『Divekick』
ジョークに殺されかけたポテンシャル

『Divekick』
ジョークに殺されかけたポテンシャル

By Hikaru Nomura on August 11, 2014

注目を集めた
Divekick専用コントローラー。

対戦アクションゲーム『Divekick』をジョークソフトとして一蹴(Divekick!)するのは簡単です。しかし、そこに秘められた輝きを目にせず蹴り飛ばすのは早計かもしれません。本作は2013年08月21日にsteamでリリースされており、現在の対応プラットフォームはPC(Windows)/PS3/PS VITA。価格10ドルです。

「2ボタン格闘ゲーム」「レバーなし」「10億ダメージ」とうたったセンセーショナルなティザームービーを始め、積極的なプロモーションを展開して格闘ゲーマーだけでなくジャンル外のゲーマー、つまり新規層の注目を集めました。

 

 

本作タイトル名である「Divekick」、日本での通称「雷撃蹴」は始祖『スト2』からある人気技だ。さまざまなタイトルで登場する。ちなみに、この中に一つ間違いがある。格闘ゲーマーならばおわかりだろう。
(一部画像は動画投稿サイトより転載)

 

 


濃縮した格闘ゲーム体験

 

「敵を踏んで倒す2Dジャンプアクションゲームの対戦モード」と紹介したほうが内容を理解しやすいでしょう。本作の操作はジャンプと急降下キックのみ。キックを当てるとラウンド勝利、規定数先取で決着します。面白いことに、地上では歩いて横移動ができません。そのため、お互いにキックを当てようとジャンプを繰り返しながら、占位と機をうかがうものとなります。

 

頭を攻撃するとピヨる。相手は次ラウンドから一定時間動きが遅くなりゲージがたまらない。
さらなる追撃を求めるもよし、フルゲージためてKickFactor(一定時間性能アップ)を狙うもよし。
本作の基本技術「スカ確」。相手の攻撃を
バックジャンプですかし、回避できない相手を蹴る。

 

このプレイ感がジョークソフトという前評判をいい意味で裏切ります。相手との距離を調整し優位をつくる「地上戦」、バックジャンプで攻撃をすかして反撃を取る「スカ確」、特殊技を使うための「ゲージため」といった、格闘ゲームの立ち回りに根付いたものとなっているのです。これはインタビューにもあるとおり意図した設計で、格闘ゲームを「誰でも遊べる」レベルにまで拡張したものとなっています。

時間切れ時の判定も独特なもので、画面中央に近いプレイヤーがラウンドを取ります。画面中央を陣取ると判定勝ちに近づくので、位置取りのリスクとリターンをとりあう駆け引きが発生するのです。相手との位置関係で状況有利をつくり出す格闘ゲームのコツをゲームの勝敗として明確に提示したのは、歴戦の格闘ゲーマーが見ても興味深いでしょう。

対戦アクションゲームとして戸口を広げつつ、格闘ゲームの要素を純化する。ジャンル外のゲーマーと格闘ゲーマーをつなぐ架け橋となりえるのが『Divekick』です。

 

ジャンプとキックだけでなく、ボタン同時押しでゲージを消費する特殊技もだせる。S-Killの地上特殊技はパリィ。本作唯一のガード行動。『ストリートファイターIII 3rd-Strike』のブロッキングと同じようなモーションだ。
このようなパロディがいたるところにある。

 


パロディという甘え

 

周辺機器メーカー「Mad Catz」のMarkManも登場。
海外事情にうといゲーマーは知らないだろう。

しかし、ジャンル未体験の新規層は「格闘ゲームのパロディを満載したジョークソフト」という趣をいかに感じるでしょうか。筆者は、かえって格闘ゲームと新規層の溝を深めてしまったように思います。

アジアアクセントが効いたラウンドコール(筆者のお気に入りです)。格闘ゲームキャラクターとe-Sports関係者のパロディしかないキャラクターデザイン。これらは格闘ゲーマーのあいだでは一発ネタとして通じるのでしょうが、外から見れば内輪臭で近寄りにくいものにしています。

まったく知らなくとも楽しめるなら、内輪ネタはあたたかく迎えられたでしょう。ですが、ジョークとして採用された「チープな見栄え」がその可能性をつぶしました。映像・演出からえられる「キャラクターを操作する喜び」がとぼしく、前述した格闘ゲームのコツを覚える前に飽きてしまうのです。これには、ジョークソフトという客寄せの建前が、十分な量のコンテンツを用意しない言い訳にすげかわったような印象でした。

一番の問題は、ゲームが上達しても「内輪ネタ」の理解にはつながらないことです。ゲームする時間を、EVOをはじめとする格闘ゲーム大会の観戦に割り当てたほうが、本作のコンテンツを味わえます。これでは本末転倒といえるでしょう。

 

スタッフロールに発売前プロモーションビデオのNGシーンが流れる。ほかキャラクターのバックグラウンドを補完するなど、さらなるプレイ意欲を引き出すやりようはあった。

 


「遊べる」ではなく「遊びたい」ゲームであったなら

 

たった2ボタンで格闘ゲーム特有の「空間の奪い合い」を「誰でも遊べる」レベルにまで拡張したゲームシステムは賞賛に値します。しかし、そのシステムはどの層に向けたものだったのでしょうか? 筆者は、新規層に向けたものだと考えます。言い換えると他ジャンルのゲーマーです。内輪ネタとパロディに甘え、ウケねらいでチープな見栄えにした本作で、彼らに「遊びたい」と思わせるのは難しいでしょう。

もし、このゲームが現行の格闘ゲームと同じ品質ではないにしても、それを目指した努力が見える誠実なつくりであれば……本作を通じて新たな格闘ゲーマーが、e-Sportsの新たなスター選手が生まれたかもしれません。

「Divekickで格闘ゲームを始めました」

この可能性を秘めていただけに、ジョークソフトで終わりかねない志の低さが悔やまれます。そう思わせるだけの輝きがたしかにあるのです。

その光のもとへひとりでたどりつくのは難しいでしょうが、格闘ゲーマーの友人に「対戦しようぜ」と誘われたならチャレンジする価値はあります。ボイスチャットでその友人にアドバイスしてもらい、他ジャンルでつちかったゲーム技術を応用し、10億ダメージの必殺キックで格闘ゲームジャンルへの扉を開いてみてください。

 

筆者は30歳で中段が見えず、35歳を越えると対空昇竜が出せなくなった。しかし、本作で「DEATH FROM ABOVE」(上からの死)への対策を学び「この歳でも格闘ゲームは楽しめる」と実感した。