条網越しに銃口 北部カラクルポ
毎日新聞 2014年08月12日 21時41分(最終更新 08月12日 23時24分)
「この先に安全はない。あの丘の向こうに、イスラム国のやつらはいる」。イラク北部クルド人自治区の境界にある町カラクに12日入った。検問所に到着すると、自治政府の治安部隊ペシュメルガの兵士が鉄条網の向こう側を指さし、記者を制止した。100メートル先では高さ約3メートルのコンクリート壁が道路をふさいでいた。乾いた丘陵で放牧された羊が草をはむ風景が広がる一帯は今、緊迫感に包まれている。シリア東部からイラク北部を席巻するイスラム過激派組織「イスラム国」の侵攻が迫る最前線だからだ。【カラク(イラク北部)秋山信一】
自治区の中心都市アルビルから車で約1時間。イスラム国の支配下にあるイラク第2の都市モスルとのほぼ中間点にカラクはある。兵士や機関銃を積んだトラックが行き交い、無線連絡が絶え間なく続いていた。
「米軍の空爆がなければ、アルビルも危なかった」。前線司令部にいたクルド人のシャウェス前イラク副首相が疲れた表情で語った。イスラム国が最も接近したのは、今月8日に米軍が空爆した直後だった。モスル郊外のカラコシュを制圧した余勢を駆って、自治区の支配地域に侵入。カラクの検問所から約3キロまで迫った。
この時は銃撃戦の末、ペシュメルガが撃退。その後はカラク郊外にあるハゼル川を挟んで双方がにらみ合いを続ける。空爆でイスラム国の進撃は止まったが、緊張感に変わりはない。
「戦う準備はできている。だが我々にはこんな武器しかない」。初老の戦闘員が記者にこぼした。手にしていたのは自動小銃。ベストのポケットには拳銃が入っていた。シャウェス氏によると、高性能砲弾などはほとんど無い。
イスラム国は2012年以降、シリアとイラクで戦闘経験を積んだ戦闘員が多い。両国の政府軍から奪った戦車やロケット弾も保有している。「我々は同じ日本製のピックアップトラックを使っているが、こちらは型落ち、イスラム国のは最新型だよ」。別の戦闘員が苦笑いした。
だがクルド側に早期の戦力強化は望めない。イラク政府は次期政権の発足が政争によって遅れている。クルドの独立志向や石油利権を巡る中央政府との対立もあり、政府軍から高性能の兵器を供与してもらえる保証はない。シャウェス氏は「今は米軍の空爆でしのぐしかない」と語った。