雨期を迎え、ムッとした空気に覆われた6月のフィリピン。スラムとオフィス街が混在するマニラ首都圏郊外のビルに、世界中のサイバー攻撃を監視する“最前線の基地”はあった。
情報セキュリティー会社「トレンドマイクロ」(東京)のフィリピンラボ。「アンダーグラウンド(闇社会)」を渡り歩く潜入調査員と呼ばれるスタッフが日夜PCに向かう。
その一人、フィリピン人技術者のライアン・フローレス(32)は犯罪者が情報交換に集まるインターネットサイトにおもむろにアクセスした。「サイバー攻撃に使えるマルウエア(ウイルスなど悪意あるプログラム)を探している」。ハッカーを装い新手の攻撃を探り出す。
同社の潜入調査員は全世界に22人しかいない精鋭たち。高度な解析技術、犯罪者との交渉能力はもちろん、国ごとに異なるネットスラング(隠語、造語)を使いこなし、ときには犯罪者になりすます。卓越した技能を持つ限られたエリートなのだ。そんなフローレスにも背筋が凍りつくような経験があった。
数年前の冬。ある犯罪グループが使うサーバーを突き止めた。ネットから侵入しデータを探ったが、有益な情報がない。
理由は一つの画像ファイルを開くと分かった。現れたのはクリスマスカード。その宛名にこう書かれていたのだ。
「Ryan Flores(ライアン・フローレス)」
秘密裏に侵入していたつもりが見抜かれ、素性まで調べ上げられていた。これ以上うろつくな、という「恫喝(どうかつ)」だった。
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