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BEAT SCIENTISTS 〜HIP HOPのおとづくり〜 VOL.7 feat. Illicit Tsuboi(PART 4)

インタビュー:高木“JET”晋一郎
写真:cherry chill will

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 これまで3回に渡って登場して頂いた、「BEAT SCIENTISTS 〜HIP HOPのおとづくり〜」Illicit Tsuboi氏へのインタビューも、第4回の今回をもってひとまず最終回となる。今回は、最初期からプロデュースを手がけ、FINAL JUNKEY立ち上げ以降は、エンジニアとしても参加し、近作ではアディショナル・プロデューサーとして、二人三脚で作品作りを行なっているECD氏との作品制作についての流れや、作品のエンジニアリングについて、そしてDJやこれからサウンド・クリエイターを目指す人へのコメントなど、多角的に語って頂いた。
 
 
■ツボイさんのお仕事の中では、ここ10年近くはタッグを組まれていると言っても過言ではない、ECDさんの作品を連綿として見ると、その都度の変化や時代への感受が感じられると思うんですが。
「流行や時代性については、石田さんから届く音源に、まずそういう提示があるんですよね。石田さんは僕以上に流行モノに敏感で、流行のサウンドの傾向を即座に取り入れるレスポンスが早いんです。それで、そこで出来上がった石田さんの音を、更に僕がぶち壊していくっていう。だから、今回のアルバム『FJCD-015』も、石田さん的にはYGみたいな方向性も濃かったんだけど、それを完璧に俺がぶっ壊してしまうっていう(笑)。『そういう方向でもいいんだけど、それを若いヤツがやったらカッコ良いけど、石田さんは違うんじゃない?』って部分もあって。でも、そういう最新の流行を目指してる感じは絶対どこかにあるんで、その部分が面白いかなって。そういう石田さんからの提示は、ピュアだし、可愛いから、残してほしいって思うんですよね。石田さんとの作業的には、もらった音源を仮ミックスして、それを石田さんに聴かせてOKだったら、そこからまた破壊作業に入るっていう」
 
■破壊(笑)。
「今回はその集大成になってるんですよね。どっちかっていうと、石田さんはスカスカなサウスみたいな音で乗っけてくるんで、そこに15倍ぐらい音を増やして、全然そうじゃないモノにするっていう感じですね。最初は8トラックぐらいで構成されてるのが、最終的には190トラックぐらいになってるから。今回は僕が楽器も弾くし歌も唄うしラップもシャウトもしてる」
 
■それはECDさんからのオーダーで?
「いや、自ら。その説明も石田さんにはしてない」
 
■タハハ。
「そのことを誰にも言わずにミックスの段階で入れて、その過程を誰にも見せてないから、言わないと誰も俺だって気付かない(笑)。だから、石田さんのインタビュー読むと、サウンドの部分についての説明で『そこ、実は違うんだけどな~』って思うことは時々ある」
 
■痺れるな〜(笑)。
「今までクレームだったりやり直しはほとんどないから、これでも大丈夫なんだなって。もし、これがトラブルになってたりしたら、どういう風に音作りしたのかっていう意図だったり、種明かしはしなきゃいけないんだろうけど。でも、ここまで壊しておいて、石田さんは怒ってないから、まだ大丈夫かなって(笑)。だけど、石田さんの原曲にある、例えば音の抜きだったりっていうポイントは残すってことは考えてますね。それは重要なエッセンスや意思表示だと思うし。だから、石田さんと僕とのコール&レスポンスなんだと思います」
 
■下高井戸トラスムンドで、「The Bridge - 明日に架ける橋」の購入特典として、ECDさん側での録音段階の音源を収録したCD-Rが付属していましたが、その音源を聴くと、どの程度ツボイさんの段階で変化して、どの部分がECDさんの作ったモノから変わっていないのかが分かって、非常に興味深かったです。“NOT SO BAD”はECDさんの段階でかなりメイン・モチーフが固まってたので、そこまで大幅に変わってないんだな、とか、“APP”はECDさんの提示したモチーフを、ツボイさんの方でそれに近いけどまた違ったサンプルで構築したんだな、とか、“NO LG”と“toilet toilet”は原曲がどうのってレヴェルじゃないな、とか(笑)。だから、イメージとしてはTHE BEATLESの「LET IT BE」「LET IT BE... NAKED」の関係にかなり近いのかなと思いました。
「そうやって色んなことが出来るのは面白いんだけど、それ故に、石田さんから音をもらって、こっち側の作業から完成に至るまで、一年ぐらいかかってしまう。今回のアルバムも、去年の7月には石田さん側の音が上がってたんだけど、結局リリースまで1年弱かかってしまって、それは申し訳ないな、と。だから、石田さん的には、作ってから10ヶ月以上前の作品が出てるってことになるし、その間に既に石田さんは新しい作品を作ってしまってるという(笑)」
 
