なぜ、私たちは無駄なく働くことができないのでしょうか?そしてなぜ、私たちはやりがいをもって働けないのでしょうか?驚くことに、どんなに優秀な企業も同様の問題を抱えていると、500以上の会社をコンサルティングしてきたイブ・モリューは語ります。
その原因は、企業の組織運営にありました。今まで有効だと思われていたアプローチはすべて、現代の複雑な企業には効果がないのです。そこで彼が提唱するのは、たった6つのシンプルなルール。いったいどのようなものなのでしょうか。
ここでは、企業が徹底すべき6つのルールをイブ・モリューが紹介したTEDのプレゼンテーション動画、「複雑化する企業環境、6つのスマート・ルールでシンプルに」を書き起こしていきます。
スピーカー
イブ・モリュー/ボストンコンサルティンググループ シニア・パートナー
見出し一覧
・生産性とやりがい。2つの問題には共通の原因があった
・「ハード」と「ソフト」で考えるのはもう古い
・ハードへのアプローチは、複雑さを加えるだけ
・複雑な組織に求められるのは、命令系統ではなく「協力」
・6つのスマート・ルール
動画
生産性とやりがい。2つの問題には共通の原因があった
私は、ここ何年も2つの謎を解明しようとしてきました。1つは、なぜこんなに生産性が落ちているのか?仕事の生産性は確実に落ちています。それも私が仕事をする500社以上の会社すべてで起こっています。コンピュータ、IT、テレコミュニケーション、そしてインターネットといった技術の進歩あるにもかかわらずです。
2つ目の謎は、なぜ仕事にやりがいが持てないのか?なぜ従業員は打ち解けず、場合によっては関わることすら避けてしまうのでしょうか。上司ならまだしも、同僚からも距離を取っています。これは会社の利益を大きく下げています。親睦会や祝賀会、管理者向けのリーダープログラムまで用意されているにもかかわらず、この結果です。
当初、これらの問題は、「鶏が先か卵が先か」の問題だと思っていました。やりがいがないから生産性が低いのか。それとも、生産性が低いからプレッシャーをかけられやりがいがないのか。でも、分析を進めるうちに2つの問題には共通する根本的な原因があることに気付きました。
「ハード」と「ソフト」で考えるのはもう古い
その要因は、経営の基礎にも関わるものです。企業というものは2つの柱で成り立っています。組織やプロセス、制度を指す「ハード」と、感情や人間関係、性格を表す「ソフト」です。会社が組織再編や改革をするときは、必ずこれら2つの柱を対象とするわけです。それらを洗練したり組み合わせようとするわけです。
真の問題は、ハードとソフトという2つの柱は時代遅れだということです。これが冒頭の2つの謎の答えでもあります。多くのビジネス書では、いずれかの柱、または両方を変えようと考えているから時代遅れなんです。
ハードへのアプローチは、複雑さを加えるだけ
これらのアプローチを、複雑になった今の企業に使ったらどうなるでしょうか?「ハード」へのアプローチはたいてい戦略要件、組織構造、プロセス制度、KPI、実績表委員会、本社、ハブ、クラスターなどから始めるわけです。マトリクス、インセンティブ、委員会調整組織、インターフェイスなんかの場合もありますね。
この左側(編集者注:上図参照)で何が起こっているかと言えば、ビジネスにさらに新たな複雑さが加えられています。品質、コスト、信頼性、スピードも必要になりますが、こうした新しい要件が追加されるたびに同じアプローチを使っています。それを専門に行う組織や制度を作り、その新しい複雑性に対処させます。ハードのアプローチは単に組織を複雑にするだけです。
例をあげてみましょう。ある自動車メーカーの技術部門が5次元マトリクス組織だとしましょう。そのマトリクスのマスを1つ開けると、さらに20次元マトリクスが出てきます。騒音担当燃費担当や衝突防止部材担当などです。新しい要件が追加されるたびに専門の部署を作り、その新しい要件と技術者を調整させます。
新しい要件が出てくるとどうなるのでしょう?自動車メーカーでは、数年前から新しい要件が重要視されるようになりました。それは「保証期間の延長」です。ここで重要なのは「修復性」、つまりはどれだけ簡単に車を修理できるかです。例えば、ライトの修理がしたくても、エンジンを外さなければライトに触れない場合はどうでしょう?2時間で直るはずのライトの修理が1週間もかかり、しかも予算も莫大になってしまいます。
ハードへのアプローチとは、どのようなものでしょうか?それは、修復性という新しい要件に対して新しい機能を作ることでした。つまり、担当者を置くわけです。修復性担当は何をするかと言うと、問題なく修理するための工程を作り、修復性の評価指標、修復性を推進するためのインセンティブを定めます。
これを徹底するとどうなるでしょうか?他の25のKPIを抑え、修復性の優先度がトップに躍り出ます。変動報酬制でどれくらい影響を受けるかと言えば最大で20%で、それを26のKPIで割れば修復性に相当するのは0.8%です。
それによりどう行動が変わるでしょう?簡素化する選択は?何も変わりません。でも何の影響もないことに修復性担当を置き、プロセス成績評価を作り、他の25指標の担当とも連携します。何の効果もないことにです。