一
日向「なあ、提督」
提督「なんだ?」
日向「ひゅうが型対潜航空機支援警備艦って、今は何処に居るんだ?」
提督「ああ…、全同型艦は沈んだよ」
日向「そう、そっか…」
提督「安心しろ。あいつは最期まで私達の為に活躍してくれた」
「少しだけ、聞くか?」
日向「ああ」
提督「…あいつは凄かったよ。小笠原諸島沖海戦でな…。撤退時に何が何でも司令部がある旗艦のひたちは守らなくちゃ、って時にあえて囮として突出する事になってな。それでもロクマルがばんばん敵潜水艦を見つけては、其れを元にひゅうがが次々に撃沈したんだ」
日向「そうか、…ロクマルってなんだ?」
提督「SH-60Kという対潜哨戒回転翼機だよ。ほら、いずもから出撃した時に乗っただろう」
日向「あの時の不思議な航空機か…」
提督「懐かしいな…。其の後艦長が一緒に逝くと言って聞かないから私達が無理やり退艦させようと格闘してな。そんで挙句の果てには、皆でくすぐりまくって艦長が涙を流しながら笑って退艦したんだ」
日向「…そうか」
提督「結局は敵潜水艦14隻、航空機17機を撃破して、そんで急いで艦長をむりやり乗せて私達が最後に退艦した数分後に一気に爆発して果てたんだ。」
「それが…まるで、総員が退艦するまで何としてでもひゅうがが耐えてくれたように思えてな」
日向「そうだったのか…」
提督「日向」
日向「なんだ?真剣な顔をして」
提督「お前は沈むなよ」
日向「なんだ…当然だ」
提督「あの時、何故か家族を喪ったような感じがしてな。まあ、半年ぐらいしか乗艦していなかったんだが…」
日向「安心してくれ。その気持ちは分かるぞ」
「私の中にはそういうものが沢山遺っている。私を構成するものは彼らと不可分だ」
提督「…?」
日向「…なんでもない。」
「なあ、提督聞いてくれるか」
提督「ああ、構わんよ」
日向「実は…な、私にとってひゅうがは、ある意味憧れなんだ」
提督「それは、なぜ?」
日向「あの時、既に時代遅れとなった旧式戦艦…、其れが私達伊勢型戦艦だった」
「そんな私たちがまさしく時代の寵児たる空母になれると思ってな。いや、正確には今思い返すとそう感じるんだな。あの時は、まだ心がなかった」
「兎も角、其れが堪らなく嬉しかった。でも戦局は厳しすぎた。空母と戦艦の間、歪な存在の航空戦艦、そして囮を演じた」
「私たちは結局輸送艦として、そして最期は予備艦としてしか役に立てなかったんだ」
「だから、ある意味私達のように中途半端に警備艦としての能力を有していて、それでいて完璧ともいえる私達の子が私にとってはある種の希望の様に見えてな」
「自分でも、可笑しな事を言っていると思う…。だがそんな感じだったんだ」
提督「済まなかったな。あいつを帰せなくて」
日向「いや、いいんだ。第一、私達は君達の為に在るんだ」
「提督…、君の指揮下に居れて本当に良かったよ」
提督「…有難う」
「なんだか湿っぽくなってしまったな。出撃間近だというのに」
日向「私も少し喋りすぎた…」
提督「よしっ、英気を養う為に皆で間宮に行くとしよう!」
日向「それはいいな」
菊月「…ここにいたのか」
提督「おお、菊月、丁度良かった。他のみんなも呼んでくれ。間宮に行くぞ!」
菊月「わかった…」
(了)
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