■よく、ツボイさんのトラックにラップを吹き込んで、それがミックスから戻ってきたら、まったく聴いたことのないトラックに差し替わって戻って来たという話も、何回か色んなアーティストから訊いたんですが。
「本人に製品版を聴かせないまま、完パケになっちゃう場合もありますね。CAMPANELLAの『VIVID』も、曲間も最終的なミックスも、僕しか知らないでリリースになってる。〆切寸前の寸前まで作業してたから聴かせる時間がなくて」
 
■……スゴすぎます! TREVOR HORNもエンジニアリングを手がけた作品で、弾き足しやリアレンジをするといいますが、その意味では、一回目に出てきたART OF NOISEイズムが宿っていると(笑)。
「トラック・メイクに関しては、自分の提示したトラックに対して、ちょっとイメージと違うグルーヴのラップが乗ってきたら、そのラップに沿わせるために、トラックを差し替えたり、作り直したりするんですよね」
 
■ノリの感覚を沿わせるというか。
「やっぱり、ラッパーにはトラックの“骨格”の段階を渡すわけで、そこにラップが載ったときに、そこで自分のイメージしてる最終形に辿り着くかは、いつも半信半疑なわけですよ。だから、その最終形に辿り着くようなラップだったら、純粋にブラッシュ・アップすればいいし、違うイメージの最終形になりそうだったら、トラックを差し替えてしまえばいいわけで」
 
■その意味では、ツボイさんがトラックを提供する際には、ある程度の最終形が見えているということですね。
「ある場合とない場合がありますね。例えばRHYMESTERの場合は、イメージがあったんだけど、それと全然違うラップが載って返ってきたんですよね。だけど、それが面白かったから、トラックは差し替えなかった。だから、自分の中で『最終形はこれ』っていうような、ガチガチにはならないようにしてますね。でも、イメージと違うけど面白いっていうような、こちらの予想を超えるようなラップが返ってくるのは、やっぱりRHYMESTERみたいな、ちゃんと実力がある人たちですね」
 
■その意味では“トラック提供”“エンジニア”というより、“共作”っていう考え方に近いですね。
「そうですね。トラック投げて終わりじゃないんで。でも、そうするのは基本的には自分を持ってる人だけですけどね。入れ知恵するのも、自分の考えを持ってる人だけ」
 
■入れ知恵とは具体的には?
「僕の入れ知恵は、エンジニアとして、音のエッセンスの加え方だったり、『こうするとこういう音になるよ』っていう、アドヴァイスだったりですね。ただ、これがマキュウになると、根底から作品が変わるぐらい、グッとアイディアを投げたりするんですけど。でも、そういう部分は、エンジニアだけをやってるわけじゃなくて、トラック・メイクもやってるからこそ出せるアイディアだというのもありますね」
 
■ツボイさんにとって、エンジニアとトラック・メイクは繋がってますか?
「僕の場合は完璧に繋がってますね。オケ作るときも、最終的にこういうサウンドにしたいから、ドラムはこういう音をここに乗っけて……ってことが全部、頭の中にある」
 
■エンジニアリングを経た後の最終形が見えながらトラック作りをするというか。
「サンプリングで曲を作ると、やっぱりPCだったりMPCだったり、機材の中で完結させるのが前提であると思うんですよね。僕の場合はその逆で、KANYE WESTの1stや2ndの感覚に近いというか」
 
■具体的にはどのようなことになりますか?
「サンプリングと生楽器の融合って、基にサンプリングのビートがあって、それを補うために生楽器が入るって感覚が多いと思うんですね。だけど、KANYEのやり方は、生楽器も『乗っけてきてる』と思うんですよね。補うんじゃなくて、生楽器もフレーズで使ったり、サンプリングを軸にしながら、それに付随する形で生楽器を使うっていう。あのやり方は面白いなと持ったし、自分のやり方とも近いなと思ったんですよ。っていうのは、それを形にするには、トラック・メイクだけじゃなくて、ある程度エンジニアリングのことも分かってないと、作れない形だからなんですよね」
 
