August 12, 2014
先月、リベリアでエボラ出血熱に感染した2人のアメリカ人医療従事者、ケント・ブラントリー(Kent Brantly)医師とナンシー・ライトボル(Nancy Writebol)氏に、臨床試験を経ていない治療薬が投与された。感染が拡大する西アフリカで未承認薬を使用する是非をめぐって議論が巻き起こるなか、新たな疑問が生まれている。
今回2人のアメリカ人に薬が投与されたことで、人々の関心は、「未承認薬を使うべきか」をすでに通り越し、「なぜ病気に苦しむアフリカの人々ではなく、アメリカ人に投与したのか」に移行している。また、エボラ対策に従事し、“国民的英雄”と呼ばれるシエラレオネ唯一のウイルス学者、シーク・ウマル・カーン(Sheik Umar Khan)医師は、薬の投与が行われる数日前に感染によって亡くなっているが、なぜ彼に薬を与えなかったのかという疑問もわき起こっている。
世界保健機関(WHO)は、8月11日、倫理学者や西アフリカ諸国と市民組織の代表を交えて電話会議を開き、未承認治療薬の使用に関する・・・
今回2人のアメリカ人に薬が投与されたことで、人々の関心は、「未承認薬を使うべきか」をすでに通り越し、「なぜ病気に苦しむアフリカの人々ではなく、アメリカ人に投与したのか」に移行している。また、エボラ対策に従事し、“国民的英雄”と呼ばれるシエラレオネ唯一のウイルス学者、シーク・ウマル・カーン(Sheik Umar Khan)医師は、薬の投与が行われる数日前に感染によって亡くなっているが、なぜ彼に薬を与えなかったのかという疑問もわき起こっている。
世界保健機関(WHO)は、8月11日、倫理学者や西アフリカ諸国と市民組織の代表を交えて電話会議を開き、未承認治療薬の使用に関する倫理的影響について話し合った。
◆不足する臨床試験前の治療薬
投与された「ZMapp」と呼ばれる薬は、ごくわずかな量しか製造されていない。したがって、治療が施される人数も限定されると米国立衛生研究所の国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)所長、アンソニー・ファーシ(Anthony Fauci)氏は話す。米国保健社会福祉省(HHS)の生物医学先端研究開発局(BARDA)によると、少量を生成するのに3~4カ月はかかるという。
米サレプタ・セラピューティックス社のCEO、クリス・ガラベディアン(Chris Garabedian)氏は、政府による支援の打ち切りでエボラ治療薬の開発を棚上げしていたが、20~30人には施せる分量の薬を提供するつもりだと、投資専門週刊誌「Barron's」のインタビューで語っている。
人間を対象にした臨床試験を唯一行っているテクミラ・セラピューティック社は、治療薬を提供する準備ができていると話すが、詳しい分量や生成にかかる時間についてはコメントを避けている。
エボラに感染したごく少数のサルで試された治療薬だが、その使用は果たして倫理的に正しく、安全だろうか?
過去の教訓によれば、霊長類を対象にした臨床試験済み薬剤のすべてが安全というわけではない。2006年、白血病や関節炎の治療に開発された「TGN1412」と呼ばれる合成抗体を6人の健康なボランティアに投与したところ、全員が意識不明の重体になった前例がある。
問題は薬の安全性だけに留まらない。エボラ出血熱が発生するたび、人々の間に敵意や疑心が生まれ、感染拡大を抑える動きが阻止されてしまう。
感染が疑われる人は、隔離しようとする医療チームにしばし抵抗する。地域の人々も病人をかくまう傾向にあり、感染がさらに拡大してしまう。治療薬が無く、致死率が高い状態では、医療チームが臓器を得るために病気を広げているという噂が横行する。
有効な治療薬が手に入れば、このような問題はなくなるだろうと医療従事者は期待を寄せている。
◆貴重な薬を得るのは誰か?
もし数人の患者にしか治療薬が与えられないと知ったら、その他大勢の患者はどのような反応を示すだろう。国境なき医師団をはじめとする医療従事者は、安全でいられるだろうか。
ジョージタウン大学医療センターのペレグリノ臨床生命倫理研究所の所長、ケビン・ドノバン(Kevin Donovan)氏は、「医療従事者を優先して薬を投与するのが理にかなっている。もし彼ら全員がいなくなれば、患者に治療も施せない」と語る。
また、将来的な再発に向けて世界中で準備態勢が整えられるよう、治療薬の実質的効果と理由が特定されるような方法で試験的に投与しければならないと同氏は提言している。
シャーロッツビルにあるバージニア大学の抗ウイルス薬の専門家で、WHOの相談役を務めているフレデリック・ヘイデン(Frederick Hayden)氏は、「われわれに必要なのは、治療の実施要綱、倫理審査、規制、そして輸入許可である。これらすべてが適切に準備されなければならない」と話している。
Photograph by Cosmos / Redux