イチローがウェイバーにかけられたのに、どんな意味があるのだろうか?

イチローがウェイバーにかけられたのに、どんな意味があるのだろうか?

ヤンキースは強打の外野手を求めている?イチローがウェーバーにかけられたことが意味するものを考察してみたいと思います。

現地時間8月8日、『ニュヨークポスト』紙はイチローと控え内野手のブレンダン・ライアンがウェーバーにかけられたと報じました。ウェーバーとは「権利放棄」を意味します。ウェーバーにかけた球団は、対象選手に他球団から獲得の意思表示があった場合、①残契約ごと譲渡、②トレード、③手続きの取り下げ(1度のみ可能)、のどれかを選択します。また、獲得の申し出がなかった場合は、その選手を④8月31日までに自由にトレード、⑤マイナー降格、⑥自由契約、⑦手続き前の状態に戻す、を選択することになります。

日本のファンの間ではウェーバーは事実上の戦力外通告であるDFA(Designated For Assignment)の後に取られる手続きとしてのイメージが強いため、この報道にギョっとされた方もおられたのではないでしょうか。実際には7月31日のトレード期限を過ぎた時期のウェーバー公示には、a)単純に戦力外として放出する、とb)トレードする(またはその可能性を測る)の2つの目的があることがお分かりいただけたと思います。

それでは今回のイチローの場合の目的はどちらでしょうか?

まずa)は考えにくいところです。なぜなら、現在ヤンキースの25人枠の中には外野手はカルロス・ベルトラン、ジャコビー・エルズバリー、ブレット・ガードナー、そしてイチローの4人しかいないからです。ここ数試合はこの4人で3つのポジションとDHを占めており、控えがいない状態です。実際にはマーティン・プラド(登録上は内野手)もいるのですが、ここ数試合はチームの事情で三塁を守っています。プラドが外野に戻ってくるとイチローはバックアップとなる可能性が高いのですが、それでも控えはイチロー1人です。イチローを除く外野手4人にも休養日は必要ですし、故障の懸念もあります。そうなると、常に健康体を維持し守備も走塁も優れているイチローは貴重な存在で、容易に手放すことはできません。また、8月上旬の時点でイチローの今季の契約残額は約185万ドル。控え選手の2ケ月分としては相当高い金額ですが、超リッチなヤンキースにとって負担となるレベルではありません。

そうなるとb)ということになります。ヤンキースはライトを任せるつもりでプラドをダイヤモンドバックスから獲得したのですが、ここまで(8月10日時点)はOPS.553といまひとつです。したがって、ウェーバー経由でのスラッガーの獲得を狙っている可能性は十分あります。この場合、フィリーズのマーロン・バード(現在22本塁打)、ツインズのジョシュ・ウィリンガム(11−12年計64本塁打)、レンジャースのアレックス・リオス(現在打率.294)らの優勝の可能性がない球団の強打者が候補と言えるでしょう。そして、内外野とも守れるプラドを控えとするなら、戦力的にも登録枠上もイチローは浮いてしまいます。しかし、この場合もイチローが彼らの直接の交換相手とは考えにくいところです。ペナントレースが佳境を迎えるこの時期にイチローのような選手を求めるのは、優勝の可能性がなく若手に切り替えていくべき上記の球団ではなく、ポストシーズン進出を確実にするために戦力に厚みを付けたい強豪球団だからです。

今回のウェーバー公示が即トレードを意味するものではないでしょうが、ヤンキースが外野手の獲得を狙っているのはほぼ間違いないと思います。そうなった時に即イチローを、どの球団に対しても速やかにトレードできるよう、まずは一旦ウェーバーにかけておいた。これが実態ではないでしょうか。

なお、本件に関し気になることがあります。ウェーバーにかけることは本来非公開で行われることです。球団は本人にも告知の義務はありません。それが今回のようにマスコミに漏洩してしまうのは決して珍しいことではないのですが、軽はずみ(だったかどうかは不明ですが)にメディアに漏らした球団フロントのモラルは問われるべきでしょう。

また、日本のファンはウェーバーを必要以上にネガティブな感情を抱く必要もないと思います。メジャーでは結構軽く?ウェーバーを利用し「商品価値」を値踏みするものです。かつてレッドソックスは全盛期のマニー・ラミレスをウェーバーにかけましたし、メッツのカーティス・グランダーソンもつい先日ウェーバーにかけられたようです。

photo

豊浦 彰太郎
1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小 学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:shotaro.toyora@facebook.com

お知らせ

◆田中将大のレギュラーシーズン先発試合を全試合生中継!
開幕からポストシーズン、ワールドシリーズまで中継!
田中将大、ダルビッシュ有、黒田博樹、岩隈久志など日本人投手先発試合を徹底放送します。
≫特集ページを見る
≫詳しい放送予定を見る