■なるほど。エンジニアリングで一番大事にしている部分はなんですか?
「僕の場合は、リリックが一番しっかり、面白く聴こえるかですね。だから、絶対リリックをミックスのときにもらうんですよ。ない場合は、なるべくもらうまでミックス作業をやらないです」
 
■興味深いです。
「そこが一番重要なんです。リリックを見ながらミックスをするんで、内容がしっかり入ってくるようなミックスをします。ラップがトラックに埋もれがちになったとしても、それでも聴き取れるミキシングや音の配置をしてますね。特に、ドメスティックなモノに関しては、そこを意識してるかどうかで、リスナーの食いつきが全然違うと思うんですよ。だから、語感や聴感の面白さはラッパーに任せるけど、その内容が届くかどうかは、エンジニアリングとして、自分は一番重要なポイントに置いてますね。だから、僕がトラックを差し替える場合は、リリックの内容に通じるトラックだったり、エンジニアリングで音を足したとしても、内容に関連したサンプリングやSEだったりする場合がほとんどなんですよね。それは、リリックの内容を、トラックとして引率するための作業だと思ってます」
 
■SIMI LABもリリック的にアヴァンギャルドな部分があるし、トラックも強烈なのに、リリックが入って来るのはそれ故なのかと思いました。
「だから、リリックやブックレットは絶対付けてほしいって思ってるんですよね。CAMPANELLAはブックレットにリリック付いてなかったけど、webにアップするって言ってて。KANYEの『YEEZUS』の面白さって、それもあると思うんですよ。このリリックでこのトラックだっていう相乗効果が絶対にあると思う。だから、ハナから歌詞が面白くない作品は、頑張ってもどうしようもないなって思うんですよね」
 
■当然だけど、リリックも作品として、サウンドとして重要だと。その意識はどこで生まれましたか?
「やっぱり、間近にマキュウがいたからだと思いますね。マキュウは歌詞あってのグループだし、マキュウこそ、リリックをどう聴かせるかに腐心してますね。だから、音的には不自然であっても、必ず聴かせたいポイントは、音を抜いたりもするし」
 
■リリックを優先させる、と。
「石田さんのアルバムは、その髄を形にしてると思いますね。(歌詞を立てるというのは)それってニュー・ミュージックの発想かなとも思うんですけど、でも、そっちの方が絶対面白いと思うんですよね。自分のところにはリリックが面白い人が来るから、そうなるって部分もあるけども。ただ、去年なのるなもないを手がけたときは、やっぱり言葉が強いから、そこに寄せすぎると流石に音がないがしろになるなと(笑)。それで半分ぐらいにセーブしたりもして。だから、ケース・バイ・ケースではあるんですが」
 
■ツボイさんのエンジニアを手がけられる作品は、基本的に音の分離が良いと思うんですが、それは言葉を立てるためですか?
「いや、それはまた違った部分ですね。その部分は、昔のロックが好きだって部分から来てるんですよ。昔のロックの疑似ステレオとか、パート毎にやたらとLとRに音を振っちゃってるのが好きなんですよね。辺境の作品も、そういうのが多かったりして。PC環境で聴いてたりしてる人には嫌がられるんだけど」
 
■スピーカーがちゃんと左右に立ってたり、音の配置がちゃんと分かるヘッドフォンで聴かないと、それは分からないですからね。
「ドラムが真ん中にあるよりも、やや右か左にいてほしいし、ヴォーカルもどっちかに寄ってるのが好きなんですよね」
 
■GO FORCEMAN“COMBO”なんて、とにかくベースもドラムも寄ってますよね。元ネタ自体が寄ってるのかもしれないけど、寄せないでまとめることは、エンジニアリングで出来るわけで。
「だから、音像うんぬんよりも、単純に寄ってるのが好きっていう(笑)。それから、寄らせることで出てくる、楽器ごとのサウンド感っていうのもあるし、ヴォーカルだったら、際立たせたい部分だけをあえて寄らせて、そこを耳に残らせるようにするとか。もしクラブでかける場合に、それが際立っちゃって他の曲とのバランスが悪いんだったら、CD/パッケージとは別に、クラブ用のミックスもしますよ。現にアナログ盤とCD盤はミックスを変えてるし」
 
