いぶし銀の仕事を正当に評価する法(その2)
声の大きさに惑わされてはならない
派手ではないが組織に不可欠なプロフェッショナル「いぶし銀」の人々を組織につなぎ止めておくには、ありきたりのインセンティブではおそらく役に立たない。彼らは人前に出たがらないし、ことさら自分をアピールするのを恥ずかしいと思うため、経営陣やマネジャーはまず、自らの先入観よりも多いかもしれないという想定の下、彼らを具体的に特定すべきである。「いぶし銀」も他の人と同じように高報酬を歓迎するとはいえ、彼らの流出を防ぎたいなら、カギを握るのは内的な報酬である。
自己宣伝という雑音が「いぶし銀」を覆い隠す
「いぶし銀」のマネジメントがなぜ一筋縄ではいかないのか、明確になりつつあるのではないだろうか。同僚ひいては仕事全体の成果向上に人知れず貢献する「いぶし銀」は、組織にとってかけがえのない存在である。ただし、彼らが離れていくのを防ぎ、最大限に力を発揮してもらうためのカギは、他の人材の動機づけ要因とは異なる。これはいまの時代ならではの課題かというと、実は古くて新しい課題である。
「いぶし銀」はいつの時代にも存在し、多くの場合、組織や集団行動に欠かせない役割を担って繁栄に貢献してきた。にもかかわらず経営層からは十分に配慮されずにいる。それも無理からぬことではあるが、従来の人材評価は主に目に見える指標や手がかりに基づいているからである。
その一方で、「いぶし銀」がいままでにない課題を生み出しているのも事実である。彼らは、特殊な人材層としてとらえ、呼び名をつけて考慮の対象とするに値する存在なのだ。なぜなら、自己宣伝が盛んな現在、彼らは以前にも増して例外的な存在となっているばかりか、かつてないほどに存在意義が高まっているからである。
もし過去に彼らに大きな価値を見出せず、そのニーズをも見過ごしていたならば、他の人材が自分の立場をよくしようという野心をギラつかせる近年の状況下では、経営者が「いぶし銀」に注意を払い損ねるおそれはいっそう大きいはずである。自分を売り込む風潮が盛んになったせいで雑音が増え、手腕と実績に裏打ちされた静かなシグナルに気づきにくくなっているのだ。
「注目されたい」という願望の強さは昔から人によってまちまちだが、現在では注目を引く手段を持つ人の数は格段に増えている。1000年前の農民も名声を望んだかもしれないが、一介の農民になす術などほとんどなかっただろう。
しかし、時代とともにテクノロジーが進歩し、願望の実現に向けて行動を起こすうえでの追い風となった。印刷機の発明以来、新たな通信手段が誕生するたびに、自己宣伝の効果が増大し、コストは低減してきた。いまやインターネット、とりわけソーシャル・メディアによって、世のなかの注目を集めるためにみずから発信し、その声を拡大していくことが可能になった。
しかも、ソーシャル・メディアは、人々の願望を強めるような習わしを生み出した。「いいね!」の数やフォロワー数など、影響力や人気度を測る目に見える指標を備えているのだ。投稿の質よりも、「いいね!」やリツイートの数といった、数字に表れる反響の大きさが重視されるのだ。
〈グーグル〉で“how to make meme go viral”(情報をネット上で急速に広める方法)を検索すると、100万件を超える膨大な情報源の迷宮が現れる。〈ミームクラッシャー・ドットコム〉(memecrusher.com)、データ・サイエンティストたちの調査結果を紹介する〈ビジネス・インサイダー〉などのサイトからの抜粋ニュース、『なぜ「あれ」は流行るのか?』といった書籍……。どれもが「秘訣を解き明かした」と謳っている。このようなサイトの主な関心は、ブランドや製品の販促や宣伝広告にあるが、その陰にはたいてい「最も重要なのはあなた自身のブランドです」というメッセージが潜んでいる。
これは「いぶし銀」にとっては不穏なトレンドである。私が自著の企画書を持ってある出版社を訪れた際、面会した編集者は、上司から「知名度を上げるために」ブログや〈ツイッター〉を始めてはどうかとしきりに勧められる、と憤然とした様子で話してくれた。「私は編集者よ。はっきりしているでしょう、裏方に徹するのが仕事だと」
マサチューセッツ工科大学イニシアティブ・オン・テクノロジー・アンド・セルフのディレクターにしてAlone Together: Why We Expect More from Technology and Less from Each Other(一緒にいても1人)の著者、シェリー・タークルは、多くの人は自分ブランドの構築に躍起になって自意識過剰に陥ると、不安や孤独を強め、幸福感を失うと説く。
私の取材に対して、自身の研究を基にこう語ってくれた。「私たちは、考えや感情が浮かぶそばから、それをだれかに伝えて、自分の価値を確かめるようになりました。すると困ったことに孤独に耐える力、つまり自分を奮い立たせる力が身につきません。この力がなければ、他者に頼らなくては『生きている』という実感が得られなくなってしまうのです」
企業や学校は長らく、「すべてを分かち合おう」という外向的な気質を称賛してきた。しかし、無数の研究者や著述家が指摘するように、多くの人が最も高い成果を上げるのは、1人で仕事をした時なのである(スーザン・ケイン著の大ベストセラー『内向型人間の時代(注2)』にも同様の指摘がある)。ブレーンストーミングや仕切りのない大部屋タイプのオフィスは、効果的だとして盛んにもてはやされているが、優れた業務成果にはつながらない場合も少なくない。むしろ私たちの注意を、最も声高に自己主張を行う人に向けさせるだけである。
「いぶし銀」たちの控えめな人柄と、徹底して仕事に打ち込む姿勢は、あらゆる雑音の対極にあるものだ。一部の組織にとっては、雑音を跳ねのける役割をも果たすことになるだろう。
- 第2回 いぶし銀の仕事を正当に評価する法(その2)声の大きさに惑わされてはならない (2014.08.12)
- 第1回 いぶし銀の仕事を正当に評価する法(その1)声の大きさに惑わされてはならない (2014.08.11)