■機能性によってもミックスを変えるんですね。クラブのお話でそのまま伺うと、ツボイさんはDJもされますが、DJはどういう感覚ですか?
「クラブ・プレイは基本的に断ってるんだけど、『これで最後だよ』って言いながら何回かやってますが(笑)。でも、普通の人とは感覚が違うでしょうね」
 
■それは、あの凶暴すぎる動きを見ていると非常によく分かります。DJ YANATAKEさんに伺ったところによると、「このレコード6万円!」って宣言した後に思いっきりスクラッチしながら、「うおー!もったいねー!」と叫ぶという、スゴすぎるプレイがあったと伺いました。
「ハハハ、あったかも。“COMBO”の元ネタのレコードも、最近海外のコンヴェンションで出てたときは、25万ぐらい付いてたんですが、最近、そのオリジナル盤を持ってDJに行ってて……」
 
■それは……色んな意味で怖すぎます!
「危なすぎて自分が怖い(笑)。あのレコードをオリジナルで持ってるのは、日本で二人ぐらいしかいないはずだから、割ったらひとりになってしまう(笑)」
 
■ECDさんとのライヴだと、“ROCK IN THE POCKET”のトラックをLEE DORSEY“FOUR CORNERS”の二枚使いで構築されますが、あれも相当割られてますよね。
「最近は使ってないんだけど、それでもいつ使うときが来てもいいように、常時10枚以上買い揃えてますね(笑)」
 
■話はまたエンジニアに戻りますが、ラップやトラックでエンジニア作業をして興味深いと思ったのは?
「ん~……、今はとにかくOMSB(SIMI LAB)ですね。彼のソロもそうだし、新しいトラックが出来るとたまに聴かせてくれるんだど、とにかく、聴いたらみんなひっくり返ると思いますね、ヘヴィすぎて。『どうラップ乗っけるんだろう』ってトラックなんだけど、とにかくスゴい。最近の彼のトラックは、音だけ聴いたら、完全にインダストリアル・ノイズみたいなサウンドもあったりするし。でも、彼の場合は、ラップを載っけることで、そのヘヴィなトラックがポップになるんですよね。だから、ジャンルとしてどう分けていいのか分からないけど、とにかくスゴい」
 
■そういうサウンドに出会うとワクワクしますか。
「間違いない。これはヤバい……って。ヤバいっすよ、ホントにオムスは。メモリー・スティックに何百曲ってストックしてて、とにかくトラックは山ほどある。しかも、その全部がとにかくヤバい。しばらく人と接しないで、とにかく音楽ばっかり作ってる時期があったみたいで、そういう時間があった人って、独特の“強み”があるなって思いますね。だけど、ただ閉じて作るんじゃなくて、篭って作るんだけど、その先に開けた世界を意識してる人は、より強い作品を作れますよね。それがオムスの強さだし、あそこまでスゴいと、ぐうの音も出ない。今の究極はオムスかなって思いますね。それから、やっぱり石田さん。54歳であのサウンドとラップをやってる人なんて、世界でもいないでしょ。石田さんなんかが象徴的だけど、どこのシーンでも通用するし交わるけど、それでもブレない人が、やっぱり印象的ですよね。しかも、そういう人は残りますから」
 
■このインタビューでもお名前が出た人だけでも、DJ PMXさんやD.O.Iさんなど、第一線で活躍されていますからね。
「そう。黎明期からの人が、まだ現役じゃないですか。だって『VESTAX ALL JAPAN OPEN DJ BATTLE』第2回コンテストではGALAXYとぶつかってますからね」
 
■現RHYMESTERですね。
「まあ、余裕で勝って優勝しましたけど。……って言うと、いつも『余裕じゃなかったでしょ!』とRHYMESTERは怒る(笑)。それで、優勝商品のVESTAXのミキサーを速攻売りに行って、Technicsのターンテーブルを買いに行ったのも良い思い出ですね」
 
■ちなみに、ターンテーブルは何台お持ちですか?
「自宅だと各部屋に1台ずつ、計5台ありますね。スタジオにも結構あります。でもSP盤がかけられるMK4が1台しかないんですよね」
 
■“各部屋”というのが痺れます(笑)。ツボイさんは独自でレーベルを立ち上げられたりはしないんですか?そうすると、ツボイさんの完全ディレクション、A&Rという作品も生まれると思うんですが。
「興味はあるし、ノウハウも分かるんですが、例えばSIMI LABみたいに、ミックスからエンジニアから、全部を振ってくれるパターンの仕事が最近は多いんで、そうすると監修的な立場で携わることになるから、結果としては同じになるのかなって。しかも、やりすぎても怒られない人が、そういう話を振ってくれるんで、ちょっと満足してる部分がありつつ。ただ、自分が手がけて、軌道に乗りすぎてる人を外すのも、乗ってない人を乗せるのもどっちも面白いなと思うんで、興味自体はありますね」
 
■全4回と、非常に沢山のお話を訊かせて頂きました。ありがとうございました。最後に、トラック・メイカーやエンジニアを目指す人にコメントを頂ければと思います。
「宅録的な構築の仕方や動きの人は、自分の中だけで、システム的な部分だったり、発想的にも完結してしまってる人が多いと思うんですね。もっと色々膨らまして、それを外に持っていく--それはマインドも含めて--っていうことを、もっと門戸を開放させるようなことが出来ればと思いますね。そういう部分でも、間口を広く取るような『別のやり方』を知りたかったり、単純に手法的な部分でも知りたいことがあれば、都立大RINKY DINK STUDIOに問い合わせて、ツボイ・ルームを予約して頂ければ、いつでも教えますよ(笑)」
 
 

RELEASE INFO
キエるマキュウの“ベスト盤”がリリース!

 キエるマキュウ初となるベスト盤「明日に向かって撃て!」。「これまでの作品持ってるし、ベストだから買わないていいか」なんてもしかしたら思ってしまっているリスナーもいるかもしれないが、このベスト盤、既発曲の寄せ集めのようなモノでは当然のことながらまったくありません。
 資料によると「選曲は、あの世からマキ・ザ・マジックが、この世からはCQがそれぞれ深い瞑想と神通力によって選んだ珠玉の作品ばかり」というマキュウの名曲群を、Illicit Tsuboiがリエディット/リトラック・ダウンするということで、こんなに一筋縄でいかないベスト盤は世の中に存在するのかと言う程の変貌ぶり。
 もちろん、全てがガラッと変わっているわけではないが、「HAKONIWA」収録の“Meteor”でさえこれだけ新たな展開を見せるのだから、過去作は推して知るべし。それを超えても、音像の立体感や、薄皮が一枚剥がれたようなリマスターによるサウンド感によってマキュウの真の姿が見えるかのよう。その意味では、マキさんが「またツボイ君がやり過ぎちゃってさー」とニコニコしながら語ってくれるような作品なのかも、と勝手ながら感じる作品だ。

 

Illicit Tsuboiプロフィール
1970年生まれ。KCDとのタッグを組んだDJユニット:GOLD CUTでの活動を皮切りに、A.K.I. PRODUCTIONSとしてアルバム「JAPANESE PHYCHO」のリリースなどを展開。以降、キエるマキュウへの参加や、Libra Recordsの諸作、RHYMESTER「ダーティーサイエンス」でのプロデュース・ワークなど、トラック・メイカーとして数々の作品をプロデュース。
国内屈指のロック/HIP HOP系サウンド・エンジニア、サウンド・クリエイターとしても活躍し、ECDとの共作とも言えるアルバム制作や、SIMI LAB、CAMPANELLAなど、ニュー・カマーとの作品制作にも積極的に関与。また、二階堂和美やMANGA SHOCK など、ポップ/ロック系まで、アンダーグラウンド/オーヴァーグラウンドを問わず、幅広いアーティストを手がける。
DJとしてもかせきさいだぁのバックDJを90年代には手がけ、00年代以降も、ECDやキエるマキュウのDJとして活動。「ステージにて観客をアジったり、ターンテーブルを破壊したり火をつけたり、度の過ぎたヴァイナル愛によってレア盤を割ってしまったりと、異様なまでの存在感を見せつけるライヴDJとしても有名」と、オフィシャルのパーソナル・データには書かれているが、その説明に間違いはない。国内屈指のレコード・コレクターでもある。

 
 

Pickup Disc

TITLE : 明日に向かって撃て!
ARTIST : キエるマキュウ
LABEL : 第三ノ忍者
PRICE : 2,700円
RELEASE DATE : 7月16日